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アベルの聖剣

※コト視点



 スズが男を屠りました。ああ……、きちゃない……。なんて品のない殺し方。

 あの巨大な腕に興味がありましたが、実に残念ですね。ああもバラバラになってしまっては植木鉢(プランター)の素材くらいにしかならないので。


「主さま! この女じゃが!」


 魔女を抱き起こして叫ぶスズ。

 ……巻き添えを食っているでしょうね。ただでさえ瀕死の重傷だったのに、あれだけ隣りで暴れられたら、助かるものも助からないので。


「ああ、連れて来てくれ!」


「あい。いや、すまなんだ! なんちゅうかその、事切れておる!」


 まあ、死んで当然です。流れ弾も数発受けているので。



『コト様』


「ベルベル、死んだの……?」


『何ですか絡新婦』


「うん…。死んじゃったみたいだ。助けられなかったよ」


『私が憑依して診てみましょうか?』


「いいよ…。しょうがないもん。でもボク、約束を守らないと………」


『そうですね。まあダメで元々です。身体の傷を治癒して心臓を無理やり動かしてみてください』


「ん? 約束?」



「うん。ベルベルが死んだら、ボクが邪神を殺すって約束したんだ」



「土蜘蛛ッ!」


 幼子の言葉を聞き終えるより先に土蜘蛛に命令する。この子は今『邪神を殺す』と口にした。魔法言語による翻訳で、それは嘘偽りのないサンカさまへの殺意だと理解する。

 予め這わせておいた糸を引き、サンカさまを鵺ごと無理矢理後退させると同時に立ち位置をずらし、サンカさまの前に躍り出て肉壁となる。


「蝮共!サンカさまを守りなさい!」


「御意!」


「太陽を着て、月を踏み、十二の星の冠を被る………」


 目がイッてます。幼子の全身が、砂金を散らしたかの如く(まばゆ)く明滅して………。危険な呪文を唱えているので。考えていては間に合わないと判断し、闇雲に歩脚で蹴り込む!


「天の裁きを宣言し…グッ……、神の怒りに満ちた(つるぎ)を、地に、かっ…だむげ…」


 結界? 効いていない! 蹲って輝く子供をなりふり構わず何度も踏み続ける!

 後ろの男は抜刀もせず、土蜘蛛の巨大な足を、巧みな体術で往なしている。焦りが判断を鈍らせたか……。土蜘蛛ではダメだ。あの男、速い。


「じちっ、地に傾け………、命の書に、名が無き者を………」


 冷や汗が頬を伝う…。いけない。未だ感じた事のない危機感が背筋を凍らせる。

 業を煮やして掴みかかろうととするも、半ば透けた人体をすり抜けて空を切る。


「断罪せよ。アベルの聖剣」


 最後は殆ど聞き取れないくらいの呟きでした………。真っ白な光と共に、一本の眩しい剣が顕現する。この輝き、嫌な予感しかしないので……。

 幼子の姿は、もうどこにもありません。あの子自身が、あの子こそが、アベルの聖剣そのものだったのでしょう………。

 騙されました。してやられたとしか言いようがありません。

 こちらを振り向きもせず、空いた手で聖剣を(さら)う男。土蜘蛛を足蹴に、返す刀で一刀両断に斬り捨てるその背中………………。


「私の名はザック・エモン」


 聖剣を握るその男が、最悪の宣言を口にする。


「恨みはないが、ここで邪神を討伐させてもらう」






※ザック視点



 聖剣に討たれ、灰と化してゆく巨大な蜘蛛を見つめながら名を名乗る。


「私の名はザック・エモン」


 事態は想定外にして最も最悪な局面を迎えていた。ニコデンス・アラヤの逆心によるアナベル・ベルの暗殺。魔物によるニコデンス・アラヤの殺害。チャナによる聖剣の解放………。

 この様な展開になると予め知っていたなら、この会見には決して参加しなかったものを……。

 だが私に後悔はない。勇者の意志と運命に従い、邪神討伐をただ果たすのみ!


「恨みはないが、ここで邪神を討伐させてもらう」


 腹を決め、牙を剥くアラクネに向き直る。

 神話の聖典から飛び出して来たような見事な魔物だ。色鮮やかな斑紋を描く蜘蛛の肢体に、狂おしい程美しい女の上身(うわみ)

 勇者の相手にとって不足はない………。


『聖剣起動。

 所有者、騎士、レベル44。ザック・エモンに以下の修正がかかります。

 バフ。<英雄の心臓>の解放により、体力と魔力を70%上昇。

 バフ。<聖獣の松笠>の解放により、聴覚と視覚を25%上昇、及び<神の眼>を獲得。

 バフ。<雷神の督脈>の解放により、俊敏性を30%上昇させると共に、第六感の活性化を促します。

 <神の眼>を起動。敵一体を対象とし、弱点(ウィーク・ポイント)をレッドマークで表示』


 無機質なチャナの声が脳裏に響く。太古の勇者が見ていた世界観。全てが数値化された神の視界がここにある。


攻撃対象(ターゲット)を確認。アラクネ、レベル1339。ネームドモンスター』


「…え?」


『固有識別名<コト>。レベルの著しい差異によりレッドマークの表示対象外。

 攻撃対象へのデバフ不可。

 命の書に登録済の生命体である為、特攻スキル<断罪>も使用できません。

 デバフ。<正義の迷い>の解放により、ザック・エモンの総合能力を13%削減』


 …う、…う、うそだろおおおいいい?

 何だこいつ! ネームドモンスターなのか! しかもレベル………、せっ…千!

 1339だと! あり得ない! レベル1339って何の冗談なんだ!

 し、しかも私の総合能力を13%削減だと? こっ、殺す気かっ!


「エ・ノール・クワイア・サンカ・ル・エスパイド・コト。アイノーサ・ルケル・ダッタン。リオウ・モレ・ノー・スアル・ザック・エモン・ギヨルテ」


 「何言ってんだこいつうううう!」

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