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墜ちる

「お頭ーーーーーっ!」


 赤く燃えながら飛び立つメラに、仲間のハーピーたちが追従してゆく。

 人間サイズの巨大な鳥の群れが大空(たいくう)を舞う姿は壮麗(そうれい)だ。この光景をナショジオのカメラマンが見ていたならば、シャッターを切る指が止まらないだろう。

 こうなってしえば、残された我々はただの傍観者、観客になる他為す術がない。固唾を吞みながら華麗な空中戦の行方を見届けるのみだ。


 船体のほとんどを占めるのは巨大な気嚢(きのう)だ。地球の飛行船ならば、ガス袋なんて呼ばれるその中に、ヘリウムや水素等の空気より軽い気体が充填されている。

 この世界の飛行船に詰まってるのがヘリウムならばまだしもだが、もし水素の類であるならば大惨事は免れないだろう。これからその横っ腹に、燃え盛る火の鳥が突き刺さるのだから………。


 飛行船に群がるハーピーの群れ。(たちま)ちワッと火の手が上がり船体に燃え広がってゆく………。

 マジか。水素かよ。

 燃える。燃える。よく燃える。

 船体が傾いた。墜ちるのが早い!



「雍和!」


 キングコング三体に速やかに命令する。ゴリラに酷似した走り方で地鳴りを上げながら現場へ急行する雍和たち。一体がマンション程もある怪物の疾走だ。これもこれで壮観極まりない。ナショジオのスタッフがいたら喜びのあまり失神している事だろう。

 とにかく墜落が早い。燃え広がるのが止まらない。竜骨(キール)が剝き出しとなり、豪快にヘの字に曲がりながら落ちてゆく。


「なんちゅうもろい船じゃ………」


 いつの間にか傍に来ていた狒々が、誰かに言って欲しかったセリフを口にする。


「雍和は火は大丈夫なの? 火傷しないかな?」


「火属性ではないはずじゃが、あれくらいならば心配なかろう………と、思う」


 思うかよ。まあいっか。思うべ。



「主さま!」


 何だ? スズがアナベルさんの死体を抱き起しながら叫んでいる。

 見れば死んでいるはずのアナベルさんが首を傾けてこちらを見ている………。

 うっそん。まさか生き返ったの?


「今絡新婦が憑依しておっての、中の傷を診ておるとこなんじゃが、どうも様子がおかしい」


 ああ。絡新婦って妖怪だったね。半精霊とかなんとか……。へえ。憑依して体内を調べたりもできるのか。

 死体は目を見開いて、時々ピクピクと軽い痙攣を起こしているようだが………。


「念話が途切れているので……。何かを訴えているのは分かりますが、異質な魔力に阻害されています」


 コトが顎に手をあて、眉間に皺を寄せている。


「ふむ…。で、そもそもなんで憑依したの?」


「一発蘇生の可能性に賭けました。仮に蘇生に失敗したとしても、絡新婦なら無傷の脳から情報を吸い出せるかもしれないので」


 人間の脳から情報を拾えるとかやばくね? 精霊って存外えげつないのね。


「で、中に入ったはいいけど、連絡が取れないと……」


「そうです」


 あれ使うか。邪神アイ。まあ何もできないかもしれないがモノは試しだ。






※絡新婦(姉)視点



 心臓に穴が………。もちろん動いていません。そこからどくどくと血が溢れて、とんでもないことになっています。所々変色し、早くも肉が腐ったような………。

 あ、これは毒ですね。はぁ……。お手上げです。毒が使われているならもう手の施しようがありません。既に血に混ざり、全身隈なく駆け巡っている事でしょう。

 あきらめて撤退しようかと考えた時、何やらか細い精神の波動が……。おかしいですね。肉が腐る程の毒なら脳もとっくに死んでいるはず。

 ん? 血が動いている? 黒い血が蠢いて、ほんの僅かながら魔力を発している様です。魔力を帯びた血が一生懸命働いて、文字のような絵のような何かを心臓に描いている?

 ああ…、魔法陣ですか! 驚きました。さすがは魔物並みに長生きしている魔女です。この今際の際、死の淵にいながら魔法を行使するとは………。生に執着する並々ならぬ意志を感じ、背筋がぞっとします。

 その時です。その瞬間、誰かに肩を叩かれて思わず振り返って見れば、真っ白な空間を背に、柔らかく微笑む魔女の姿があったのです。


『あなたは、精霊?』


『あ、はい…。半ば精霊で半ば魔物の妖怪、絡新婦です』


『あー。スピノーザさんと融合した……、あの?』


『ああ、はい。そうです。あれは私の妹なんですよ』


『私もああなりたいのだけれど、できるかしら?』


 即座にピンときました。彼女は死にたくないのです。厳密に言えばもうとっくに死んでいるのですが、こうして魂魄となった今でも、生き返る方法を求めているのでしょう。

 一言で言うなら、幽霊ですね。


『ああなりたいも何も、あなたはもう死んでしまっているんですよ』


『お願い絡新婦さん。わたくしあの邪神が忘れられないの……』


 サンカ様の事でしょうか。忘れられないも何も、さっき会ったばかりでしょう。


『お願い…。あ、そうだ。今は人に見えるけれど、あなた蜘蛛なんでしょう?』


『蜘蛛ですが、なにか?』


『したくないの? 邪神と…、その…、セックス』


『は…?』


『交尾よ。子を産みたくないの? あの方との子を孕みたくないの?』


 こ、こ、こ、交尾………………? 何を言っているんですかこの幽霊はっ! ゆ、幽霊のくせに、えっ、えっちなあああ!


『人間の身体があれば、できますわよ………』


 あ、悪魔の囁きです! なんて怖ろしい魔女! ………でも、頭の中でいけない言葉が繰り返されます………。できますわよ………。できますわよ………。


『女として、抱かれたくはないの?』


 破廉恥すぎます! 死んでいるのにこんなにスケベだなんてどうかしてます! もうスケベを超越したドスケベなんだからっ! くっ…この女っ! で…、でも、でも………………。私だってサンカ様と………………。


『わ…、分かりました。や…、や…、やってみましょう!』


励みになりますので、面白い、続きが読みたいと思ってくださった方々、

是非、いいね。それからブックマークと下の評価をよろしくお願いします。

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