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空襲

※ハーピー視点



 ひい、ふう、みい………。なんや仰山(ぎょうさん)おるな。

 偉そうにしとる人間からいてまえってサンカはん言うとったな。…ほなあれか、あの団長さんとか呼ばれとったやつ。あいつからいてまおか。


「お頭ぁ、寄生虫(ロイコ)の壺持ってきましたよ! うへへへ」


「…それな。…ホンマそれ。上から散蒔(ばらま)く気なん? 正気かいな自分ら」


 ウチの配下たちがケラッケラ笑いながら持ってったんは、ロイコっちゅうクッソやばい虫や。あれや、寄生虫やな。二寸くらいのモチモチした虫で、虫やからまあ模様があるんやけど偶然か必然か、呪文が刻まれとる。太古からあるアカン呪文や。めっちゃ気持ち悪い。踏みつけても死なへんし、火で焼いても死なん。

 せや。あれやあれ、シノっちの魔石に湧いとった虫や。あれシノっちやったからまだ大丈夫やったんやで。一匹でも人間の中に入ってみいな、人間は魔石もなんもないから、あっちゅーまに脳みそ持ってかれるで。


「よっしゃ。ほなあんたらそれ撒いて。ウチはあの男しばいてくるから」



 魔法の準備に入っとるな。忙しそうに手ぇわしゃわしゃさして。ウチらとやり方がちゃうんやな、見てておもろいわ。風魔法か? 阿呆とちゃうか? 鳥やで? ウチ相手に風魔法はないやろ………。


「『粘着』! 螺旋焼夷弾(ドリル・ナパーム)!」


「お?」


 風で渦巻きこさえて炎を乗せたんか。器用やなあ。でもちょっと(おつむ)が足らんな。空におるウチらに当たる訳ないやろ。


「ひょい…っと」


「クッ………!」


 なにが「クッ………!」やねん…。当たると思とるんが寒気するわ。


「ドリル・ナパーム!」


「無理無理」


「ドリル!」


「もええって、ドリルすな」


「ドリル!」


「すな」


「ドリル!」「すな」「ドリル!」「すな」「紫電稲妻斬(しでんいなずまぎ)り!」


 いやドリルせんのかーい!






※クリス視点



 鳥の魔物に風は悪手(あくしゅ)だ。螺旋焼夷弾(ドリル・ナパーム)が通用しないのは承知。このドリルを撃っては回避される一連の応酬こそが勝利への道。やつが文字通りの鳥頭ならば、よもや小太刀の必殺の間合いに誘われているとは思うまい。

 ここだ!


紫電稲妻斬(しでんいなずまぎ)り!」


 油断して高度を下げたのが運の尽きだ!

 縮地にて間合いを詰め、雷魔法を纏った渾身の逆袈裟斬りが化け物を撫でる。

 斬った!

 紫電の切っ先が嘗めるようにその華奢な鎖骨を切断し、翼の自由を失った鳥は、派手に墜落して地をのたうち回った。

 空の覇者も、地に落ちたならばもはや恐るるに足らず!

 迅速に駆け寄り、その小さな体躯と比較して、やたらと大きな趾を広げた足を、膝下から斬り落とす。


「ェンテアアア(あいたあああ)!」


「殺す!」


 心臓を貫こうかというその瞬間、ふと視界を遮る極彩色の影。


「アノーラアア(お頭ああ)!」


 小太刀を逆手に持ち、上段に構えた無防備な腰元に、ずしりと鈍い、妙な感覚が走った。

 何だ…? 人生で初めて味わう異常な感覚に戸惑う。全ての思考が停止し、嫌な汗が噴き出す。己の腹部に全神経が集中する。…分かった。…分かってしまった。風魔法だ。私は風魔法で切断されたんだ………………。

 上段に構えたまま一歩も動かず、ひたすら『粘着』を腹に発動させる。

 動くと終わる。下半身の感覚が皆無だ。私は上下に真っ二つにされているんだ。

 ああ、死ぬ。

 仕留める寸前だった鳥は、まんまと仲間に抱えられて飛び去ってゆく。


「結局…、一匹も倒せなかったのか………」


 こんな『粘着』で持たせているだけの状態も長くは続くまい。恩寵(ギフト)が切れた頃、上半身と下半身が泣き別れとなって私は死ぬだろう。

 見上げれば、夕日に染まり始めた空を無数の鳥たちが埋め尽くしている。何やら黒い壺のような物体を持って、そこから何かを砦に撒き散らしているようだ………。


 景色がずれて、地面しか見えなくなる。雑草がそこらに生えている。管理の甘い砦だ。こんなだからナインチェは帝国から軽く見られるのだ………。

 その雑草の隙間から、見るからにゾっとする、うどんのような芋虫が這い寄って来る。よく見れば気味の悪い柄で、その身に何か文字のようなものが蠢いていた。

 魔法言語か? 呪文………か?


「………全ての世界が、邪悪な者の、………配下に在る」


 そいつは顔まで近づき、私の目をしばらく覗き込んだ後、めんどくさそうに私の鼻の穴に入った。


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