81 愛情
「髪飾りはこちらでよろしいですか?」
「そうねぇ、それでお願いするわ」
「お嬢様、動かないで下さいまし」
「お化粧が……」
いつものような光景に、目を細めて見ているエレナの両親とセバスの姿があった。
「そろそろお時間でございますよ」
「お嬢様」
セバスが声をかける。
「わかりました」
お父様とお母様に軽くハグをして、玄関ホールへ向かう。
ルーシーとセバスに見送られながら、門の外に待つ馬車に、迎えの騎士様の手を借り乗り込んだ。
何処に向かっているのかしら?
騎士様にたずねたが「殿下がお待ちでございます」と笑顔で答えられただけだ。
何処に向かっているのか? わからず馬車の窓から外を眺める。
もう、すっかり秋も深まってきたわね……
銀杏の葉も散り始めているわ。
馬車のスピードがゆっくりになった。
「エレナ様、お待たせしました。もう着きますよ」
騎士様が優しく微笑んだ時、馬車が停まった。
!
ここは!
そう、ちょうど今日と同じように、秋の終わりを感じさせる中、暖かい日だった。
2年前のあの日。
殿下が私にプロポーズをしてくれた、あの小さな教会だわ!
騎士様が馬車から先に降り、エスコートしてくれる手を取り、馬車から降りる。
「こちらへ。殿下がお待ちです」
騎士様の案内で教会の入口のドアの前に立つ。
ゆっくりとドアを騎士様が開けると、2年前に見た光景と同じ光景が広がっていた。
部屋の奥には厳かな祭壇が鎮座し、窓から光を浴びた女神像が、神々しく輝く。
ステンドグラスからは、光を反射し、美しい模様が照らされている。
何もかもが、あの日に戻ったようだ。
真っ白な騎士の礼服を纏ったその人は金色の髪を靡かせ、ゆっくりと私に向かって歩いてくる。
「来てくれてありがとう」
優しい微笑みで私を見つめ、すぅーっと膝を付き跪く。
殿下?
「待たせてすまなかった」
「エレナ、私と一緒にこの国を支えて行って欲しい」
「もう一度、君を守る役目を僕に赦してはくれないだろうか?」
「この先も、そして何回でも、僕は君と一緒に歩んで行きたい」
「僕はこの先ずっと君を愛し続ける。どんなことが起ころうと」
「何回でも、何千回でも、こうして君の前に跪き、おなじセリフを言うだろう」
「エレナ。君を愛している」
差し出された手に私は自分の手を重ね
「もう、わたくしは殿下のものですわ。ずっと前から、そしてこれからも」
「でも何回もは、おやめくださいね」
「これで最後にしてくださいね」
殿下が私を引き寄せ抱きしめた。
少し以前より痩せた背中を愛おしく想い、その手に力を込めた。
「待たせてすまなかった。もう君を悲しませることはしないと約束するよ」
優しくそっと、耳元で囁き、流れ落ちる涙をそっと、殿下の長く白い指で拭ってくれた。
「ここからが新しい二人の始まりだ」
「悲しませた分、数倍にして幸せにすると約束するよ」
「エレナ、本当にありがとう」
「君のおかげだ」
殿下が私に頭を下げ、そして小さな小箱を差し出した。
「これは?」
「お揃いの指輪を作ったんだ。お互いの名前と今日の日付を入れてね」
「これで、もしまた記憶を失ったとしても、この指輪を見たら思い出すだろ?」
と、笑いながら言う。
「もう! 殿下! 止めてください! 縁起でもない……」
「まぁ。それは冗談だけど、エレナと同じ物を私が身につけていたかっただけだよ」
と、ニッコリ微笑んだお顔は、愛しくとても、大切な人に感じた。
以前の殿下のことも、勿論大事に想っていたけれど、今回の事故を経験し、殿下がいなくなってしまうかもしれないと思ったあの悲しみと恐怖。
私のことを忘れてしまったと言う事実を突きつけられたあの日の喪失感。
殿下のお身体が、日々回復して行く喜び感。
私にはもう、この人が居なくてはいけない存在になっていた。
これが、愛情なんだわ。
大切にしないといけない気持ち……
指輪を手に取り、私の薬指にはめ、そっとキスをする殿下。
「もう二度と離れることはないと約束する」
力強く、真剣な目で私を見つめた。
箱にある、もう一つの指輪を私は手に取り、殿下の薬指にゆっくりはめた。
「エレナ。結婚しよう!」
涙が溢れ止まらない。
「はい」と小さく頷くだけがやっとだった……
「最後までお読みいただき、ありがとうございます」
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