82 慕情
国王夫妻に結婚の意を報告し、年明け早々に結婚式を行う予定になった。
そのことを、公爵邸に戻り報告すると、みんな大変喜んでくれた。
「本当に良うございましたね」
「お嬢様、幸せになってくださいね」
「お嬢様、私のことを忘れないでくださいね」
いや、ちょっと待て! まだお式の日まで日にちあるし!
まだ、出ていかないし!
苦笑いする私を見て、鬼軍曹が
「お嬢様、王太子妃としての振る舞いをなさるよう、心がけてくださいましね」
キランと鬼軍曹殿の目が光る。
相変わらず怖いですから……
そして王宮でも、結婚式のことを正式に発表された。
元職場? の王立研究所魔導部員の皆様からも、お祝い? 約一名を除いてだけれども頂いた。
そして今は、その王立研究所魔導部員の皆様に「お祝いパーティー?」に私は呼ばれている。
そう、何故か私は白衣を着せられ、何故か? 天秤で粉薬を計量している。
何故こうなった?
正式に「結婚式」の日程が決まった為、各所から毎日のように、お祝いの品や、お花などが公爵邸に贈られて来ていた。
その中に「王立研究所魔導部」からのお祝いもあり、そのお礼にと、今日久しぶりにたずねたはずだったのだが?
何故こうなった?
「ごめんねぇ。折角来てくれたのに。手伝わせちゃって」
バーバラさんが申し訳なさそうに言う。
「そこ! くっちゃべってねーで、仕事しろや!」
「あん?」
「なんだよ?」
「仕方ねーだろ! こいつのせいだ!」
「全てこいつのせいだ!」
床に寝ている屍、もとい、寝ているシドさんを足で蹴りながら言うその人は、そう。
私の将来の親戚となる、シュゼル大公閣下である。
リチャードさんが一週間前から、学会に出席する為に居なくなってしまい、そのカバーをシドさんが行っていたらしいが、力尽きて? 今の状態になったらしい……
そりゃぁ、いくら若いと言っても三日間も徹夜続きだと……
気持ち良さそうに床の上で寝ている彼を、バーバラさんが跨ぎながら、忙しそうにしている姿を見て、つい手伝ってしまった自分を呪いたい……
その瞬間、二人から、まるで神をみるかのような目で見つめられ……
次の瞬間には白衣を着せられていたのだ。おかしい何かが間違っている……
それから数時間……
無言でひたすら計量、分包作業を行った。
「いやぁ、本当に助かったわ。ごめんなさいね」
「こんなことをさしてしまって」
何度も頭を下げるバーバラさんに、私は苦笑いする。
「エレナちゃん。おめでとう!」
「私ったら、未来の王妃殿下に「エレナちゃん」はダメね」
と、ケラケラ笑うバーバラさんが、とても眩しく、綺麗にみえた。
「そんなことないですわ。これからも私のお姉さんでいてくださいね」
と私が微笑むと、ニッコリ笑って
「当然よ」と言った。
「よう。随分と化けの皮が、剥がれたって聞いたが?」
「え?」
「坊ちゃんを随分と可愛がってやったとか?」
「え? いや? それほどでもございませんことよ?」
「隠さなくてもいいぞ。寧ろ今のアンタの方がイイよ」
「前のアンタは無理してるって言うか、優等生を頑張ってるって言うか」
「今のアンタの方が、生き生きしてらぁ。これで、あの坊ちゃんも安心だ」
そう今までは、自分が本当は中身アラサーなことに負い目を感じ、前の世界での知識で、この世界にもたらして得た成功や、人脈やお金に対しての罪悪感や、本当のことを言ってないことに対しての不安などで「良い子でいよう」「頑張らないと」と思い過ぎてたのかも知れない。
でも、殿下が事故で、意識が長い間戻らなかった時、そして私のことを忘れてしまっていることを知った時、そんな小さなこと、どうでもよくなった。
私が何処から来たとか、別の世界だとかそんなことはどうでもよくなった。
ただ、目の前にいるこの人の、私を見つめるあの優しく温かな笑顔。
真っ直ぐに私を見てくれる彼の瞳と、いつも私を側で支えてくれた彼の存在を守りたいと思った。
他には何もいらない! ただ、彼と一緒に居られたら! と、神様に祈った。
「平凡で、安定した生活」を彼と一緒に送りたいと。
なんとかその後、納品する薬剤を作り終え、二人に挨拶をし私は研究所を後にした。
薬剤の納品先が「第一騎士団」だった為、護衛の騎士様と一緒に私も第一騎士団について行くことになった。
第一騎士団に着くと、ヘンリー様をはじめ、殿下の騎士様達にも祝福を受けた。
「これで、本当に安心だな」
「ああ、良かった」
「殿下のことをよろしく頼みましたぞ!」
グレゴリー大佐からもお祝いの言葉をいただいた。
これで本当に失恋か……
その、軽やかに笑い、柔らかな温もりを感じる笑顔を見ながら、彼女の幸せを喜んだ。
まぁ、元々俺になんか赦されない、気高き白き花だったけれどな……
騎士達に囲まれて、軽やかに笑う一人の少女を見つめながら、自然と微笑んでいた。
俺はきっとあの明るく輝く光に憧れ、お慕いしていたんだろう……
今は、あの笑顔が失われることなく、彼女を守りたいと心から思う。
さようなら、私の愛した女性。
これからは、王太子妃殿下として一生お守りします。
二人の新しい門出に心から祝福を送ったルドルフだった。
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