75 約束
殿下のベッドサイドに座り、銀杏の葉や紅葉の葉を殿下の手の上に乗せる。
「覚えていらっしゃいますか?」
「初めてお会いしたのは『エレガンス』をお持ちした日、一緒に散歩したバラ園」
「あそこで、私ったら、今思い出しても恥ずかしいわ」
「初めてお会いした日に殿下に腹の虫の音を聞かせてしまって」
「それから、殿下から毎日のようにお菓子が届くようになったのですわ」
「そう言えば、まだ、何故贈り物が毎日お菓子ばかりだったのか? 聞いてませんわよ?」
「それから、毎日のように『トレ・ゾール』の開店前作業に来られた殿下」
「棟梁やみんなに混ざって作業するお姿」
「それから、何度かランチに行くようになり、殿下が私にこれを……」
胸にした、ブルーサファイヤのネックレスを殿下に見せる。
銀杏の葉を手にとり
「その後、一緒に行った小さな教会」
「そこでこれを殿下が私プロポーズをしてくれた」
「突然のプロポーズにうまく返事ができない私に、殿下は優しく、いつまでも待つよ」とおっしゃってくれた。
「そしてクリスマスの夜に……」
薬指にはめている指輪をそっと、殿下の頬にあてる。
「ずっと側にいて私を守り続けると言ったじゃない……」
無言のままベッドに横になっている殿下を再び見つめ、抱きしめた。
お願い! 目を覚まして!
涙が溢れ、殿下の頬を濡らす。
その時、部屋のドアがゆっくり開いて、ルドルフがゆっくり入って来た。
「エレナ様、申し訳ございません」
彼は床にしゃがみこみ、頭をつけ私に謝る。
ルドルフ?
「兄が、殿下がこうなったのは、私のせいなんです!」
嗚咽しながら床に頭をこすりつけながら謝り続けるルドルフの姿を見て
「どういうことなの?」
床にしゃがみこんだまま、少しだけ頭を上げ視線を私に向ける。
「あの日、私のせいで殿下が……」
「あの日、殿下の制止の声を聞かず、私が動いたせいで……」
「地盤が緩み落下しそうになったところを殿下が咄嗟に私を庇い、そのせいで……」
「殿下が……」
「全て私のせいなんです!」
泣き崩れるルドルフを見ていたら
「失礼するよ!」と、ヘンリー様が入ってきた。
「やめろ! ルドルフ!」
「殿下の御前だ!」
「騎士たる者、主君の許しなしに跪くな!」
泣き崩れるルドルフの肩を引っ張り、立たすヘンリー様。
「あれは事故だ!」
「誰のせいでもない!」
「しかし! 私が深追いしたから……」
「黙れ! 事故だと言っている!」
「仮にも責任があるとしたら、災害現場への経験がないお前を、派遣した私と殿下に責任がある!」
「お前如きが、責任を自分で述べるのは烏滸がましいわ!」
パチン! と頬を叩く音が、静まり返った部屋に鳴り響いた。
暫くの沈黙の後、私はルドルフに視線をやり、
「ルドルフ。顔をあげなさい」
「殿下に尽くすと誓った約束はお忘れですか?」
「あなたのすることは殿下への謝罪ではありません」
「今、あなたがしなくてはいけないことは、殿下がお休みになっている間、ヘンリー様や、他の騎士様をお支えをすることではありませんか?」
ゆっくりと、ルドルフが私のほうを見る。
「申し訳ございませんでした」
背筋をビシッと伸ばし、胸に手をあてて、しっかりした口調で、謝罪の言葉を述べる。
ルドルフの目には、いつもの強い眼差しが戻っていた。
その後、ヘンリー様に付き添われ、ルドルフは部屋を退出した。
二人が去った後、殿下の柔らかな髪を撫でる。
「そろろろ起きてくださらない? お寝坊さん?」
優しく髪を撫でながら私は言った。
「最後までお読みいただき、ありがとうございます」
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