39 溢れる想い
どうしよう…
昨日は、殿下にあのあと、屋敷の前まで送ってもらったが、
帰りの馬車では、何を話したか?全く覚えていない。
ただ、殿下のこの国に対しての夢や、この国を守る思い、この国の子供達の、未来の為の夢の実現などを聞き、尊敬したのだけは覚えている。
私には前の世界の記憶と、ここより遥に進んだ文明の知識がある。
それを持ってしても、殿下の考えには尊敬し、賛同した。
やっぱり生まれながらの、国の王子。
私とは住む世界が本来は違う人。
私が、ここに来た時に誓ったことは、
「平凡でもいい、安定した生活を送ること」
二度目の人生を与えて貰った機会に、多くは望まない。と誓ったはず。
5年以上ここに住み、周りの優しさや、恵まれた環境により、私は贅沢になってしまったのだ……
本当の私は、アラサーで、夫にも捨てられた女。
私は望んでは、いけないのだ。
ごめんなさい。いつの間にか、わがままになった私を赦して下さい。
神様…。
お父様にお話してお断りしてもらおう。
アラサー女の私には、大きすぎる想いだ。
いつの間にか、頬に雫が二滴落ちたのを、私は気付かなかった。
「こんな時は、美味しい物を食べるに、こしたことはないわ」
早速ルーシーを呼んで、ありったけの甘味を部屋に運んで貰った。
「お嬢様?突然どうされたんですか?」心配そうに給仕するルーシーに、
「最近疲れが溜まってるみたいだから、今日は甘いものを沢山食べて鋭気を養おうと思って」
と誤魔化す。
「それが良いですね!」
「直ぐにお茶のご用意もしますね」
ティーセットに、紅茶を淹れる。
先日のお茶会で、王妃殿下から頂いた茶葉だ…
バラの香りが漂うと、
ふと、最初に王太子殿下にお会いした、バラ園を思い出す。
あの時は私は、淑女の恥、殿下にお腹の虫の音を晒してしまったんだわ。
と、思い出す。
それから、『トレ・ゾール』を開店させて…
開店準備中は、毎日殿下が手伝いに来ていたんだわ。
未来の国王様が、床に座って、職人に肩を叩かれながら、手づかみで食事する姿なんて…
大工の手伝いで、釘を落として、頭を棟梁から叩かれて、逃げ回っていた殿下のあの時のお顔。
今、思い出しただけでも、笑ってしまうわ。
それから、二人でランチに出かけるようになって、一緒に行ったフレンチの店で、殿下に頂いたネックレス。
あの時の殿下のちょっと強引なお顔は、今でもはっきりと覚えているわ。
それから、王宮でのダンス。
とても緊張したけど、殿下のシガーの仄かな香りがふんわりとした瞬間、
恥ずかしくて、目を逸らしてしまったのね。
迷子になった私を見つけた時の、泣きそうなお顔…
どうしたのかしら?
忘れようと思っても殿下の顔が…
殿下と過ごした時間と思い出が
溢れ出して止まらない……
どうして? かしら?
───好き…
私は殿下のことが好きなんだ…
溢れる想いに胸が締めつけられた。
───私は望んではいけない。
止めどなく流れ落ちる涙に
ルーシーが背中をさすってくれた…
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