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79 鬼教官現る?

 殿下のリハビリも順調に進んでいたある日の宮殿の一室では、恒例となりつつあった少女の激が飛んでいた。

「いつまで、休憩してんのよ! 立ちなさいよ!」


「ハァ、ハァ……」

「エ、エレ、ナ。ハァ……」


「ちょ、ちょっと休憩を……ハァ、ハァ」


「はあ? 何言ってんの?」

「あなたがやるって言ったんでしょ?」

「後、終わったら腕立て伏せ50回ね!」


「鬼だ……」

「これなら、ヘンリーのほうがよっぽどマシだ……」


「何かおっしゃいましたか?」


「いえ……」


「はい! さっさと立って、あと10本よ!」


 そう、私は最近、殿下の鬼教官? もとい ()()()()()として、毎日殿下のリハビリを見守っている。

 今は100本ダッシュをしていたところだ。


 殿下のお身体はかなり回復してきて日常生活は支障なくなっていたが、今は本人の強い希望により、騎士への復活のために厳しい体力作りをされている。


 何故、私がその訓練に立ち合うようになったかと言われたら?

 殿下の「ホワイト・イーグル」をはじめとした騎士様達から、()()()? ()()お願いされてしまって、

 ()()()()()引き受けたのだ。



「なぁ、エレナ様って、こんな人だったのか?」

「俺、ヘンリー様が神に見えてきたわ……」

「こえーよ……」


「しかも、あの殿下がコテンパンだぞ……」

「良かったな。俺達、ヘンリー様の指導で……」



 遠くで呟く数名の騎士達の声が、夏の蝉の声に消しさられつつあった……



「お疲れ様」私はニッコリ微笑んで殿下にタオルと飲み物を渡す。

 飲み物は私がダラスにお願いして特別に作った塩分入り特性ドリンクだ。

 元の世界にあったようなスポーツドリンクだ。


 レモンの薄切りをハチミツに漬けた「ハチミツレモン」を殿下に差し出す。


「ん?」


「今日は食べさせてくれないのかい?」


「え?」


「頑張ったご褒美に」


 滴り落ちる汗をタオルで拭いながら、いつかのソラくんのような眼差しで私を見る。

 その瞳は、真夏の空と同じ、爽やかな青く透き通るサファイヤブルー。

 かつての、キラキラした殿下のお顔に戻っていた。


「仕方ない人ですねぇ。少しだけですよ?」

 私は、その爽やかで、キラキラ輝く殿下を懐かしく思い「ハチミツレモン」を手に取り、

 殿下の口に持って行く。


「うーん。美味しい」

 とろけるような笑顔でニッコリ笑い、美味しそうに「ハチミツレモン」を食べる姿を見て


 私のことを、思い出せなくても良い。

 こうして二人で新しい思い出を一つづつ増やしていけばいいのだわ。


 殿下がここまで回復したことに、今は感謝しないといけないわね。

 神様。ありがとうございます。 

 私のところに殿下を返していただいて……


 心の中で手を合わせた。


「うーん」と、再び口を大きく開けて待つ殿下。


「もう、どこの甘えん坊さんでしょうねぇ?」

 私は笑いながら再び「ハチミツレモン」を手に取る。

 美味しそうにそれを、頬張る殿下の笑顔を見て、神に感謝をした。


「この幸せの為に、辛い修練を頑張っているんだから」

 目を細めながら優しく、甘い柔らかな声で言う。



「ハイハイ。この後、練習場を10周走ったあと、柔軟体操して今日は終わりね」

 ニッコリ笑って殿下に答える。


「お、鬼だ……」


「何かおっしゃいましたか?」


「い、いえ……」


「わかったら、さっさと立って! 練習場に向かうわよ!」


「は、はい……」





 その頃、第一騎士団の練習場では「鬼教官」様用の椅子が用意されつつあった。


「鬼、いや、教官殿がおいでになる!」

「急ぎ準備をしろ!」


「は!」


 忍者のように素早く、準備をする騎士たちの姿があった。






 姉上様には、敵わないな…

 到底、私などでは……


 そんな遠くに見える、仲睦まじい? 二人の姿を見て一人呟く黒髪の騎士の姿があった。

「最後までお読みいただき、ありがとうございます」

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