66 資産家?
お父様の紹介を受けて、今日はお父様と、セバスと三人で紹介された物件を見に来ている。
元々は「お菓子屋」さんだったらしく、店舗の大きさはちょうど良い感じだ。
奥には大きな最新式の大きなキッチンがあり、特大冷蔵庫まである。
店内も明るいスペースで、綺麗な椅子や、テーブルまである。
二階は広いスペースと、数個の小部屋にわかれていて、これならほぼ改築なしで、事務所と、従業員用の休憩室にも使えそうだ。そして驚いたのはなんと二階にシャワールームまで完備されていた。
至れり尽くせりだ。
そして何よりも気に入ったのは立地条件だ。
王都のメインストリートに面したこの土地は、お隣さんが「商業ギルド」少し歩けば「冒険者ギルド」向かいには「白い騎士の第一騎士団駐屯所」治安維持にも申し分ない。
直ぐ近くには「辻馬車停留所」まである。交通便、治安維持、ビジネス・商業の中心地。
最高の物件だ。
少し向こうには公園もある。バーガー買って外で食べてもよし!
が! しかし!
問題発生!
流石は王都の一等地。お高いのである……
そしてこの完備だ。
予算の約5倍……
まあ、これだけの立地条件で、店舗もまだ新しく、少し改装すれば直ぐにお店として、じゅうぶん機能しそうな感じ。
おまけに厨房の冷蔵庫や、店内のテーブルセット、備え付けの食品庫なども全て込みの価格だ。
水も既に工事されていて「水の魔石」をセットすればすぐに使える状態だ。
条件だけなら最高物件だ。
あとは……
「エレナ、これ以上の物件は中々簡単にもう出ないと思うよ」
お父様が言う。
それは私も同感です。
でもこの金額がちょっと……
「何か不服があるのかい?」不思議そうな顔をする。
「条件は最高なんですけど、むしろ私が思ってた以上ですが……」
「じゃあ? 何を悩んでいるんだい?」おかしな子? をみるような目で私を見る。
いや……悩むでしょう。普通この金額目にしたら…
元庶民の私には、一生手にすることはなかった金額。
その値段、ざっと日本円に換算すると3億円。物価価値を考えたら、実際は10億程度の計算になるはず。
だいたいこちらでの、一般市民の月収は元の世界の約3分の1から4分の1。
100円ショップといえど、元の世界の価値だと300均一と同じぐらいの価値だ。
その分、光熱費がほぼ永久的にタダだけどね。
まぁこれだけの設備と立地条件を渋○か、銀○で開店するわけだから、そう考えたら3億は高くない。
2階建てといえど、住居スペース付きの自社ビルだしね。
「エレナ? もしかしてお金のことを考えているのかい?」
え? そりゃそうでしょう?
セバスが目を細めて少し笑顔になって私の方を向く。
「お嬢様、こちらをご覧ください」なにやら恭しい書類ケースを開けて私に差し出す」
「『エレガンス』における収益の報告書」
金額欄に目をやると、ん? ゼロの数が多い
え? 7個?
は? 何かの間違い?
1億2千万?
桁数間違えてない? セバスに目線を向けると、セバスが首を振る。
最近『トレ・ゾール』のことでいっぱいで『エレガンス』に関しては完全人任せだった。
『エレガンス』ってそんなに売れてたの? 知らなかった……
放置しててすいません……
「『エレガンス』はお嬢様が開発したクリームだけではなく、それをモチーフにしたハンカチや、レターセットや、小物入れなどの売上がかなり伸びている様子で御座いますよ」
セバスが教えてくれた。
そう言えば『エレガンス・パール』を発表する前に、付加価値上げる為に、女性受けするグッズを何点か一緒に作ったわ。
でもあれは、かなり安価で収益はあまり期待してなかったのに?
「お店で『エレガンス』をお買い求めになる際、ほとんどのお客様が、一緒にしかも大量に買われていくそうで御座いますよ」
マジか! 『エレガンス』に関しては、マクレガー商会に完全委託していた為、経営方針や、帳簿などに、一切私は口出す権利を放棄していた為、まったく気付かなかった。
私に入るのは「発案者」として売上の2割のみで、あまり収入にはなっていない物だと思っていたのだ。
「お嬢様? この決算書は年明けにお渡ししたはずですが?」
ハッ! そうだ! そう言えば思い出したわ。
クリスマスだ、鍋パだ、こたつだと、忙しくしていて、机の抽斗にしまって、すっかり見るの忘れていたんだ!
「エレナぁ?」と少し呆れ顔のお父様
「ごめんなさい。確認不足でした」
「まさかとは思いますが、『トレ・ゾール』の決算報告書もご覧になっていない? とかは申されませんよね?」
ちょっと鬼軍曹の顔が頭によぎった。
セバスや、お前もか!
怖い……
私がセバスから目線をそらすと
「エレナ?」と低く冷たい声が
ヒャーーごめんなさい。
『トレ・ゾール』も経営権を全てアンに譲渡した今、帳簿はアンが持っており、私はと言うと、利益の一部を「開発者」として、年末に受け取るだけだった。
1個100円の性質上、薄利多売と思いあまり収益は期待していなかった。
「平凡で安定した生活」を送る為の老後の保険程度にしか考えてなかったからだ。
「2枚目にあるのが『トレ・ゾール』の決算報告書で御座います。よく今度はご覧くださいね」
少し強めな口調で言われた。
面目ない…… ゴメンヨ。セバスチャン
そして怖いです。
ゼロの数が。これまたおかしい。
え? 見間違え?
1個100円よねえ? 売価の3割よねえ? 単純に私に入る金額って30円よねえ?
この3割は、お店の開業資金を収益が超えた時点で2割に引き下げる契約を結んでいた。
何この数字? 間違えてる??
1億3千万??
気が遠くなりそうな……
一瞬よろけそうになったところで、
「こらこら、しっかりしなさい。エレナ」とお父様が呆れ顔で言った。
えええ?『トレ・ゾール』ってそんなに売上あったの?
まさかの優良企業? うちの店?
「あとは、こちらは昨日届いたばかりでして、お嬢様にまだお見せ出来ていなかったんですが、王立研究所からと、国からの「新しい魔石の使用法の発見による奨励金の支払いの目録」で御座います。お納めください」
え? 私が?
国に対し重大な発見や、開発した者を保護し、新たな研究の為の資金として、奨励金が出る制度があるのは知っていた。
でもそれは1年に1人出るか? どうかのかなり貴重なことだと聞いている。
え? ゼロの数が8個?
1億円! 太っ腹過ぎだろ王様!
「ああ、それだけじゃないですよ? これに加え、お嬢様が開発した「こたつ」や「温風扇」「冷風扇」に、あの「温水」ですからねぇ」
「来年度はかなりの資金が入るはず。『トレ・ゾール』の3倍は見込めると私は思いますよ。「温水」だけでも、じゅうぶん潤沢な資金になるはずですからね」と、目を細めながら笑顔で言った。
「ちなみに、差し出がましいようですが、お嬢様がお忙しくされていたので、わたくしの方で「温水」に「冷風扇」、「温風扇」と「こたつ」も特許申請させて頂きましたから。昨日許可の報告が来ております」
「お嬢様にお伝えするのが、事後報告となりお詫び申し上げます」セバスが丁寧に頭を下げたが、
つらつらと話すセバスの言葉に、もはや私の頭の中には、円マークがチラホラ飛び回り、とてもじゃないけれど、話の内容が頭に入って来る状態ではなかった。
なんか疲れた……
元アラサーのしがないパート独女が数億円の資産家?
ありえないでしょ…
「最後までお読みいただき、ありがとうございます」
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