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44 激震(3)

「さぁ、ダンスの時間だよ」


「舞台に行こうかレディ」


 黒髪の男は手を差し出す。


 私がその手を払い除けると、ギュっと引き寄せられ、乱暴に手を握られる。


「さあ、参りましょう! 僕の姫君」


 彼が重く黒いドアを開ける。



 え?


「海?」


 そこは磯の香りが漂う、真っ黒な海だった。


 夜の暗闇を、松明の灯りが海面をユラユラと揺らすと、紅い焔が暗闇の中を静かに舞う。

 美しくも儚く、泣いているような波の音が漆黒の中にこだましていた。



 遠くを見つめると、沢山の船が…


 ここはどこなの?


「ようこそ私の家に」黒髪の男が言う。


 周りを見ると、海に囲まれている。


 島?


 寒い! 氷のような冷たい風が頬に突き刺さり思わず身震いする。


 黒髪の男が、私に自分のマントをかけてくれた。


「ありがとうございます」小さな声で言うと、ニッコリと微笑んだ。


 松明の焔を彼がゆっくり回す。


 遠くに見えた船影が少しづつ近づいてくる。



 段々と近づいてくる船には、旗が掲げられている。



 !



 黒地に鷹の意匠!



 島まで、あと少しの所まで近づいて来たその時、


 陸の向こうから明るい光が一斉に海面を照らす。







───「殿下! あそこに灯りが!」


 一人の騎士が声を荒げる。


「バルキリー島?」


「殿下どういたしますか?」


「バルキリー島は不可侵の孤島!」


「いたしかたあるまい。責任は全て俺が取る!」

「全軍、前進せよ!」



「殿下! お待ち下さい!」


「あれをご覧下さい! 鷹の意匠でございます!」


 ヘンリーの声を聞き、双眼鏡をヘンリーから奪い取る。





「黒地に鷹の意匠だと?……王家の意匠??」



 その時「ホワイト・イーグル」の重鎮、グレゴリー大佐がゆっくりと呟いた。



「あれは、ルドルフ様の意匠にございます」



「ルドルフだと?」


「なんでアイツが? 戦艦を?」



 東の空が段々白らんできて、その黒い旗を、たなびかせる艦隊のうちの一隻が、隊列からスーっと前に出て、バルキリー島に着岸する。





 一人の男が島に降り立つ。


 顎に髭を携えた、小太りの男。



 フォンターナ侯爵だ。



「ようこそ()()()へ。さぁ、お手をどうぞ」


 フォンターナ侯爵が私の前に手を差し出す。


 その手を払い除けると、眉に皺を深く寄せ


「公爵令嬢としては、少々躾がなっていらっしゃらないようですねぇ」

「クロフォード様が、甘やかされたせいですかな?」

 ニヤニヤ笑いながら下衆な顔をした、黄色く濁った目で、こちらを見る。


 黒髪の男が私の手を強く掴み、「()()()、さぁ、参りましょう!」

 もう一方の空いた手で、私の腰に手をまわす。


 白い鎧姿の騎士達が、小舟から陸に上がろうとした時、もう一人の男性が、船から出て来て陸に立つ。


 フォンターナ侯爵が、側で跪く。


「控えろ! 我はキンバレー王国、第一王子 フェルナンド・ガレリア・キンバレーだ!」


 白い騎士達が、ざわめく。



「エレナ!」


 金色に輝く髪と透き通る青い目、その顔を見た瞬間、私は安堵した。


「殿下!」思わず叫んだ。



「ルドルフ貴様!」


 直ぐに、殿下の優しい眼差しが、黒髪の男に向けられた。

 その眼差しは、私が今まで一度も見たことがない、強く鋭いものだった。


 波音が静まり返り、肌寒い空気が一気に冷える。


 全てが凍りついた世界に変わった瞬間、私の首元に黒髪の男が剣先を向けた。


 首筋に生温かい雫がすーっと流れ落ちる。



「エレナ!」 殿下が叫ぶ。


「カイン・ステファノ・グレンシード殿下、お久しぶりでございますね」

「あなたに、再会出来る日を、ずっと夢に見ておりました」

「ずっと。お会いしたかった」


 と、私に剣を向けたまま、ゆっくりと低い声で、黒髪の男が無表情のまま言う。

 薄く白んだ空に、青白く照らされる彫刻のような顔は、何故かとても綺麗に見えた。


「ルドルフ! エレナを放せ!」


「人質なら、俺がなる!」


「今すぐエレナから離れろ!」




「ふふ。まだこの状況がおわかりでないようですね。貴方が人質?」


「貴方にそんな価値など、もはやないのですよ」


「貴方には、ここで死んでもらうのですから」

 

 一切の抑揚を抑えた冷たい声



「ふざけるな!」

ヘンリー様の怒鳴り声が聞こえた。


 その瞬間、白騎士が一斉に島に上がろうとした時、


「動くな! 一歩でも動いたら、この女の命はないぞ!」

 黒髪の男は叫んだ。


 その横には、キンバレーの王子様と、フォンターナ侯爵が腕組みをしながら笑っていた。




 船からタラップが下ろされ、黒髪の男に私が、引きずられて連れて行かれそうになった瞬間、

 私は、黒髪の男の足を踏む。


 その瞬間、殿下とヘンリー様が、小舟から跳び上がり島に降り立つ。


 気づいた時には、殿下の腕の中に私は抱き込まれていた。


 黒髪の男は、ヘンリー様に取り押さえられ、キンバレーの王子と、フォンターナ侯爵は、金色の鎧を纏った「ゴールデン・イーグル」の手で縛られていた。


 王子と、フォンターナ侯爵の怒鳴り声が鳴り響く。


「儂を誰だと思っているんだ! こんなことをして許されると思うのか!」

「我は、キンバレー王国の、()()王太子なるぞ! 無礼だ! 離れろ!」

「ええい! 攻撃しろ!」「すぐさま矢を撃て!」「こいつらを皆殺しにしろ!」

 と、二人は騒ぎ立てる。

「何をしている! 早くしろ!」

 だが、誰も動かない…



 

 

 陸のフォンターナ領に目をやると、赤い旗が街一帯を埋め尽くす程、はためいていた。

 赤地に鷹の意匠───



『グレンシード王国 国王軍』だ。


 白い鎧の騎士達が、続々と小舟から、大船に乗り込み、罪人を捕縛している。



 


 助かった………



 安心した瞬間、身体の力が一気に抜けて膝から崩れ落ちた。


「エレナ!」「しっかりしろ!」




 殿下の声が小さく聞こえたような気がしたが、そのまま意識を私は手放した。











「最後までお読みいただき、ありがとうございます」

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