二匹の蛇
※ハガタ視点
「私たちにはまず魂魄というものがあるので。心臓は胸に、魔石は心臓の傍にありますが、魂魄に位置はありません。どこにでもあって、どこにもないのです。その魂魄から命令が生じて、経絡を通じ、魔力が働きます。同時に脳が働き、神経を通じて、骨が動いて、肉が動くのです」
「師匠…。全く分かりません!」
早朝。おいらはコト様の指導を受けていた。
コト様の細っこい体のどこからあのような力が出るのか。それを教えてもらっているんだけど、難しくてぜんぜん理解できない。
「ハガタは、………そうね。ちょっとそこの岩を打ってみてください」
え? 拳で? 痛そう………。だけど、やる!
「えいっ!」
ゴキッと鈍い音がして巨岩に小さなヒビが入った。手が痛い。ちょっと血が出てる…。
「力まかせに打つからそうなるので」
「………はい」
「私たち魔物の動く順番はこうです。魔力、気、骨、肉。およそこの順番だと覚えなさい。ハガタの動きは順番がでたらめです。気、肉、骨、魔力。となっているんです」
順番………。身体を動かすのに順番なんてあったんだ。考えた事もなかった。
「厳密に言えば順番なんてないんですが。そう言ったほうが分かりやすいから」
順番………。身体を動かすのに順番はないんだ。ん、…ん?
「もう一度打ってみなさい。魔力、気、骨、肉。の順番で。流れる様に」
え…っと。まず魔力。むむむ、拳に魔力を集中。それから気合。砕くぞ、岩! それから骨を動かす、仙骨! 肩甲骨! そして肉! おいらは荒れ狂う暴風だ!
「おらおらおらおらおらおら! おいらぁあああ!」
うっそん…。巨岩が嘘みたいにに簡単に砕け散った。手も痛くないし気分爽快だ! このやり方は本当にすごい!
「概ねそれで良いのですが…。その掛け声は封印しましょうか。危ない橋を渡っている上に渋すぎるので。細かい調整は今後も必要ですね。名を授かったので魔力の総量は相当に増えてます。やはり最も鍛錬すべきは骨の動きでしょうか。骨を常に揃えて、五体が綺麗に一体化する様を思い描きなさい」
「はいっ!」
骨。骨かあ…。よし、頑張ろう!
「骨が巧く使えるようになったら、次に進みましょうか。それから槍。あれはもう使えませんね」
「えっ? ………どうしてですか?」
「壊れるので。これから強くなるハガタの力に耐えられないと思います。ハガタも大切な槍を壊したくないでしょ?」
そうかぁ………。なんだかちょっと悲しいな。だってあれ人間用の武器だもんね。
「コトさんや、蛇が庭に来よるぞ。まあまあの行列じゃ。無論彼奴もおる」
「ウチさくっと飛んで見てったから間違いないで」
訓練していると狒々の翁様がやって来た。金翅鳥もいる。この二人は仲がいい。ちょっと羨ましいな…。
「来ましたか。シノはどうしていますか?」
「出迎えに行ったようじゃが………。ひと悶着ありそうでの」
なんだか変な雲行きの話みたいだ。蛇といえば、あのお方か。蝮のニンマ。森で唯一の名持ちの魔物だった蛇族の長………………。
「ハガタ。出番です。一緒に来なさい」
「え? でも槍は………」
「壊れるかもしれませんが………。心許ないならお持ちなさい」
「はい! おいらと槍は一心同体! 持って行きます!」
※ニンマ視点
鬼の庭など何年振りか………。肉桂かえ? この匂いは好かぬ。
嫌な匂いの大樹の下に、輪を掛けて嫌な女が立っておる。穢らわしい山蛇よ。
「出抜いたの、山楝蛇。今はシノさまと呼ぼうかえ?」
「山楝蛇でよろし。それよりどないしなんした? 御前さまは里に提灯を並べ、日を定めて主さまを奉迎する手筈でござりんしょう?」
っほう…。目の色が違うとる。穢れが晴れよったか? 魔力も抑えてはおるが、なかなか………。
「ハッ! シノさまが存じぬとはの。主さまに信用されておらんのではないか? 妾は各種族の長を集めよとの御触れに従うたまで。主さまは奥かえ?」
「座に堪えない戯言を。一族の長は今も昔もお白さま只ひとりでありんす。蝮如きが悪臭え…。そん腸ぁかっさばいたろかあっ!」
っほう! この魔力。ぞくぞくしよるわ………。
これが穢れに罹って残息も奄奄としておった女か? 主さまに名をもろうてこの有り様か。真に恐るべきは主さまよの。久方振りに興奮してきたわ。
「青大将、このシノを名乗る偽者を絞め殺せ。これは主さまの眷属を騙る、哀れで穢れた化け物よ!」
「そこまで堕ちなんしたか………。もはや遣らん方無し!」
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