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ペッコリの原野


 なかなかすごい眺めだな………。

 森を背にして、ずらりと原野に並ぶ蜘蛛の群れ。数百を超えるその雄姿はまさに圧巻。がしゃがしゃ蠢く数千もの歩脚が起こす地鳴りは、問答無用の迫力がある。


「コト、真ん中のあのでっかい蜘蛛は?」


 体高三メートルはありそうな超大型で虎柄の蜘蛛が目に留まる。アステカの石像じみた異様な人面を持ち、下顎から大きな牙が突き出ている。この中では圧倒的に見た目がイッちゃってる。こいつはロックンロールだ。


「土蜘蛛ですね。あれも絡新婦と同じ妖怪の類なので。水に滅法弱いですが、このような原野なら無類の強さを発揮するでしょう。今回は三匹連れてきました」


「ナイス。じゃあ蜘蛛軍団は右翼に並ぼうか。ここからあっちに向けて横一列で、数を見せつける感じでいこう。土蜘蛛はビジュアル最高だから手前の方で」


「はい。絡新婦、皆を並べて」


「はーい」


「あ、絡新婦。メラはどうなってる? まだ燃えてる?」


「燃えてます。バルテルさんと妹が火の番をしていますので、大丈夫です」


「ありがとう」



 お、狒々と雍和が来たか。おーい、こっちこっち。

 手を振ると、狒々がしんどそうにえっちらおっちら歩いて来る。その後ろに付き従うのは雍和。雍和は真っ黒な猿の魔物で狒々の側近だ。


「狒々大丈夫? 歩き疲れてたら休んでていいよ?」


「なんのこれしき。この胸の高鳴り! お祭り騒ぎに興奮して、逆に若返っておりますわいっ」


 お祭り騒ぎね……。まあ、この子たちにとってはある意味そうなのかもしれないな。けっこう暇だもんね。森にずっといると。


「そうだ、雍和。君って巨大化できるんだよね? どのくらいの大きさになれるの?」


「はっ? あ、ああ…。そうですね。あそこの一本松の三倍くらいでしょうか」


 うひゃっ、でかいね。キングコングじゃん。


「ちょっとやってみてよ」


「はっ? あ、はい…。しかし、巨身の術は森の掟でご法度に…」


「なんで御法度なの?」


 唇を尖らせた狒々が呆れるように呟く。


「嵩が高うて森を踏み荒らすからじゃ」


「なるほど。確かに。でも原野なら平気でしょ。術なら時間制限とかあるの?」


「半日くらいでしょうか……。でも逆に、一度使うと半日は解除できませんが……」


 今から使うと夕方までいけるな。よし、やろう。


「やろう。使えるのは雍和だけ?」


「拙者を含めて、同じ雍和の者でここに三匹巨大化できます」


「やっちゃえ。狒々、猿の軍団を全部あっちに並べて。蜘蛛の反対側にずらっと。威圧するのが目的だから横並びね」


(かしこ)まった!」



 いやあ壮観だなあ。このまま魔物を並べるだけ並べて、アナベルさんたちの腰を抜かしてやろう。こういうのはナメられちゃお終いだからね。この光景を見て喧嘩を売る馬鹿はさすがにいないだろう。


「殿!」


「お、鬼。なんか久しぶり」


 アレをぶらんぶらんさせながら鬼が現れる。何か穿けよその腰に……。ハガタも来たか。お前も薄着だなあ……。谷間見せんなよ、君ちょっとエロいんだから。


「サンカ様! 陳謝申し上げます! 他の鬼は弱すぎて連れて来ませんでした!」


 鬼なのに弱いというこの世界の現実…。まあいいよ。頭数はすでに整ってる。


「二人は狒々を手伝ってくれる? もう歳だし、多分色々大変そうだから」


「御意!」


「任せてください!」



 そういやスズどこ行った。


「コト? スズ知らない?」


「毒々蝮軍団が到着した様子で、迎えに行っているので」


「え? どく…ま?」


毒々(どくどく)(まむし)軍団(ぐんだん)です。ださい軍団ですが極めて危険です。取り扱い注意なので」


 毒々蝮軍団………。確かにださい。


「聞くまでもなさそうだけど………、どう危ないの?」


「十匹いますが、十匹とも強力な毒ガスブレスの使い手なので」


 毒ガスブレス。スズが鬼の庭で使ったあれか? ああ、あれは危ないわ。


「もし毒を吐かれたら、この辺り一帯は向こう百年、ペンペン草も生えない不毛の大地と化すでしょう」


 噂をすれば影。きゃっきゃうふふと(かしま)しい声と共に複数のラミアがやって来る。


「あぁら~ん♡ 主さまあ~ん♡ えらい色男になりはってぇ~♡」


「ほんに垢抜けてええ男やわぁ~♪」


「ふあぁ……。どきどきしゅる…。か、かっこいい…」


「ワンワンやった頃も可愛(かい)らしかったけんど、人狼の恰好(かっこ)も粋で良ろしおすなぁ」


「お、おう」


 まじで姦しい………。めんどくせえ………。お、スズ。

 背が低くてモブと化しまっていたスズが、小さな胸を張って空威張りする。


「下がれ()れ者共、お前らは向こうで待機じゃ。あのごつ苦しい土蜘蛛の陰ででも大人しゅうしとれ」


「えぇ~、そんな殺生なぁ。挨拶くらいさしてくれてもええやないのぉ~…」


「せやぁ姉御! (けち)臭い事言いなはんな!」


 おばちゃんだ! 見た目は若いが、こいつらの中身は厚かましいおばちゃんだ!

 その奥から見覚えのあるラミアが追加で寄って来る。ああ、シノか…。ん…? 白蛇? 見ればアルビノのように真っ白なラミアの手を引いている。



「主さま。ちいとようござんしょうか?」


「ああ、シノ」


「ここに。お白さまを連れて来んした。里におれば良いものを、どないしてでもとおっせんす故、どうぞ御挨拶さしておくんなんし」


「ああ。君がお白様だね」


「あい。あちきが……、お白にございんす………。御挨拶が、こげんに遅うなってしもうて…、誠に心苦しゅう思うておりんす………」


 この子が噂のお白様か。なるほど弱りきってるな……。穢れか。魔力も乏しいし酷い有様だ。


「色々話は聞いてるよ。俺がサンカだ。よろしくね」


「勿体ないお言葉え………。今となっては捧げられる様なものもござりんせんが、あちきの心は森と、そして主様と共にありんすゆえ………」


「ありがとう。ねえお白、正直に答えて。目はまだ見えてる?」


「………二つ目の方はもはや何も。三の目は未だ生きてはおる様子で、お天道様に頼って、だましだまし暮らしておりんす………」


 白内障かな? 水晶体が白濁している。機能しているのは三の目、第三の目か。蛇だから頭頂眼の事かな?

 まあいい。まだ時間はあるし、とっとと治してしまおうか。


「お白、目が見えたら何を見たい?」


「あい、………あい。花を。この闇の中…、ずっと花を見たいと思うていんした」


「そうか。なら君に、花をあげるよ」

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