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モチョロン争奪戦

「ほれ、吸うてみい」


 ………………無理。

 つうか、知ってるぞコレ…。キ、キビヤックだろ?

 この奇抜な製造法はイヌイットやエスキモーたちが作る()()()()に他ならない。

 キビヤックでも一般的な日本人なら喉を通り辛いというのに、魔物の魔物による魔物のためのキビヤック異世界ヴァージョンだぞ………。ゲテモノには強い方だと自負していたが……、ごめんなさい。とてもじゃないが食える気がしない。


「この様に肛門に口をつけて一気に吸うんじゃ」


 この、のじゃロリめが。可愛い顔して凄まじいジェスチャーをしている………。

 だいたいどこが肛門なんだ。ぐちゃっとしてて分からな……、あったわ。これだわ。

 ホント臭いな………。「あ、ブルーチーズをドブに落としちゃったぁ、わーい」みたいな強烈な匂いだ。

 だが森の柱として、これはイッとかないとダメな気がする………。これは我が子たちが精魂込めて作った御馳走なのだ。……ん? 何集まってんだよお前ら。注目してんじゃねえよ、こっち見んな。


「俺は………。(つう)は、肛門からはいかない」


「………ほう」


 苦し紛れに通ぶって肛門を回避する作戦だ。頭からむしゃむしゃイッてやる。

 この鳥は……、モチョロンだっけ。昔セキセイインコを飼っていた事があるが、あれを一回り大きくしたくらいのサイズだ。この程度のサイズなら、勢いでむしゃれば何とかなる気がしないでもない。

 とりあえずひと口でペロリはさすがにムリだからまずは頭部を頂く。

 むしゃ………。

 ボリボリ、ばきゅ、もぐもぐ。


「おおー………………」


 何が、おおー、だ。ギャラリーがうぜえ。

 ん? 味の感想? もぐもぐ………。

 美味いよ。認めたくないが意外と美味い………。

 だが味とか心底どうでもいい。とにかく臭いんだよ。本気で臭すぎる。だが俺は大人であり、森の主だ。このような素晴らしい料理を作る鬼族たちに、それなりの敬意を示さねばならない。


「美味い!」


 頭部を咀嚼して飲み込むと、残りのモチョロンを天高く掲げ、叫ぶ。


「美味い! なんて美味いモチョロンだっ! これを作った英雄には、森の祝福があるだろう!」


 そんなもんはない。ただの口八丁、誉め言葉だ。ギャラリーが涎を垂らしながら注目している。製作者への労いはこれでオーケーだ。そうだ、そしてそのまま俺の罠にかかってしまえ!


「俺は、俺は今までこんなに美味いモチョロンを食った事がない! 溢れんばかりの魔力を含んだ芳醇かつ神秘的なこの香り! そして一度口に入れれば、魂魄をも一瞬で蕩けさせる濃厚な味わい! これこそ感涙を誘う森料理の最高傑作だ!」


 自然と涙が滲む。臭くて吐きそうだ………。

 そして森料理って何だ。まあいい。皆の視線はモチョロンに釘づけだ。


「このような最高傑作を独り占めしては(ばち)が当たる。そうだな……、スズ。此度の原野での活躍、素晴らしかった。その強さを称えて、この美味すぎるモチョロンを君に与えよう………」


 受け取れ! 頼む! ………受け取ってくれ!


「お♪ そうか。そうであるか。ふふ、よかろ。その鳥はモチョロンという名ではないが、ありがたく頂こう」


 チョロい! 自分からふっといてなんだが、あまりにもチョロすぎる! 仄かな罪悪感さえ感じる! だがモチョロンを完食するという最大の難関は乗り越えた。許せスズ…。そして俺はさりげなく、じんわりとその場から後退する。モチョロンじゃないなら何という名の鳥だろうか、という一抹の疑問を抱きながら………。



「あいや待たれいいいいい!」


 唐突に聞き覚えのある大声が広場を貫く。

 筋骨隆々の赤い巨人が、どすんどすんと魔物たちを掻き分けながらやって来る。その股間には、子供の教育には決して良くはないであろうサイズのアレが、盛大に揺れている………。

 この鬼は、ヤツだ。


「この香りはシシドリ! 幻と謳われる極上の酒の肴! この我が見逃すと思うてかあ!」


「もぐもぐ。なんじゃ、お前もモチョロン食いたいんかえ? じゃが主さまはこうおっしゃった。『その強さを称えて』と。お前は強いのか?」


「ニンマ。いや、スズ。我もおぬしの強さは認める。だがそのモチョロン! 指を咥えてただ見ておる訳にはゆかぬ! 次の一羽は我が頂こう!」


 モチョロンという名前が定着しつつある。もうモチョロンでいいと思う。


「いや! 次はオイラだ!」


 疾風の如くボロが舞う。旋回しながら割って入るようにそこに現れたのは、鬼の少女ハガタだ。

 胸元を隠す布の面積が極めて少ない。健康的な乳が揺れて無駄にエロい。危うく乳首が見えそうだ。


「ハガタ………。おぬしは強くなった。だがまだ我には届かぬ。引け………」


「嫌だ! オイラもモチョロン食べたいんだ!」


 そういえば序列問題もあったな……。いい機会じゃないか。白黒はっきりさせてしまおう。


「双方一歩ずつ下がれ! …よし。この決闘を見届けよう。勝者にはモチョロンを一羽与える。そしてさらにこれを勝ち抜き戦としようか。鬼もその図体で一匹じゃ不服だろ。二回勝てば二羽貰える段取りにしよう。敗者はそれまでとする」


「さすが殿! 望むところよ!」


 鬼の筋肉がはち切れんばかりに、めきめきと盛り上がる。目が据わり、組んだ指をバキバキと鳴らす様がいかつい。このおっさん、実は相当強いと思うんだよね。弱体化前の旧タイプの鬼だから弱いはずがない。


「槍は…」


「刃物はダメに決まってるだろう。スズ。審判を頼む。素手で魔法なしの一本勝負だ。大怪我しそうだったり、危なくなったら止めてね」


「あい分かった」


「希望者はそっちに並んでね。順番順番。モチョロンがなくなったら終わりだからな」


 これでモチョロンを確実に消化できるぞ。


「コトは………、いないか。誰か、椅子とかあったら持って来てー!」



 …さて。これはなかなかの見物だぞ。ハガタのポロリもあるかもしれない。俺はお先に一杯やっちゃおうか。

 誰が誰より強いのかっていう単純な興味も無論ある。森は広い。まだ未発見の、まさかの逸材が現れるかもしれないしな。俺にとってはこの決闘が酒の肴だよ。


「よーし、酒が来たら始めるぞ!」

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