07 ハンドクリームを作ろう(4)
昼食後、お父様よりマクレガーさんが来たから、執務室に来るように言われる。
ついに! キターーー!
「平凡で安定した生活ゲット!」の第一歩に今日はなるのね!
エレナはウキウキしながら父親の執務室に向かう。
何もしなくても顔がニヤニヤしてくる。
(イケナイ。イケナイ。元庶民の思考が出てしまってるわね。と心の中で反省する)
入室を許可されて中に入ると、すでにマクレガーさんがソファに座り、お父様と一緒に薬草を数本手にしながら何か話している。
「エレナお嬢様。お久しぶりです」
「随分と美しく、聡明なレディになられましたね」
マクレガーさんが立ち上がりながら笑顔で言う。
すると、お父様がすかさず
「マクレガー止めてくれ。これ以上娘がお転婆になると、嫁の貰い手がなくなる」
苦笑いする。
「いえいえ。本当にお嬢様は聡明でいらっしゃる」
マクレガーさんは私を見ながら再度笑顔で言う。
マクレガーさんが私の書いた「計画書」をテーブルの上に出す。「計画書」には赤字で色々と書き込みや線が書かれてあった。
「エレナお嬢様、こちらの「計画書」でございますが、私が気づいた点や、改良すべき点などを記入させて頂きました。了解も得ずに勝手にこのようなことをして申し訳なく思いますが」
マクレガーさんが深く頭を下げながら言う。
流石はマクレガーさんだわ。心の中で感心しながら
「いえ、私の拙い計画を専門家にご教示頂けて光栄ですわ」
笑顔で言うと、マクレガーさんはちょっとビックリした顔を一瞬見せるが直ぐに笑顔になる。
その後、三人で「ハンドクリーム」の作成について、色々と話し合う。試作品として先ずはマクレガー商会の「薬品部門」にて作成されることになった。その後、作り方を下請けの工房にお願いし量産することに決まった。
「蜂蜜入り柑橘オイル配合のクリーム」
「オリーブオイルとバラ配合のクリーム」
「ラベンダーと薬草配合のクリーム」の
3種を試作で作ることになった。
こちらは材料費を抑えるために、精油は使用せず、入浴や髪に使う、現在市販されているオイルを配合することにした。
マクレガーさんが旅先で見つけたと、いうガラス容器はとても可愛く、小さめのジャム瓶のようだ。
これに、レモン、バラ、ラベンダーの絵を書いたラベルを中央に貼り、クリームを詰めることにした。
私の希望により、瓶の裏面にクリームの成分表と使用期限を明記して貰うことにした。
(これは元いた世界では当たり前のことだけど、この世界には原材料名や使用期限を明記するという習慣はない)
そして、もう一つ、貴族用に高級ラインとして「高濃度リッチクリーム」を試作することも決定した。こちらはバラや百合など、複数の花から精油を絞り、高濃度の蜂蜜をたっぷり配合することにした。
エクストラヴァージンオイルと、いわゆるマヌカハニーの配合だ。
国家薬師免許を持つマクレガーさんにより、私の拙い「計画書」は実現化することになった。 本当にお父様とマクレガーさんには感謝しかない。
「しかし、本当にお嬢様は13歳ですか?」
マクレガーさんが苦笑いしながら私の顔を見ながら言う。
「え? 申し訳ございません? 私のあまりにも幼稚な計画書でご迷惑お掛けして……」
小声で俯きながら言うと
「いやいや。逆ですよ。先程の市販されているオイルと精油の違いや、液体を軟膏化させる工程の説明も薬学を学んだ者でも、なかなか難しい話なのに。お嬢様はそれを一度聞いただけで理解されている。しかも、高濃度の蜂蜜の存在までご存知だ。素晴らしい見識です」
微笑みながらマクレガーさんが言う。
(あ、ヤバイ…元いた世界に普通にあったアロマオイルの知識や、シャンプーなどにも使用されていたマヌカハニーの存在を知っていたことが…………)
「いえいえ。そんな大したことではなく、私のは本での知識だけなんです」
照れくさそうに小声でなんとか誤魔化すと
「素晴らしい見識でございます。大変敬服しました」
マクレガーさんが尚も私を褒める。
私のは元の世界の知識。文明が全くこの世界とは違うんだもの。ちょっとズルしたような罪悪感で私は苦笑いするしかなかった。
でも、私がこの世界に来たことは、きっと何か意味があるんだ! と自分に言い聞かせ
「みんなで、平凡で安定した生活」を送る為に、これからもみんなが喜んでくれることを、私なりに見つけて行こう!
前向きに考えることにした。
うん。今日も現実逃避バンザイ!
みんなで幸せになればいいよね? きっと神様も許してくれるはず!
自分で納得する。
「神様は居ないんだ!」なんてあの時は言ってしまってごめんなさい。
心の中で謝罪し手を合わせる。
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