改造人間コマンチ
「………………オチよ」
「なあに?」
「そのオチよ…。なんで恋心が芽生えるのか分からん。言うて敵だったろう俺ら。好きになるタイミングとかなかったくない?」
「喋り方がキョドってますわよ? 動揺してくださってるのかしらサンカ様」
セコイアの倒木に腰掛け、溜め息をつく。突発的に好き好き言われても全くピンとこない。細やかな感情の機微なんて、まあ当人にしか分からないものなんだろうけども………。
「揺さぶってくんな。………まあでも、面白い話だったよ。魔女の昔話は聞いてて楽しいね。絡新婦が登場しなかったけど、彼女とはうまく合体できてるの? 心の面で」
「ちゃんとひとつになってるわ。とってもイイ子なの。融合して驚いたわ。ここの魔物って皆、忠誠心がイッちゃってて危険なレベルなのよね。もう狂信者の域よ。でも優しくて愛情深い心は受け入れ易かったわ」
えー…、ホントかあ? 言っちゃあなんだが、絡新婦感がない。見た目は見事に合体してるが、精神面ではアナベル一色に見えるぞ。
折を見て妹に検証させてみてもいいな……。この女、あやしいっちゃあやしい。
「で、序列はどなっているの?」
「へ?」
「魔物の序列よ。まさか年功って事はないでしょうし。…え? もしかして適当に侍らせているの?」
「………知ってて聞くなよ」
「やんわりと忠告したのよ。そうゆうとこきちんとしておかないと、すぐ揉め事になりますからね。魔物同士の喧嘩を力づくで禁じてるなら、序列もしっかり決めてあげないとストレスを生むわ」
くそう…。一理ある。犬の多頭飼いのようなものか。会社なんかもそうなんだよな。複数の上司に命令されるとめちゃくちゃしんどい。下の立場になればなるほど割を食うんだよな。
この辺りの匙加減は本当に難しい。言われるまでもなく真剣に考えてやらないといけないな。
「サンカ様。ロイコ持ってきましたが、もう壺はこれひとつしか残ってません」
ハーピーがニヨニヨしながら、黒い花瓶のような壺を持ってくる。あの中に穢れの虫がぎっちり入ってるのかと思うと胸やけがする。
「………ひとつで十分足りるだろ。うぇ…、アナベル?」
さっそく蓋を開けて蠢く虫を覗き込む魔女………。よくやる。
「辺境伯には六匹もいれば事足ります。他の者は一匹ずつでいいでしょう。残りはとっておきましょうか。人間界なら高額で捌けます」
「うっ、売れるの? こんなキモいのが…?」
「高値で売れますよ。街へ行きたいっておっしゃってませんでしたか?」
「そりゃ、………塩とか服とか欲しいから」
「森の資源を売るより、こういった要らないモノを資金源にするべきです」
それはそうなんだが………。
この虫は魔法使いの間ではナミウズ紐虫と呼ばれる貴重な虫で、人間界では幻の絶滅種であるそうだ。人間に寄生させて使役する使い魔の中では、ダントツの性能を誇っているらしく、良い機会だから辺境伯で色々試したいという希望だ………。
可哀そうに……。
「一匹づつ取り分けるから、名前を付けてくださる? 高位の魔法使いが名付けると、うんと性能が良くなるの」
凄まじい抵抗感が湧く。こ、これに名前付けるの? やだなぁ………。
「俺、魔法使いじゃないんですけど………」
「みたいなものでしょう。保有する魔力であなたに叶う者はいないわ」
「俺の使い魔になっちゃったりしない?」
「もちろんそうなるわよ。でも使役するのは私だから安心して。あなたには手間はかけさせないから」
んー…。なんか育てるのは私だから認知だけして…、みたいなノリが嫌だ。
「はい、これ」
「激レアキモ虫1号」
ピカーン。と光る。キモい。
「はい、これ」
「激レアキモ虫2号」
ピカーン。ちょっとエモい。
「はい、これ」
「激レアキモ虫3号」
ピカーン。………こんなんでいいのか?
※コマンチ辺境伯視点
「おい…、よせ、やめて…。やめてください! い、いやだ! ちょ………」
「暴れないで。鬼さん、もっと顎を上げさせて」
「うむ! 観念するがよい!」
「ぎゃあああああ! やめてくれえええええ!」
えぐい! えぐすぎる!
部下がフルチンのいかついオーガに押さえ込まれて、鼻にとてつもなくキモい虫を挿入されている………!
こ、こいつら戦争犠牲者保護に関する条約を知らないのか! 巨大なイチモツをぶらぶらさせたオーガに抱きしめられる拷問だけでも、最低限の捕虜の人道的待遇を保証するという項目を完全に無視しておる! せ、戦犯だ! さらに怯える捕虜の鼻の穴に奇怪な虫を突っ込むなんて……、こ、これは立派な戦争犯罪だ!
「やめ………て、く、りぇふ。えふふふ♪」
「うまく入ったかな? 激レアキモ虫1号、どう? イケそう?」
「かんぺきれぇ~す」
「凄い…、聞いた? 秒で支配したわよ。この速さ、尋常じゃないわね…」
「さすが殿の名付けた虫なのである!」
な、なんて無慈悲な女なんだ………。
狂ってる! この魔女は完全にイカレている!
希望を失い、震えながら目を白黒させている間に、だんだんと鼻の穴に突っ込む手際が改善されつつ、あっという間に吾輩の順番に到達してしまった………。
血管の浮いた逞しすぎる腕で後ろから抱き留められ、背中にふにゃりとイチモツが接触するのが分かる………。い、嫌だ…。本当に嫌だ…。
「やめてくれ! 後生だ! もう絶対裏切ったりしないから、頼む!」
「辺境伯。残念ながらあなたは一筋縄ではいかないわ………。六匹仕込んで全身を大改造するから。ふふふ…」
「笑うな! せめて残念そうな顔をして言え! しかも吾輩だけ六匹だなんて! ちょっぴり多すぎると思わんのかこのクソババア!」
「今までの度重なる洗脳魔法で、かなりの耐性が付いてしまっているのよね。あと重要な立場でもあるし、この先簡単に死なれても困るのよ。…はい、アーンして」
度重なる………洗脳魔法、だと? やっぱりこのババアめ、今までちょくちょく吾輩の精神をいじっておったのだな! し、しかし今はそれどころではない!
うねうねと蠢くうどんのような虫が顔に近づいて来る。やめて、やめてやめて。
「許して! アナベル様許してください! ゆる、アナヴェ…、アナ…、ぁむ!」
ごっくん。
「飲んでしまったあああああ!」
「はい。おかわり。アーン……」




