22 公爵令嬢はパートに出る
無事「内見会」を終え、現在は、続々と集まってくる品物達を店頭に並べたり、倉庫に保管する作業を、ここのところ毎日行っている。
搬入作業と同時に「接客マナー講座」も開催する。
今回、新規で雇うことにした者は商業ギルドからの紹介ではあるが、今まで家庭の主婦だった女性達が大半だ。
「お客様に商品の説明をする」「接客をする」経験が全くないのだ。
連日の「100マス計算特訓塾」のおかげで、つり銭の計算の心配はない。
だが、接客は素人ばかりの為、客役と、店員役を交替しながらロールプレイを繰り返す。
そんな中私は、調理場をたずねる。
「ねぇ。ダラス。折り入ってお願いがあるんだけど」
「ん?何ですか?お嬢様?」「俺に出来ることなら何でもしますよ?」と、真剣な眼差しで私を見る。
いや、怖いですから…。
「『接客マナー講座』で「ならず者」役をお願いしたいんだけど」と、遠慮気味に言う。
「面白そうですねぇ」とダラスは口の端を上げる。
怖いですから…
「俺みたいなもんで、良かったらいいですよ」と二つ返事で了承してくれる。
いや、アナタしかいないでしょ。適任です。と心の中で呟いたことは内緒である。
ダラスは190センチ程ある大男で、強面である。しかし調理場の裏庭で野良の子猫を飼っている心優しい人だ。顔はコワイけどね…ゴメン ダラス。
馬屋のトムと庭師のハンスにも「ナンパな男」や、「耳の遠い老人役」などを頼んでみることにした。
皆「面白そうですね~」と快諾してくれた。
───店に着くなり、三人共、大立ち回りの迫真の演技だ。
馬屋のトムが「どう見ても気質には見えないっすね。」と揶揄うと、
「うるせぇ。チビ!」ダラスの太い声がし、ポカリッと頭を叩く音がする。
トムは涙目になりながら、走り逃げる。
いや、トムだけじゃなく、ここにいるみんな同じこと思ってたから……
全員が納得顔なのは、ダラスは気づいてない。
でもトムさんや、思ったことを直ぐ口にするのはイケナイことなんだょ。皆で目配せする。
その後も、和やかに?ロールプレイングが行われたのだ。
残念なことに「店員をナンパするチャラ男役」だけが、セリフ棒読み、小声であったが、誰もダメ出しはしなかった。素晴らしきかな連携プレイである。
主演男優賞の料理長ダラスには、終わったあと、みんなで拍手をした。
珍しく照れているダラスに、みんな大笑いだった。
数日後、店員の制服が出来てきた。
みんな手に取り、はしゃいでいる。
「どう?似合ってる?」と、主婦のアンナが、同僚のアンやフィニーとワイワイやっている。
アンナは四人の子持ちの、肝っ玉母さんだ。
フィニーは16歳と若く、笑顔が可愛い赤毛の巻き毛だ。
そんな中、私は新しい雇用形態を導入したのだ。
そう! 「主婦の味方パートタイムジョブ」だ。
家事や子育ての合間の小遣い稼ぎや、生計の足しにと。
社会に出ることで、責任感や、仲間との共同作業、売れた時の嬉しさ。
この世界の女性達にも、そんな選択肢を与えてあげたかったのだ。
午前中だけの主婦さんや、週に3日だけ4時間の主婦さんなど、自由に働ける環境にした。
開店前作業中も「パート従業員」として、賃金を支払う旨を伝えると、とても感謝された。
ちなみに私も「パート社員」として賃金を請求することにしている。
今日は3時間の労働だった。
勤務表に【3】と書き「社員」にサインして貰う。
月末にその数字を集計して賃金を支払うシステムだ。
主婦パートさんが、勤務表をマジマジ見ながら、指折り計算している姿を見ながら、前の世界を懐かしむ。
───実はこのことが、後々この国を経済大国に、のしあげるきっかけとなったことには、今は誰も気づいていない。
働き方改革「パートタイムジョブ」導入により、女性の社会進出が実現され、雇用と生産性が一気に加速したのだ。
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