62 愛しい人
研究所の門を出ると直ぐに殿下がいらした。
「ごめんね。待たせてしまって」申し訳なさそうに殿下が言う。
「いえ? ちょうど今、私も来たところですのよ?」
「お忙しい中、ありがとうございます」
「あーーーーーエレナだぁー」まるで、ソラくんのように
戯れつく笑顔で私にしがみついた。
可愛い人ね。ちょっと上から目線になる。
「では、姫様、参りましょうか」ビシッっと背筋を伸ばしたその姿は、
やはり惚れ惚れするほどの美丈夫姿。
うん。目の保養。疲れた時には癒しだわ……
普段着を着ていてもこの、溢れるキラキラ……
感心しつつ殿下の手をとる。
門の前で警備の騎士様に「楽しんでいらっしゃいませ」と言われ、少し恥ずかしくなってしまった。
そんな私に、殿下は気にせず手を絡め繋いでくる。
馬車に乗り街へ出る。
最近、研究所の中ばかりだったから新鮮だ。
冬の寒い時期な為、普段よりは人は少なめだが、夕飯時か? 忙しそうにみんなしている。
街に入ると、馬車を降り歩くことにした。
「寒くないかい? 大丈夫?」相変わらず私を気遣ってくれる。
「ええ。平気よ」
殿下が自分の着ていたコートのポケットに、繋いだ手を入れる。
恥ずかしくて、声が出ない私に
「こうすれば、ね?」「僕も温まるから」
満面の笑みで言う。
その笑顔はズルイです……
そんな時、前から小さな男の子が泣きながら走って来て、殿下にぶつかりそうになった瞬間
気配が……
殿下が目配せすると気配が消えた。
そりゃ、そうようねぇ。護衛がついているに決まってるわよね。心の中で納得し、
ハッ! 今までのコレ、手を繋いで歩いて、時折髪に触れられ……
こんなこと人前で見られていたのか? と思うと頬が赤くなった。
殿下がしゃがみ込み男の子に
「どうしたんだい?」優しく聞く。
「かあちゃんが、かあちゃんがいなくなって」泣きながら
「ん? 一人でここには来てたのかい?」
「それともお母さんと一緒に?」
「かあちゃんといっしょ。でもきづいたら。かあちゃんが……」
迷子?
「お母さんと、はぐれてしまったのかい?」
男の子が泣きながら頷く。
近くの護衛騎士駐屯所までは少し距離がある。
そう思っていた瞬間に、
殿下が男の子を抱き上げ、自分の肩の上に乗せ肩車をした。
「ぼうや、ここからなら、きっとお母さんも、君の声が聞こえるはず」
「君は男の子だろ?」
「じゃあ、泣くのはやめるんだ」
「さぁ。お母さんを一緒に探そう!」
「大きな声でお母さんの名前を呼びなさい」
「きっとその声にお母さんが気づいてくれるはずだから!」
優しく言う。
男の子が大きな声で母親の名前を叫びながら、肩車をして歩いていると、
すぐに、八百屋の角の道から男の子の母親がやってきた。
「ケン!」
「かあちゃん!」
二人は泣きながら抱き合っている。
良かった無事見つかって。
「かぁちゃん、このお兄ちゃんと、お姉ちゃんが一緒にさがしてくれたんだ!」
私は何もしてないけどね……ちょっと罪悪感だ。
男の子の母親は、何度も殿下に頭を下げお礼を言っている。
「ケンくんか。良い名前だね。これからもしっかりお母さんの言うことを聞いて、立派な男になるんだよ」と殿下が言うと
「うん。僕も、お兄ちゃんみたいなカッコイイ大人になるよ!」
目を輝かせている。
「これ、お礼にお兄ちゃんにあげる! 僕の宝物なんだよ」
殿下に男の子が差し出す。
見てみると『トレ・ゾール』で売っているガラス板だ。
子供向けに、おはじきを模した、色付けしたガラス板や、貝殻などをセットにした物を販売しているのだ。
キラキラしたカラフルのガラス板は、子供達にとっては宝物だ。
二人で微笑んだあと、殿下が
「ありがとう。大切にするよ」男の子の頭を優しく撫でた。
冬の寒い空気が、一瞬温かくなるのを感じた。
殿下が父親になったら?
どうなんだろう?
お父様みたいにデレデレになるのかしら?
ハッ! 何考えているのよ私は!
頬が赤く染まった。
「エレナ? どうした? 寒いのかい?」
「いえ、大丈夫です……」と答えるだけが、精一杯だった。
でも、いつかそんな日が来ればいいなぁ……
私が前の世界で失った幸せな家庭……
目の前で優しい視線で男の子の頭を撫でている柔らかな笑顔の男性を見て
愛しく感じた。
その後、私の希望でお肉料理のお店に行った。
「食べ過ぎてしまったわ……」
「エレナはもっと食べなきゃダメだよ~」と優しい未来の旦那様に今日も私は甘やかされながら街を後にした。
「最後までお読みいただき、ありがとうございます」
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