70 弟
無事婚約披露パーティーを終え、最近は穏やかな日々を送っていた。
「ハンバーガーショップ」も順調に行き、私はと言えば毎日それなりには忙しいが、
ゆっくり読書をする時間なども取れるようになった。
そんな私の周りだが、一つだけ変わったことが。
そう、殿下のたっての希望により、私の護衛騎士として正式にルドルフ様が任命されたのだ。
今、そのルドルフ様を伴って、街に買い物に来ているのだ。
「エレナ様、まだ買われるのですか?」
「ええ。ごめんさいね。お荷物持っていただいて」
「いや、それは全く問題はないのですが……」
「こんなに買い込んでどうするおつもりですか?」
「ふふん~ナイショ」
口に人差し指をあててちょっと意地悪そうに言うと
「あの殿下が手を焼かれるわけだ。俺なんかが到底……」
何かゴニヨゴニョと最後のほうは聞き取れなかった
「ん? 何かおっしゃいましたか?」
「いえ、何でもございません。申し訳ございません」
「参りましょうか姫様」
店のドアを開けてくれ、店内に入る。
そこには沢山の調味料や、お酒などが並んでいた。
「そうそう。これこれ。やっと見つけたわ!」
先日バーバラさんからお手紙いただいて、ここの店ならあるかも知れないと教えてもらって楽しみにして来たんだけど、良かったわ。
あった!
「これよ!」
「何でございますか?」
ずっとこの世界に来て私が探し求めていた物。
元いた世界では当たり前に食べていたアレ。そう「お米」
「これはねぇ。東方の国で食べられている物らしいの」
「ほう」と、不思議そうにその白い粒を見るルドルフ様に
「とりあえず、こちらにあるだけ買いましょう!」
「え?」
「これ全部ですか?」
「ええそうよ?」
「あ! でも、流石にこれだけ全部は持てないから、配達できるか聞いてみましょう」
「いや……そっちではなく……」
「わかりました。とりあえず店の人を呼びましょう」
「エレナ様ここで、いや、一緒に参りましょうか」
ルドルフ様と一緒に、お店のレジに向かい店員さんを呼ぶ。
「ここに置いてあるこの「お米」を全て買いたいんですけど」
「配達はできますか?」ルドルフ様が店員に聞いてくれる。
「え? 全部でございますか?」
「少々、お待ちください」店員が少し慌てた様子で、奥に駆けて行った。
ルドルフ様は、少し渋い顔をされている。
「エレナ様、こんなに大量にどうされるおつもりですか?」
「うふふ。これはねぇ」と言う途中で奥から先程の店員と、年配の男性が来た。
「これはこれは、騎士様とお嬢様。ようこそ私共の店へ、おいでいただきありがとうございます」
丁寧に男性から挨拶を受ける。
「こちらは全て買い求めることは可能か?」
「配達してもらいたいのだけれども?」再度ルドルフ様が男性に言う。
「大丈夫でございますよ」
「で、どちらに配達させていただいたらよろしいでしょうか?」
「クロフォード公爵家でお願いしますわ」私が言うと
「これは失礼いたしました。公爵様のご令嬢でいらっしゃいましたか」と深々と頭を下げられた。
支払いを終え、控えを受け取り店を出る。
「ルドルフ様、今日はありがとうございました」
「これで欲しかった物は全て買えましたわ」
「それは良かったですねエレナ様。では、そろそろ帰りましょうか」
と言われ馬車に乗ろうとした時ルドルフ様に
「今日はありがとうございました」何故かお礼を言われ、少し驚いたが
「いえ、私の方こそ助かりました」お礼を述べ馬車に乗り込む。
「エレナ様お疲れになったでしょう」
「屋敷についたら起こしてさしあげますから、お休みになっていただいて構いませんよ」
優しく微笑む。
その笑顔に少しドキリとしてしまい、
「いぇ。大丈夫ですわ」と短く答えてしまった。
「申し訳ございません」
「出過ぎたことを申しました」と深く頭を下げ謝罪された。
「いえ。違うのよ。少し考え事をしていただけなの」
思わず誤魔化した。
その後、少し気まずい雰囲気になり、二人とも黙っていたら
「安心してください。二度とエレナ様を傷つけるようなことは致しません」
「そして、殿下にも」
「わたしは生涯エレナ様と殿下に忠誠を誓うと約束します」
真剣な眼差しで私の目をじっと見つめた。
その漆黒の瞳には強い意思が現れていた。
「勿論信じておりますわ」
「第一騎士団の入団試験に向けて、一生懸命励んでいらしたこともお聞きしましたし」
殿下とヘンリー様から、ルドルフ様が毎日血の滲むような訓練を受けていたことは聞いていた。
本来、第一騎士団の入団試験と言っても、そのほとんどが「王立騎士学校」の卒業生で剣術などは既に訓練を幼少時からしている者ばかりだ。一般からの入隊を認めてはいるが、現実的には非常に難しい狭き門なのだ。
今日買ったのは大量の「お米」と、そう。もう一つ楽しみにしていた物。
「カレー」に入れる香辛料を見つけたのだ。
これもバーバラさんに以前にお手紙でお願いしておいた情報で、
東方の大陸からの輸入品を扱っている店を教えていただいたのだ。
バーバラさんには感謝しかないわ。
「お米」は勿論食べたかったけれど、やはり「カレー」よね。
これでカレーパーティーが開けるわね。
なんて考えていたが、馬車のコトコトと揺れる動きに段々と瞼が重くなり、自然と目がが閉じられていた。
その柔らかな寝息に、ルドルフは、何かが心の中で流れていくのを感じ、思わず柔らかな髪にそっと手を伸ばしていた。
「ハッ! 何をしているんだ、俺は」
目の前で無防備に眠る、気高く、真っ直ぐな小さな貴婦人を見つめた。
「何を、俺は……」
屋敷の近くになり、エレナは飛び起きた。
恥ずかしそうに俯き「ごめんなさい。私ったら」と頬を染める。
「いえ」
短く答え、馬車から急ぎ降りエレナをエスコートする。
「ルドルフ様、本当に今日はありがとうございました」
「とても楽しかったわ~」
「おやすみなさい」と笑顔で手をふり、足早に駆けて行った。
その後ろ姿を、慈しむ目で、見えなくなるまで優しく見守り続ける一人の黒髪の男性がいた。
「まるで、少女のようだな……」
「気高くて真っ直ぐで美しい……人」
暗闇の中に小さな声で呟いた。
「最後までお読みいただき、ありがとうございます」
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