45 母情と父情
屋敷に戻った私は、3日間眠ったままだったそうだ。
その間、取り調べを行った刑務官によって、様々なことが明るみになった。
フォンターナ侯爵は、かねてから交流があった隣国のキンバレー王国の、第一王子フェルナンド殿下に近づき、王子の海軍の協力を得る代わりに、立太子の資金提供を約束していた。
なんと、キンバレー王の暗殺まで企んでいたようだ。
実際には、フェルナンド王子が国王に成り代わった後は、娘のキャサリンを妃とし、キンバレー王国の実権をも手にしようと企んでいた。
また国内では、新興貴族派達をフォンターナ侯爵が先導し「バルキリー島」に長年幽閉されていた、王太子殿下の弟君のルドルフ様を擁立し『新生グレンシード王国』建国しようと計画していたのだった。
───「ええぃ、その手を離さんか!」「汚らしい手で儂に触れるな!」
地下牢に怒鳴り声が響く。
自慢の髭は固く縺れていて、顔は浅黒く泥で汚れてる小太りの男は、
「儂は、諦めん! 絶対に認めんぞ! 英雄はこの私だ!」と叫び続けていた。
彼は『偉大な英雄』の息子、『この国の伝説の騎士』の忘れ形見として、幼少時より世間から期待され、もてはやられて育った。
「儂は王となるのだ!」「今すぐ皆の者、我に跪けぇー」
誰も居ない地下牢に、男の怒鳴り声だけがずっと鳴り響いていた。
一方、捕縛されたキンバレー王国第一王子のフェルナンド王子は、侵略罪として処刑されることが早急に決まった。
キンバレー王国に身柄の返還を打診したが「いらない」たった四文字のみの
短い回答がキンバレー王国、国王陛下直筆の返信が来たのだった。
───「母上」
「私は、どうして兄のように、愛されなかった?」
「私は何故産まれてしまったんだろう…」
「私は兄になりたかった…」
「母上、何故あなたは兄を殺そうとしたのですか?」
暗い地下室の一室で、黒髪の男は一人呟いていた。
彼の名は「ルドルフ・クライム・グレンシード」
国王陛下の嫡男である。
そして、王太子殿下「カイン・ステファノ・グレンシード」とは異母兄弟である。
現国王陛下が、まだ王太子だった時にカインの母である、現王妃殿下と知り合い、二人は密かに交際していた。
しかし、マーガレット妃殿下のご実家は、辺境の地の子爵家だった為、二人の交際は当時の王が反対していた。
それでも、当時のグレンシード王太子が熱烈にアピールし続け、密かに二人の関係は深くなっていたのだった。
そんな時、隣国の大帝国「アルバニア帝国」から侵略を受けたのだ。
長い戦いの末、両国の間で和平が結ばれ、アルバニア帝国の皇女「シャントリッテ様」が、グレンシード王国に嫁いで来られた。
だが、既に、マーガレット様のお腹の中には「カイン王子」がいたのだった。
周囲の反対を押し切り、当時の王太子、グレンシード(現国王)は、マーガレット様を側妃に迎えられ、そのまま、グレンシード(現国王)は離宮の別邸で三人で暮らしていた。
そんなある日、当時5歳の「カイン王子」が、何者かによって毒殺されかかったのだ。
幸い一命は取り止めたが、それ以来「カイン」と異母弟「ルドルフ」は会うことは許されなかった。
数日後、「カイン王子」に毒を盛った犯人が判明した。
「ルドルフ王子」の母、グレンシード王太子(現国王)の正妻である「シャントリッテ王太子妃殿下」だったのだ。
シャントリッテ様は、大国の姫として大事に育てられ、国の宝として帝国の象徴だった。
そんな彼女が小国に嫁いで来て、幸せに暮らすマーガレット妃や、カイン様が許せなかったのだ。
第一王子暗殺の刑で、シャントリッテ王太子妃殿下は処刑されたのだった。
当時3歳だった異母兄弟の「ルドルフ殿下」が、北の無人島「バルキリー島」に幽閉されたことは、当時の、極僅かな人間しか知らされていなかった。
「シャントリッテ様と、ルドルフ殿下は外遊の際、不慮の事故によって亡くなった」
ことにされたのだった。
それから長い歳月が流れ、二人の存在は忘れられたかのようだった……のに。
───「母上…………」
「私は貴女さえ居てくれたらよかった」
「他に何も望んではいなかった」
「平穏で小さな温もりさえあれば………」
「他には何もいらなかったのに」
「貴女の温もりが私の全てだった」
「ごめんなさい。母上様」
「私が産まれて来たばかりに…」
「貴女は私のせいで…」
───ルドルフの頬から二粒の水滴がすぅーっと一筋流れた。
「最後までお読みいただき、ありがとうございます」
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