74 お見舞い
翌朝、お父様に付き添ってもらい王宮へ向かった。
到着すると直ぐに、殿下の寝室に案内された。
部屋の中に入ると、思わず息を飲んだ。
ベッドに横たわる殿下の姿。いつもキラキラと輝いている姿とは全く想像できないお姿。
お父様に付き添われ、近くに寄る。
ゆっくりと殿下の手を握ると、伝わる殿下の体温。
そっと軽く握るが、いつものように握り返してくださる感覚はない……
言葉を失った私に、側に居たヘンリー様が
「今はまだ、お眠りになっているだけですよ」
柔く優しい笑顔で言う。
だが、その笑顔は淋しそうに見えた。
暫く、お父様とその場で殿下を見つめていたが
お父様が「さぁエレナ、殿下をしっかり休ませてあげよう」
「今は殿下には、休息がなによりも必要だ」
優しく、諭すように私に言った。
その言葉に私とヘンリー様が静かに頷いた。
ヘンリー様には「明日も見舞いにくる」ことをお伝えし、部屋を後にした。
その後、馬車に乗った私は「きっと今はお休みになっているだけ」
「そのうち、直ぐに目をお覚ましになるわ」心の中で呟き、神様に祈った。
───それから一週間毎日、殿下のお見舞いの為、城に上がっている。
殿下は未だ目を覚ます気配がない。
細身だけど筋肉がしっかりついたその身体は、やせ細って小さく感じた。
部屋の侍女さんにお願いし、柔らかいハンカチに水を含ませ、殿下の口元を濡らす。
細くなった指に自分の指を絡ませ、握る。
涙がとめどなく溢れてきた。
側にいた侍女さん達からも、すすり泣く声が聞こえてくる。
ヘンリー様がそっと私の背中を撫でながら
「エレナ様、エレナ様が倒れてしまったら、こいつが起きた時に悲しみますよ」
「エレナ様の笑顔が、こいつの生き甲斐なんですから」
優しく、そして力強い声で言う。
そうよね。私がしっかりしないと!
涙を拭いて、ヘンリー様に頷く。
「また、明日参りますね」と元気に
ヘンリー様と、侍女さんに告げ、部屋を後にした。
それからも、毎日私は殿下のお部屋にお見舞いに行っていた。
殿下のお身体はどんどん痩せ細って行き、お顔も精細さが消えていった。
あの日から1ヶ月が経っていた。
今日は侍女さんに、お湯とタオルを用意して貰って殿下のお身体を拭いている。
寝巻きの着替えを済ませ、窓のカーテンを開け、窓を少し開けた。
もうすっかり夏の空で、その空は雲一つなく、殿下の瞳のように透き通るブルーだった。
殿下のお綺麗な瞳……
どうか目を開けて下さい。
もう一度、その綺麗な瞳で、そのいつも優しく私を見つめる瞳を私に見せて下さい。
溢れ出る涙が殿下の頬に一粒、二粒と、落ちて行く。
殿下の手を握る。
その優しい、力強い殿下の手で、もう一度私を抱きしめて下さい。
夏の日差しを受けた殿下の綺麗な金髪が、風に靡く。
キラキラと光る金色の髪が、何処か遠くに行ってしまいそうに見えた。
「殿下を連れて行かないで!」
気づいたら私は、ベッドに横になっている殿下の胸に顔を埋めていた。
側にいた侍女さんが
「エレナ様。このままではエレナ様まで倒れてしまいます」
そっと私の背中をさすりながら、ドアの外に居た護衛騎士様を呼ぶ。
騎士様に付き添われながら、私は屋敷へ戻った。
───それから、季節が流れて行き、すでに外は秋も深まって、冬支度を向かえていた。
黄色く色付いた銀杏の葉が道路いっぱいに落ちて居た。
私は、カゴいっぱいに、黄色く色付いた銀杏の葉や、真っ赤にそまった紅葉、綺麗なバラの花を持って今日も殿下の部屋に居た。
「最後までお読みいただき、ありがとうございます」
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