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77 失われた記憶(2)

 今日もまた、殿下の寝室をたずねた。


「こんにちは」笑顔で挨拶する。


 殿下は、少し照れくさそうな笑顔を私に向け

「ありがとう」とゆっくりと言う。


「お加減はいかがですか?」


「ありがとう。少しだが食べれるようにもなったよ」


「左用でございましたか。それは良かったです」

 私が喜ぶと、


「すまない」

 殿下が小さな声で謝罪する。



 私が不思議そうな顔をしていたら


「君は私の婚約者だと聞いた」

「それなのに私は君のことを…」

「すまない」


 再び謝る殿下に私は


「殿下、私は殿下に色々なことを教えてもらい、いつも殿下には優しくしていただきました」

「今度は、わたくしが殿下に、色々と教えて差し上げ、優しくお支えする番でございます」

「ですから、謝らないでください」


「でも、それでは君が……」


 私は殿下の口元に人差し指を立てて、近づけ

「殿下、もう一度私を選んで下さいませ」

「私をもう一度好きになって下さいませ」

「私と一から恋をしませんか?」

 私はニッコリ笑って殿下に言った。


 殿下は少し頬を染められて俯いた。


 侍女に、りんごをすりおろした物を持って来てもらい、殿下に食べるように促す。


「自分で食べるよ」少し苦笑いされた。


 スプーンを殿下の手にゆっくり渡した。

  殿下はスプーンを握ろうとされたが、直ぐに落ちてしまった。

  私はそのスプーンを殿下の手に握らし、その上に自分の手を重ねて、一緒に口に運んだ。

 

「美味しいですか?」とたずねたら、

 少し微笑まれたが、直ぐにベッドに横になられた。


 私は持ってきたお花を花瓶に生け、

「また、明日も来ますね」殿下に言い部屋を後にした。




 部屋を出ていつものように王宮の廊下を騎士様の案内で歩いていると、始めて殿下とお会いした部屋の前を通った。『エレガンス』の噂を聞きつけた王妃殿下から、呼ばれた日。


 あの後、殿下とバラ園に行って…私は

「あぁ 恥ずかしいわ」頬が熱くなる。


「エレナ様、いかがなさいましたか?」


「あっ、いえ、何でもございませんわ」

「いつも有難うございます。お見送りしていただいて」


「何をおっしゃいますか。エレナ様の献身的な看病によって、殿下は目を覚まされただけでなく、日毎に、体力も回復しておいでです」


「今の殿下があるのは、エレナ様のおかげでございます」

「我々、殿下の近衛騎士一同、エレナ様には感謝しかありません!」

「私にエレナ様をお手伝いできることがあれば、何なりと遠慮なくおっしゃって下さい!」


「では、私はこちらで」

「明日も、お待ちしておりますから!」

「エレナ様、是非いらしてあげてくださいね!」

「殿下もきっとお喜びになります」

「大丈夫ですよ! 殿下がエレナ様のことを忘れるわけがございません!」


 殿下の近衛騎士様が、ニッコリ笑って私に深くお辞儀をした。

 いつものように、門前でお別れし迎えの馬車に乗る。



 こんな生活がもう、何ヶ月も続いている……

 でも、今までと違うのは「殿下に意識が戻った」こと。


 本当に良かったわ。

 例え私のことを思い出せなくても……


 きっといつか……


 何故だか、目から涙が溢れ出した。

 その涙は公爵邸に着くまで止めどなく流れた。






 ───その頃、王宮の王太子の部屋では


 ベッドの上でスプーンを手に握ろうとしている王太子殿下の姿があった。

 握ろうとしても、手からすり落ちる。


「何で、こんな簡単なことが!」


 ガシャン! 投げたスプーンが花瓶にあたり、花瓶が割れた音がした。

 流れ落ちる花瓶の水と、床に落ちたバラの花。


「あの、女性は……?」

「イタッ!」

 思い出そうとしたら頭が痛くなる。


「何か私は大事なことを忘れているような……」


「殿下! 大丈夫でございますか?」

 ヘンリーと侍女が入室してきた。

「問題ない」


「ちょっと、割れてしまって」

「直ぐに片付けます」侍女が割れた花瓶と花を手に取り部屋を出ようとした。


「あぁ、その花は、何か別の花瓶に生け変えてくれ」

「承知しました」 


「殿下、お加減はいかがですか?」

「ふ、お前も同じ質問をするのだな」

「え?」

「いや、何でもない」


「明日から、少しづつリハビリを行うよ」

「殿下!」

「いつまでも、こうして寝ているわけにはいかないからね」


「私はこの国の王太子だ!」


 頬が落ち、青白い痩せた顔から、真っ直ぐと見つめる目には、以前の力強さが戻りつつあった。












「最後までお読みいただき、ありがとうございます」

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