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37 英雄

 王宮の廊下では、男達の声が聞こえていた。


「これはこれは、王太子殿下と、公爵閣下。どちらにおいでですか?」


「そのほうに、教える必要はない」

低い声で殿下が答える。


「おぉ、怖い。まぁ、そのようにおっしゃらずに」手を揉みながら、薄ら笑いを浮かべる。


「先日は娘が、殿下の母上、王妃殿下にお茶会に誘って頂いたと言って大変喜んでおりましたぞ」


「大変楽しいお茶会であったと申しておりました」


「私も、自慢の娘を、王妃殿下にご紹介出来て光栄でございます」

 ニヤニヤしながらフォンターナ侯爵が言う。


「将来、親戚となるやも知れませんからな」

フォフォフォっと、下品な甲高い声で笑う。


 その瞬間、王太子殿下と、公爵の顔色が変わったことに、男は気づいていなかった。


 一瞬冷ややかな空気が流れたが「では、また」とフォンターナ侯爵が礼をし、歩き出す。


 フォンターナ侯爵のお父様は、元は辺境伯であったが、先の大戦で隣国の侵入を食い止め、戦死された。

「国の危機を救った男」としてこの国では今だ語り継がれる英雄であった。

 その功績を称え、侯爵に叙爵されたのだ。


 その戦場で亡くなる間際に、前グレンシード国王と親友だった、前フォンターナ辺境伯は「お互いの孫を将来結婚させる」と約束していたのだった。


 フォンターナ辺境伯が亡くなった為、書面にての契約は残っていないが、彼の栄光と功績のを称え、この国では常話と語られていたのだ。


 それが王太子殿下が、この年になっても婚約者が居ない理由の一つになる。


 ただ、現国王が即位してからは、新興貴族派の台頭により、そのトップである、フォンターナ侯爵家との縁組に王家が何色を示していた為、話が進んでいなかった。



「殿下、先日の件ですが、やはりフォンターナ領の港に、大型船が数隻停泊したままでした」

 ヘンリーが言う。


「やはりそうか」


「しかし、動く様子もなく、現在も見張りをつけています」


「で、積荷は何かわかったのか?」


「大量の木材が運ばれているのを目撃しております」


「うーん。鉄に鉛に、木材…」


 殿下は、顎に手をあて、暫く考える様子で上を向く。


「大きな船でも新たに建造するつもりか?」


「でも何の為に?」


「ポーションの方はどうだ?」


「最近は値段も落ち着きはじめているようです」


「ふーん。その件とポーションの高騰は別か?」


「今、暫く様子を見るように」


「は!」


 頭を下げてヘンリーは部屋を後にした。



「どう思う?クロフォード?」


「私の方でも、北の様子や、贔屓にしている商人にも、それとなく、たずねては見たのですが、隣国にも大きな動きを見せる国は現在は見られず。との回答でございました」


「そうか…」「ご苦労であった」



「身に余る光栄でございます」


「もう少し様子を見て、動きがあるようなら、私から陛下に進言しようと思う。今の段階では、情報が少な過ぎる」


「左様でございますね。公爵家としましても、最善の注意を払い、情報を集めますゆえ…」


「頼んだぞ。グレンシード」



 王太子殿下の執務室を出た、エレナの父親である、グレンシード公爵は、神妙な面持ちで岐路についた。









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