35 忍び寄る闇
最近、デビュタントの準備やら、王妃殿下の誘いの「お茶会」やらで、忙しくてなかなか店に顔を出せていなかった。
あの「お茶会」での女王蜂の、嘲笑う顔を思い出すと、朝食のパンを、思わず握りしめていた。
「お嬢様。パ、パンが……」
あ、ゴメンナサイ… つい…
今日は、久しぶりに『トレ・ゾール』に「パート」に行こうかしら?
と思い、早めに朝食を終える。
「いらっしゃいませ~。って、おじょ、オーナー!」
「ごめんなさいね。最近忙しくてなかなか顔出せなくて、みなさんは変わりないかしら?」
「大丈夫ですよ。オーナー」
「売れ行きのも変わらず順調ですし、商品の方も、充分確保出来ております」と
アンが胸を張って言う。 頼もしい店長だ。
アンって、あんなに胸が大きかったかしら? と、ふと、その控えめな自分の物と比較する。
悲しい気持ちになり…奥の倉庫ドアを開ける。
「あ! おじょ、いけね。オーナー! いいところに!」
久しぶりに見たトムは日焼けして、少し背も伸びたようだ。可愛さがまだ残っていた顔は、随分とたくましくなり、大人びて見えた。
「実は、最近、市場の方で妙な噂を耳にしまして」
「今日あたり、屋敷に戻って、旦那様とお嬢様、セバスさんにも、お話しようと思ってたところなんですよ」
「ん? 何かあったの?」とたずねると、
「最近隣国から、大量の鉄や、鉛を積んだ船が、北の港に運ばれて来ている。って言うんだ」
「え? それは本当なの?」
「間違いないです。市場の魚屋や、北の漁師も言ってましたし」
「気になって、俺の実家がある、フォンターナの友人にも確かめてみましたが、毎週のように、大きな船が港に入っている。って言っていましたから」
「フォンターナから来た冒険者達からも話を聞いたんで、間違いないと思いますよ」
「それに、冒険者からの話だと、最近ポーションの値段が、跳ねあがってるって話ですよ」
「なんか、気になるでしょう?」
確かにそうねぇ… 新しい船でも作る気かしら?
でもポーションは?
とりあえず、お父様には報告しとく方が良さそうね。
「ありがとう。トム」
「ところで、フィニーとは、どうなってるの?」とたずねると、
鳩が豆鉄砲くらったような顔で口をポカンとあけながら、一瞬固まったが、
頭を掻きながら照れくさそうに、
「年明けの春ぐらいには、一緒になれれば…と思ってるんです」顔を赤くする。
「ええ! おめでとう! 良かったわ!」「そのことはフィニーには?」
「先日伝えて了承してもらいました」再び頭の後ろを掻きながら小声で言う。
「あ! でも! まだこのことは他の人には言ってないんで、他の人には内緒にしておいてくださいよ」
「ダラスさんに知られたら、俺殺されちゃいますょ」と苦笑いする。
「旦那様には年を明けたら、二人で報告に上がろうと話ていたんです」
「そうなの? それにしてもおめでたいわ。おめでとう!」
「お父様には、トムとフィニーの話は黙っておいて、積荷とポーションの件だけ、お話しとくわね」
「ありがとうございます。お嬢様」「あ! すいません…」
倉庫を後にし、2階の休憩室兼、事務室で、帳簿に目を通し、再び店内に戻ると、
デビュタントの時に助けてくれた黒騎士様の姿が!
今日は軍服はお召になっていないが、お顔は、はっきり覚えている。
ずっと誰かに似ている?
と、思い出そうとしていたからだ。
「先日は助けて頂いてありがとうございました」「お礼もちゃんと出来ずに申し訳ございませんでした」と声をかけると、
「やぁ! 元気にしていたかい?」
「今日の僕はラッキーだったね」「貴女に逢えたから、レディ」と、
綺麗な笑顔で微笑む。
黒髪と精悍な顔立ちに、惹き込まれそうになる。
時折見せる、漆黒の瞳から発せられる鋭い眼差しは強い印象を与える。
殿下とは違った美形よね……
殿下が太陽なら、さしずめ、月の王子様って雰囲気だわ…と、心の中で呟く。
でも、誰かに似ているとは思うんだけど…イマイチ思い出せないのよね……
中身おばさんの私は、やはり記憶力が乏しくなっているのかしら?と、納得する。
「面白ければブックマーク、評価をして頂けると作者は泣いて喜びます。よろしくお願いします」




