そうだよね
ひだまり童話館 第29回企画「ぬくぬくな話」参加作品です。
雪が降って寒い冬がやって来ました。熊は穴の中で、冬眠していました。そんな中、子供が産まれました。熊のお母さんは子供たちの世話で大変。子供たちは口々に、お母さんの名前を呼んでは眠る。それを繰り返していました。
お母さん熊の子供は二匹。どちらも男の子でした。お母さんはお兄ちゃんに一郎、二番目の子供に次郎と名付けました。一郎はおっとりとしていましたが、次郎はやんちゃでした。
お母さんが寝ている時、次郎はそっと穴の外へ出てみました。すると、そこは真っ白な世界。見たことのない光景に、次郎は驚き、歩き出しました。きゅっきゅっと自分の足音がしました。真っ白い光景は雪です。次郎は珍しくてはしゃぎ回りました。
「わあ、すごい真っ白だ!」
次郎はすっかり雪がお気に入り。そのまま雪で遊んでいましたが、いつの間にか、自分がどこまでやって来たかわからなくなってしまいました。そして、だんだんと寒くなってきました。
「お母さん、寒いよう」
次郎はお母さんを呼びますが、次郎はお母さんのいる穴から遠くまで来てしまっていたのです。戻ろうにも雪が降ってきて足跡を消してしまっていました。
次郎は泣きながらお母さんのいる穴を探しました。
「お母さん……」
次郎が泣いていると、声をかけられました。
「君、どうしたの?」
次郎はその声に振り返りました。するとそこには見たこともない生き物がいました。
「君は誰?」
「ぼくはシマリスだよ」
「シマリス?」
次郎はシマリスを知りません。穴の中で産まれて、初めての外なのですから。
「ぼく、お母さんのところへ帰りたい」
次郎は言いました。
「迷ったの?」
とシマリスは言いました。
「うん。お母さんのいるところがわからない。それに寒いよう」
次郎は泣き出してしまいました。
「お母さんがどこにいるかわからないけど、寒いならこっちへおいでよ」
シマリスに言われて、次郎は着いていきました。すると、白いもやのようなものが見えます。そこは温泉でした。シマリスは温泉に入っていきました。
「こっちへおいでよ」
シマリスに言われて次郎は温泉へ入っていきました。
「あったかい!」
次郎は喜びました。
「ありがとう。ぼくは熊の次郎」
「きみも次郎? ぼくも次郎って言うんだ。お兄ちゃんがいるんだよ」
シマリスは言いました。
「ぼくもお兄ちゃんがいるんだ! 同じ名前なんだね!」
二人の次郎は、温泉でぬくぬくとしていました。そして、シマリスの次郎は帰ろうとしました。
「ぼくは帰るよ」
シマリスの次郎は言いました。慌てたのは熊の次郎。
「待って! ぼく一人でどうしたらいいかわからないよ」
シマリスは困ってしまいました。シマリスの次郎は温泉に来ただけで、また冬眠するのに巣穴へ帰ろうとしたのです。でもこの熊の次郎を置いていくことは出来ませんでした。
「じゃあ、もう少しだけ温泉にいるよ」
シマリスの次郎の答えに熊の次郎は喜びました。そんな時です。
「次郎!」
熊のお母さんが次郎を迎えにやって来ました。
「お母さん!」
「まったく、こんなところまで来て。心配するでしょ。さあ、帰るわよ」
「うん!」
熊のお母さんが迎えに来て、シマリスの次郎も喜びました。
「良かったね」と、シマリスの次郎。
「ありがとう」と、熊の次郎。
二人はあいさつをして、それぞれの家へ帰りました。
熊の次郎はお母さんに、温泉でぬくぬくしたんだよ、と伝えました。
「でも、お母さんのそばが一番ぬくぬくしてる」
次郎はそう言うと、お母さんの横で眠りについたのでした。