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砦の夜

※アナベル視点



 会見前夜。砦の会議室で円卓を囲むのは四人。

 肩書なんてつまらないけれど、記号としては分かり易いわ。

 ナインチェット宮廷顧問、アナベル・ベル。

 剣聖、ニコデンス・アラヤ。

 カイヤナ王国近衛十士、ザック・エモン。

 カイヤナ王国ユーシャ、チャナ・カーン。


「この時代、気合の入った魔物と遭遇する事自体が稀だわ。例えばナインチェット国内で遭遇事例が上がるのは、西ハリマンヌ山岳地帯かオキホンの片田舎くらい。いずれも大した内容ではありません。小さく退化した知性もない魔物との接近遭遇ですね………」


 チャナ・カーンに落ち着きがありません。話も上の空で、オデの乳が注がれた、冷やされたコップに滴る結露を見ています。食い入るように………。

 扱いにくい。これからの大一番で、本当に役立ってくれるのでしょうか。


「今回はそういった低レベルの接近遭遇とは次元が異なります。帝国の規定によるところの、第五種接近遭遇。高度な知能を有する敵性魔導生命体との直接対話及び盟約を行う事。これに該当します。直近の事例ではカイヤナ歴三百九十一年まで(さかのぼ)り、カイヤナ王国領土内ナドル湖の眠りの森にて、念話が可能なトレントとの不可侵条約が結ばれました。互いに領土を侵さないという不戦の盟約です」


「知ってるぞ! 眠りの森の誓い! だからカイヤナでは質のいい魔法の杖が作れるんだ!」


「その通りよ。賢いわね」


「うへへへ…」


 聞いてないようで聞いてるのね。この恐ろしい子。


「魔物との話し合いで最も難しいポイントは、嘘が通じないところだと耳にしますが、此度の交渉は魔法言語で? それとも念話で行われますか?」


「可能な限り魔法言語を用いる形になるでしょう。交渉にはわたくし一人であたります。特に剣聖ニコデンス。あなたは決して口を挟まないようにお願いしますね」


「魔法言語なんざ一言(ひとっこと)も知らねえのに、どやって口を挟むんだい。俺ぁあんたの護衛。それでいいんだろ?」


「護衛に徹してください。交渉の内容はまず、辺境伯が独断で行った、処女峰森林調査隊による森への無断侵入の謝罪。そこでもし森に被害が出ていたのであれば、その損害補償の提案。基本的に平身低頭の姿勢で臨みます」


「立場はどうすんだい? 辺境伯の尻ぬぐいだろ? 帝国として頭を下げるのは、それはそれで具合が良くねえ。ナインチェットの重鎮として謝んのかい? そこははっきりしとかねえとな」


 剣聖に鋭い視線を向けられます。老いても帝国の忠犬なんですね、あなたは。


「わたくし個人として謝罪します。かつて邪神と相見(あいまみ)えた、勇者アベル・カーンの妹として」


「えええ? ベルベルってご先祖様の妹だったの!」


「この期に及んで隠し立てしてもしょうがないわ。そうよ。初代ユーシャ、いえ、勇者アベルの妹。わたくしの本名はアナベル・カーン。あなたの遠いご先祖様ね」


「ほえぇ………」


 驚くチャナ。可愛いわね。頬杖を突き、興味ないフリをしながら鼻を穿(ほじ)る剣聖。きちゃないからおよしなさい。普段から細い目を、いっそう細くして驚くザック・エモン。リアクションが薄いわよ。


「チャナ。まだわたくしがあなたくらいの歳の頃ね。勇者パーティーは邪神討伐を決行したのよ」


「ふあぁ………。邪神ってどんな魔物なの…?」


「そうね。正確に言えば魔物ではないの。力だけの存在、力そのものと言っていいかしら。邪神と呼ばれる通り、神様みたいなものよ。あの時は巨大な狼の姿をしていたわね。分かり易く言うなら、絵本に出てくるフェンリルよ」


「フェンリル! かっけぇー………」


「アベル・カーンが邪神を討伐したという記録はありませんが………?」


「あるはずがないわ。だって負けたんだもの」


「負けた………?」


「負けたわ。フェンリルはちゃんと殺したのよ。絶対に死んだと思う。でも相手はそもそも生命体ではないの。邪神という存在は、死の森全体に巣食う魔力そのものなのよ」


「謎っ!」


「謎ね…。話が逸れました。謝罪が上手く運べばそのまま盟約を結ぶつもりです。欲を言えば人類との不可侵条約。仮にこれを達成できなかっとしても、穏便に事態を落ち着かせる事ができれば、明日の交渉は成功と言えるでしょう。当たり前の事だけれど、第五種接近遭遇を滞りなく完結させる事。こちらの不手際で戦闘に発展するなど論外です。第六種接近遭遇になってしまいましたっていうオチだけは避けたいですね。第六種とは接近遭遇の結果、死傷が発生することを指します」


「もう第六種でしょうが。ハーピーにさんざんやられちまって………、うめぇ」


 お茶を啜りながら茶化す剣聖。それ高いんだからちゃんと味わってね。


「万が一戦闘に発展した場合は速やかに撤退します。その場合はこの砦も捨てて、首都ナインチェまで逃げ延びます。このパーティーは非公式ですので、その時点で現地解散としましょうか」


「へいへい」


「口を挟んで恐縮ですが、もし、もしもアナベル様が………」


 怖い顔ね、ザック・エモン。心配しなくても大丈夫よ。


「例えその時が来たとしても、約束は必ず果たされると誓いましょう」


「ありがとうございます………」


「ねえ…、ボクのお仕事は?」


「チャナ。あなたには最も重要なお仕事があるのよ」


「なになに?」


「このたった一つのお願い事の為にあなたを呼んだの。これはカーンの血が流れる同じ血族としてのお願い。そしてあなたにしかできない事」


「うん」


「もし事態が最悪の展開に転び、わたくしの死亡が確定した時『アベルの聖剣』を使って欲しいのです」


「え?」


「勇者として、あなたに邪神を抹殺して欲しいのです」


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