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温泉①

 ハガタが意識を失った。

 重い沈黙の中、コトが脱臼(だっきゅう)したと思われるハガタの肩を、ぐりぐりといじくり回している。徐に腕をはめ直すと、ボキン! という異音がした。え? 脱臼治すのにそんな音鳴る? お…、折ったんじゃないの? 

 誰もが今俺と同じ感想を抱いているに違いない「コト(こえ)えよ!」と。なんとなく教育的指導だったのは分かる………。分かるが、これってやりすぎじゃないのか?

 狒々とハーピーの目も点になっている。女将さんの顔も真っ青だ。


「コ、コト。どう…、だった?」


「人間を相手に後れをとる事はないでしょう。でも弱い。やる気はある様なので、これからの成長は期待できます。ぎりぎり合格ですね」


 あれで弱いの? 空中で回転しながら七、八発打ち込んでたけど………。


「でもそれ以前に不潔すぎます。治療も兼ねて洗ってきますね。サンカさまはお気になさらず、先にお料理を召し上がってください」


 ハガタの足を持って、気怠そうに引き摺って行こうとするコト。


「ちょ、どこで洗うの?」


「庭の裏手に温泉が湧いているので」


 な・ん・だ・と? 温泉だと? 温泉があるのかっ!


「俺も行きたい!」


「あ、はい。どうぞ」


「ウチも行く!」


「儂も行こうかの!」


「え? じゃあ、私も!」


「え? 女将さんも来るの?」


「え?」


「え?」



 温泉へ続く細い道を歩きながら考える。

 どうせ混浴だろう、と。

 今までの経験上、魔物の文化は羞恥心が著しく低い。ハガタを担いで先頭を歩くコトは、ご存知の通りオールウェイズ全裸だ。今更ドキドキしない。多分…。

 ハーピーも狒々も全裸だ。一部の専門家の方々から叱咤されるかもしれないが、ハーピーは俺の中では子供セーフだ。狒々はほぼ猿だからケモノセーフだ。

 問題は残る二人。いや、百歩譲ってハガタもセーフとしてもいい。気を失ってるしね。

 問題は俺の前を歩くこの色っぽい女将さんだ。

 ちょっと深呼吸。


 「スー………ハー………」


 女将さんはダメだろっ!

 だって服着てるんだよっ! 最初から全裸なのと服着てるのに脱ぐのとじゃ全然違うんだよ!

 エ、エ、…エロいじゃないかそんなのっ!

 俺の邪神が邪神になったらどうすんだよ……。せめて混浴なのかどうか誰か先に教えてくれ。



 タイサンボクが麗しい花を咲かせる小さな庭園と、ギリシャのサントリーニ島を彷彿とさせる白い壁の建物があり、その先は真っ白な湯煙が視界を埋める。

 何だこのミスマッチは………。温泉というよりプチリゾート感がそこはかとなく漂っている。湯煙の向こうから、ビキニ姿の女子がひょいと顔を出してもおかしくない雰囲気だった。

 建物の、この漆喰でもない白いコンクリートのような壁に興味が湧く。原材料は何なんだろうか………。綺麗な石や貝殻に似た装飾が埋め込んであり、とても綺麗だ。触った感じ強度もある。


「これ、何でできてるの?」


「え? 壁…、ですか?」


 女将さんがどことなく物憂げな、なんとも複雑な笑顔で答えてくれる。


「大きな芋虫が口から吐く白いのを工夫して固めているんです」


 そして口から吐くというジェスチャーで、芋虫の真似をしているのか、丸く口を開き、両手を添えて前後させる女将さん。こいつ、エロすぎる。


 などと謎の時間を過ごしている間に、皆は湯煙の向こうに消えてしまっていた。

 よし………。うだうだ言ってないで覚悟を決めるか。

 





※女将さん視点



 あの問題児の歯形が名前を頂戴してしまいました………。

 金翅鳥を差し置いて三番目に名を授かったのです。これは鬼族の快挙です。

 快挙なのですが………。正直、複雑な気持ちです。


 サンカ様は、みすぼらしいあの子を見るなり名を与えました。

 何かの間違いではないかと思うほどあっさりと………。

 でもそれは、結果として間違いではなかったのです。

 コト様に挑むあの子の勇姿を目の当たりにしました。あの怖ろしい聖域の蜘蛛に一歩も引かぬ堂々たる挑戦。敗れはしたものの、正面から死力を尽くして挑んだのです。

 凄いとしか言いようがありません。あの子はいつの間にあれほど成長していたのでしょうか。

 それに引き替え手塩にかけた巫女は未だ鳴かず飛ばず。お酌すら満足にできない有様で………。

 そうです。私は思い知りました。私の目は笑えるほど節穴だったのです。


「感服いたしました………。サンカ様」


「や、やめて! 風呂場で裸で土下座しないで!」


今日(こんにち)のこの体たらくは全て私の責。お恥ずかしい限りでございます……」


「恥ずかしいなら隠そうよ! タオルか何かないの?」


 何やらサンカ様は慌てているご様子…。伏せていた頭をゆっくり上げると、湯船の縁に沿って歩いてくる歯形が見えました。まだ少しふらふらしていますね。


「歯形………。いえ、ハガタ」


「あ、…女将さん」


「あなたの勇姿を見ました。目から鱗が落ちた気持ちです。私は貴女を勘違いしていました。今までずっと……。本当に申し訳なく思っています。愚かな私を許してください………」


 傷は多いものの、鍛え上げられて引き締まったハガタの裸体を見て、尚更申し訳ない気持ちに拍車がかかります。


「頭を上げてください。謝りたいのはおいらの方です女将さん。今まで庭の皆にはお世話になりっぱなしで……。面倒ばかりお掛けいたしましたが、これからは誠実にサンカ様に仕え、鬼族の誇りに恥じぬよう努める所存にございます」


 ハガタと目を合わせると、その純粋なまなざしに驚かされます。ああ、誰がこの子を醜いと言ったのか………。

 そこには誰恥じる事のない、立派な鬼族の戦士が微笑んでいたのです。


 おはようございます。校正作業中にて本日は1話のみ更新です。

 目次で改稿と付いている章は校正済みです。一旦精査して、正しく予定通り物語を進めたいと思います。

励みになりますので、面白い、続きが読みたいと思ってくださった方々、

是非、いいね。それからブックマークと下の評価をよろしくお願いします。

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