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火の鳥

※絡新婦(姉)視点



 東の森の果て。砦が見える林冠ギャップでせっせと巣作りをする私………。

 ここを合流地点として活用するなら、ある程度の快適さは必要ですから。

 まず枯れた老木を倒し、余計な岩を動かして、目印の一本松が良く見えるようにします。それから蠅虎たちにも手伝ってもらって、毒気のある植物の除草、邪魔な茨や低木も抜いてしまって、滑らかに土地を(なら)して整備します。

 どうせしばらく暇なので、やや大きめのハンモックを編んで設置。その周囲に糸で丁寧に織ったカーテンを吊るします。これは………、いらなかったですね。逆にサボってると思われそうです。

 なんてこちょこちょしていると唐突にコト様から念話が。


『少し前にサンカさまとスズがそちらへ向かったので。鵺に乗って行かれたので、予想より早く着くかもしれません』


『え? サンカ様が? ぬっぬっ鵺も! わ…、分かりました』


 まさか妹の尻拭いに、サンカ様自ら駆けつけてくださるとは………。予想以上の大騒ぎに、申し訳ないやらありがたいやらで、心臓がぎゅってなっちゃいます。



「イピカイエーッ!」


『ぅうえええええ?』


 バキバキと低木を薙ぎ倒して闖入者(ちんにゅうしゃ)(なだ)れ込んで来ました。え? 金翅鳥?

 金翅鳥が三羽。うち一羽が相当負傷している様で、仲間が出血する傷口を押さえながら、顔面蒼白で叫びます。


「お頭あああっ! しっかりしてえええっ!」


「あ! 絡新婦さん! 出血が止まらないんです! 足を糸で縛ってくれませんか?」


「はっ…、はい今すぐ!」


 傷を負った金翅鳥は首元が血塗れで、虚ろな目でヒューヒューと荒い息を吐いています。動脈をやっちゃってるのかも? これはどうにもできないので見送って、足を………、右足がない! 膝から下がなくなっちゃってる! 慌てて糸を吐き、腿をきつく縛ります。


『どうしたの?』


『金翅鳥が負傷しました。首の、おそらく動脈をやられて血が溢れています。あと片足も切断されていて重体です』


『傷を焼きなさい』


『………は?』


『首の傷、足の切断面も焼灼(しょうしゃく)しなさい。血を止めるんです。サンカさまが来れば何とでもなりますので、焼灼したら声をかけ続けて。意識がしっかりないと、名を受けられない可能性があります』


『わ、分かりました!』


「下がって! 傷口を焼きます!」


「えっ? そんなことしたらお頭が!」


 ですよね………。でもここはコト様を、いえ、サンカ様を信じます!


「サンカ様が間もなく到着なさいますので! それまで何としても持たせます!」


 歩脚で金翅鳥を押さえつけ、可能な限り調節した炎で首元を炙ります。お……、おいしそうな匂いがしますが我慢我慢。


「いがああああああああ!」


「お頭あああああ!」


「下がって!」


 溢れた血液が沸騰し、皮膚が溶け、何とか傷が塞がったように思いますが……、熱傷でよく分からない! こんな事をしたのは初めてだからやめ時が分からない!


「た、多分大丈夫です! 次! 足を焼きます!」


「た、多分って?」


 心配そうに私を覗き込んでくる金翅鳥たち…。そしてあまりの激痛に正気を取り戻したのか、目覚めた金翅鳥が震え声で訴えてきます。


「うせやろ? ちょ…、あんた何する気や………、しゃれならん、いややて」


「………足を、焼きます」


「あかんあかん………、いややて、やめて、焼き鳥んなる、ほんまに………」


 涙目で訴える金翅鳥………。可哀そうになってきました………。


「よけい死ぬってええ…、そんなん焼かれたらほんまに死んでまうからああ!」


「…………………焼きます!」


「いややあああああ!」


「何してるの?」



 ふう。

 いいタイミングでサンカ様が来てくださいました………。

 危なかったです。あまりにもおいしそう………、いえ、可哀そうで色々ぎりぎりでした。

 事態を把握すると、サンカ様は金翅鳥をハンモックに寝かせて、優しく頭を撫でながら、魔力を与えているご様子です。


「こわい………、焼かんとって、焼かんとって………」


「よしよし」


 気のせいでしょうか………。負傷した事より焼灼した事の方がトラウマになっているように見えます。


「こわい…、すき…、こわい…、サンカはんすき…」


 どさくさに紛れて愛の告白をしている金翅鳥。本当は大丈夫なんじゃないですかあれ………。


「俺が頼んだばっかりに……。ごめんな、ハーピー。約束だったね、ちゃんと名前を考えてきたんだよ」


「ウチら、薄情な種族や言われるけど………、ウチらもちゃんと、ちゃんと忠義の心を見せれたんよね?」


「ああ。とても立派だよ。よくやった。ハーピーはすごい種族だ」


「え、えへへ。ならもう、悔いはないなぁ。冥途の土産に、名前もろて逝くわ…」


「俺のいた異世界の、一番すごい鳥にちなんだ名前だよ」


「嬉しいなあ……」


「火の鳥と呼ばれる不死の鳥さ」


「え…、え? 火? 火は…」


「その火の鳥(フェニックス)の伝承を伝えたローマの学者さんから名をとって。《メラ》それが君の名前だ。可愛いだろ?」


「火はいややあああぁ………!」


 メラ。とっても素敵な名前ですね。

 名を授かった金翅鳥はたちまち燃え上がり、蔦で編んだハンモックと、私の力作のカーテンが焼失しました。


励みになりますので、面白い、続きが読みたいと思ってくださった方々、

是非、いいね。それからブックマークと下の評価をよろしくお願いします。

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