12 本物の王子様
満面の笑みの王族御一行に薦められては、流石にお父様も何も言えず……悲しいかな中間管理職。
半ば誘拐のように私の手を取る王太子殿下に連れられ、いつの間にか気づいて見れば、むせかえるような香り立つバラ園に。
ハァ……キラキラとムンムンで酔いそうな予感……
そんな王太子殿下はと言えば、ニコニコと極上の笑顔を私に向ける。
私の緊張を解そうとしての行動だとは思うけど… 緊張で口数少なかったわけではなく、単純にお腹が空いていただけだ。
何せ本日、朝の5時起きだ!
それから朝食も早急に片付けられ、湯浴みだ、マッサージだと侍女レンジャーに揉みくちゃにされ、昼食時にはげっそり。
昼食もあまり食べずに王宮に向かった私は、謁見中ずっとお腹の虫が鳴るのを心配しながらで落ち着かなかったのだ。
そんなこと当前あの場で言えるはずもなく……得意の営業スマイルで早く終わるようにと、ただひたすら心の中で祈っていたのだ。
「花はどんな花が君は好き?」「バラは好きかい?」「あのハンドクリームは本当に素晴らしいねぇ」などと、王太子殿下が優しく甘い声で私に語りかける。
空腹感マックスな私は全く耳に入らない。
お腹すいた……
屋敷に帰ったらお腹いっぱい食べてやる! と思いながら王太子殿下に微笑む。
───その時だ。
ぐぅ~~。っと鈍く低い音が。
ウギャーーー!やばーーーーーーーい! お父様ごめんなさい。
恥ずかしくて顔から火が出そうだ。
その時、そっと王太子殿下が、後方に控えていた近衛騎士様を呼び小声で何か話している。
その後、私の方を見て「申し訳ない。私が、わがままを言ったせいでレディに失礼なことをしてしまったね」と優しく言い軽く頭を下げる。
恥ずかしくて私は顔を上げれないまま下を向いていると、王太子殿下が私の手を取り「直ぐに用意させるから、もう少しだけ待ってくれるかな?」と、優しく極上の笑顔で言う。
「申し訳ございません。お恥ずかしいところをお見せしてしまい。何とお詫びして良いものやら」私が深く頭を下げると
「レディを前に配慮が足りなかった私のせいだ。どうか許して欲しい」
反対に王太子殿下に謝られた。
その後、テーブルに用意された軽食を食べるように薦められたが、初対面で、しかも王太子殿下を前にして食べれるわけがない。私が手をつけずにじっとしていると、
「どうしたの?嫌いな物だった?」
優しく問われる。
ちがーーうわ!あんたの前だから、食べ難いんじゃ! と大声で怒鳴りたくなったが、ここは決死の我慢。
その後も、何度も王太子殿下に「遠慮はいらないよ」と優しく声をかけられ、王太子殿下がサンドウィッチを口にしたのを確認し、私もゆっくり手を伸ばす。
うん。んまい! 安定の幸せ!
流石に王族を前にしてバクバクと食べるわけにもいかず、サンドウィッチを2切れ程摘んだ後、王太子殿下にお礼を述べた。
ハァ…… お家に帰りたい。
しかし、王太子殿下は終始「本物の王子様」だったわ。
(本物も、偽物も今まで全く見たことも、会ったこともないので、本物かどうかは比べようがないんですけどね)
早く帰ってお腹いっぱい食べて、お風呂に入って寝たい……
心の声がこの場に聞こえないように神様にそっと祈った。
「最後までお読みいただき、ありがとうございます」
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