34 はじめてのお茶会
王妃殿下からの手紙を受け、うちの精鋭部隊による準備が大急ぎで行われた。
「お嬢様、よくお似合いでございますよ」
「どんどん最近お美しくなられますなぁ」
セバスチャン夫妻の声だ。
淡いピンクの生地に小さなバラの花の刺繍をあしらった、可愛らしいドレスだ。
王妃殿下主催のお茶会には、王妃殿下の「赤バラ様」の二つ名に敬して、何かバラのモチーフを模した物を身に付けるのが一般的だ。
公式の場で、赤いドレスを身に纏うことはタブーである。「赤」は王妃様の象徴である。
ルーシーを伴い、馬車に乗り込み窓の外を見ると、外はすっかり秋色だ。
青く高い空は、殿下の瞳のようだった。
城に着くと、王族の護衛騎士様に、庭園のバラ園に案内された。
ハァ…行きたくない……憂鬱だ……
元パート独女の庶民には、貴族の集まりは、未だ慣れない。
「本日は、王妃殿下におかれましては、ご機嫌麗しく……ご招待頂き誠に…」
なんとか噛まずに挨拶が出来て、ホッとする。
「エレナちゃん。お待ちしてましたのよ」「お座りになってぇ」と、鈴が転がるような声で微笑む。
嗚呼、こう言うのを「女神」と言うんだ。冥土の土産に良い物が見えたわ。
それにしても王妃殿下って30歳はとっくに過ぎてるわよねえ?
それなのに、この肌艶! 流石お金持ち! 今度お肌のお手入れを教えて貰うかしら?
周りにはすでに、沢山の、黄色や緑、水色にピンクと、色とりどりのドレスを着た、淑女達の笑い声や、おしゃべりが聞こえている。
「エレナちゃん。『エレガンス』のお礼よ」
「是非受け取って」と、満面の笑みで、王妃殿下から小さな小箱を差し出される。
王族からの申し出に断れるはずもなく、申し訳ない気持ちにいっぱいになりながらも、小箱を受け取る。
その後、直ぐに気配を感じ振り返ると、
赤いスレンダーなドレスを纏った、先日の妖艶な女性が現れた。
大きく開いた胸元から、豊満な上半身の山が溢れんばかりで、その入口には、大きな赤いルビーと大粒のダイヤモンドのネックレス。
むせかえるような芳香に、一瞬眉が寄る。
北部の海沿いに、広大な領地を誇る、フォンターナ侯爵家の令嬢
「キャサリン・フォン・フォンターナ」だ。
フォンターナ家は歴史こそ浅いが、現当主による北部の海沿いを利用した、外国との貿易により、ここ数年で急激に成長したこの国では唯一、海に面している貿易と、国防の拠点だ。
その力は、豊かな海の資源と、膨大な資金力で、近年は、この国の新興派貴族のトップになりつつある。
「今日はお招き頂いて恐縮でございますわ」
「楽しみにしておりました」
「皆様、よろしくお願いしますわ」声高に挨拶し席に着く。
「こちらは、本日皆様との、お近づきのしるしに」と給仕の女性に目配せすると、
台車の上に、溢れ落ちんばかりの、箱が積み上げられていた。
「お父様が、諸外国を周り、買ってきて下さったお土産の、ほんの一部ですが、よろしければ皆さんで、お分けくださいませ」
甲高い声が庭園に鳴り響く。
「あら?初めまして。エレナ様」
「お会い出来て光栄ですわ」
「とっても可愛らしい方ですのね」
真っ赤な紅の唇が艶しく揺れ、
「ご自身でも、商いをなさっているエレナ様と是非お友達になりたいですわ」握手を求められる。
おずおずと手を差し出すと、
イタッ!
バラの花の蜜を吸った女王蜂の如く、魑魅魍魎で妖しく妖艶な女性は、私の手に再度力を込める。
「わたくしのような、お父様の伝でしか、珍しい物を手にすることが出来ないと女と違い、レオナ様は、自ら珍しい物を、いつもお手になさっていらっしゃるから、このような普通な物に興味はないかとは思いますが、是非、お好きな物をお持ち下さいね」
「わたくし達の、お友達になった記念に」と、目を細めて微笑む。
うん。どうやら私、嫌われているようね。
上等じゃん! アラサー女舐めんなよ? 100円ばかり扱う貧乏人って言いたいんかい!
こちとら、伊達にいくつもの修羅場潜ってきたわけじゃないんだよ!
心の中で叫びつつ…
ニッコリ微笑んで「こちらこそ、よろしくお願いしますね」丁寧に挨拶する。
その日の、私にとって「はじめてのお茶会」は、
恙無く終わった。
なんか今日は酷く疲れたわ…
侍女に、王妃殿下から頂いた、バラの香りの紅茶を淹れて貰い、一息つく。
お湯を注ぐと、ふわ~っと部屋中に上品なバラの香りが立ち込めて、バラの花がカップの中で咲く。
癒されるわ~
紅茶と一緒に入ってあった、バラのチョーカーを手にしながら、女王蜂の姿を思いだす。
めんどくさい……
早く寝よ……
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