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土蜘蛛

※マルコ視点



 嬉しそうに背中から蜘蛛の足を生やして、人間を卒業したと豪語するバルテル。あの万年(うだつ)の上がらない農家の次男坊が、私の一歩先を歩いている。ああ、それは人生の話であって、今こいつは胡坐をかいて、ガマの饅頭を頬張っている。

 人の身ではありえない、凄まじい魔力を放ちながら………。


「実に美味いですな! この花粉饅頭!」


「……イケるな。花粉がこんなに美味いとは知らなかった。マルコ、髭茶(ひげちゃ)をくれ」


 ベムラーは煤塗れだ。髪もぼさぼさで、軍服が焼け焦げている……。よほど空腹だったのか、普段は甘いものを嫌う男が次から次へと饅頭を口に捩じ込んでいる。


「一体何があったんだ? ざっくりでいいから、事の顛末を教えてくれよ………」


 髭茶を注ぎながら訊ねる。饅頭が喉に(つか)えたのか、(しか)めっ面のベムラーが、胸を叩きながらバルテルを見やる。


「そうですね。あれから砦に幽閉されて……、気を失って、目覚めたらベーン団長と決闘していたんです」


「ベーン団長……? あのクリス・ベーンとか?」


「話を端折(はしょ)りすぎだろうバルテル。何がどうなったら団長と決闘になるんだよ」


「クリス・ベーンといったらかなりの猛者じゃねえか? 魔導士だてらに剣の腕も立つ手練れと聞く。確か、二つ名が………」


「炎の魔法使い」


「それだ。炎の魔法使い」


「端折ってるんじゃなくて、事実そうなんですよ。目が覚めたらチャンチャンバラバラの真っ最中でして……。ああ、家内が私の身体で戦っていたんですけれども。いやぁ、本当に強かったですよ、団長は。でも相性がね。家内は火属性の魔物ですから。それで押し込んで、勝利まであと一歩! というタイミングでアナベル様に割って入られてしまいまして。そこからは形勢逆転ですよ。もう逃げの一手です」


 一瞬でなくなる髭茶を注ぎ足し、饅頭のストックも棚から(おろ)す。お前ら晩飯前に食いすぎだぞ………。


「クリス・ベーンに押し勝つなんて……、絡新婦やっぱ強ぇな。アナベル・ベルとクリス・ベーンなんてナインチェット最強コンビじゃねえかよ。お前らマジでよく生きてたな」


『えへへへ…』


「まるっと家内のおかげです」


『あなたもカッコよかったよ? あの氷の魔法も素敵だったわ』


「その奥さんのせいで戦うハメになったとしか考えられないが……。まあ、それで仲良くなったんなら、怪我の功名とも言えるね。ともあれ、結婚おめでとう。で、ベムラーは? バルテルと別れた後何してたんだ?」


「俺は辺境伯に召還されたんだが、ナールデル湖は既に浮足立っててな。飛行船の準備も整っていた。アナベル様の暗殺の話を聞いて腰を抜かしたよ。アナベル様はああ見えて、御立場はナインチェットの側だからな。あの方がいなければ俺たちの祖国はとっくに滅んでいる………。おっかねぇ御方だが、助かってくれて俺は安堵してるよ」


「色んな事案が複雑に絡み合って、全てのベクトルがペッコリの原野に収束した訳か………」


「そうですな。その狂気の魔女も今や森の身内。人生何がどうなるかなんて本当に及びもつかないのです」


『姉さんのバカ………』


 最後の饅頭を咀嚼しながらベムラーが笑う。


「お前も元気そうで安心したぜマルコ。この小屋はもうお前ん家なのか?」


「そう…、言っていい、のかな? 女将さんも良くしてくれるし、問題はないよ。ただここは人間界のように、誰の土地とか物とかっていう感覚があまりないんだ。大きな括りでの縄張り意識はかなり強いんだけどね」


「縄張りか……。ならもうお前は、鬼の一員ってこったな。バルテルは蜘蛛の仲間入りだろ?」


「もちろんです。コト様から直々にお許しを頂戴いたしました」


『あなた。コト様がそろそろ広場に来るようにと………』


「了解。招集がかかりましたので私は先に広場に向かいますね。隊長たちも早めにいらしてください」


「分かった。身綺麗にしたらすぐ行くわ。マルコ、湯はないか? 水でもいい」


「煤だらけだしね。今用意するよ」



 裏庭に流れる水路に桶を浸す。何処(いずこ)の水脈から引き込んでいるのだろうか。淀みなく流れる美しい水が夕陽を虹色に反射して輝く。強い魔力を帯びていている証拠だ。ナインチェでこの水を売れば、それだけで一財産稼げてしまうだろう。

 ここ鬼の庭にとって、このくらいの奇蹟は日常茶飯事だ。まったく常軌を逸している。ポーションとさして変わらぬ魔法の水を、吐いて捨てる生活水にしているんだから。


 軽い溜息を零ながら、水を汲んで立ち上がると、(にわか)に夕陽を遮った影に驚く。

 大きな魔物だ。

 水路を挟んだ向こう側、大薬王樹を背に現れたそれは、あまりにも巨大な蜘蛛の魔物………。

 そしてこの蜘蛛には、石造りのお面のような頭が生えている。………人の顔だ。

 生物と呼ぶにはかなり異様な……、機械仕掛けを思わせる人工的な風体の蜘蛛。その巨躯の背には、ご機嫌斜めの面持ちで、半透明の幼い少年が頬杖を突いて座り込んでいた。


『オラは水が嫌いだ。だから人間、こっちに来い』


 思わずゴクリと生唾を呑んだ………。念話だ。直接脳に言葉と意思が流れ込んでくる。


「き、君は誰なんだ………?」


 なんとか言葉を返す。返事というよりは質問になってしまったが………。


『オラは土蜘蛛だ。人間と合体したいんだ』

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