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悩める二人

 


 大きな無垢の木で作られたベンチに寝転がり、夕暮の空を見上げていた。

 ゆっくりとそれぞれの速度で流れてゆく雲の層。花の香り。遠く聞こえる水音。

 こうして空だけ眺めていれば、まるで地球と変わらない。

 ぼんやりと頭を空っぽにしたいけれど、だらだらと漠然とした思考が浮かんでは消える。


 俺の悩みは単純だ。単純なのに解決策がない。

 森と魔物たちを守りたい。ただそれだけだ。

 気になる事は幾つかある。帝国の動き、カイヤナ王国の勇者やテフント族。だが今はどうにもできない。

 人間は来る。必ず来る。いつか大きな軍隊が来て、森は踏み荒らされ、魔物たちは殺されるだろう。

 俺は神といっても、スーパーヒーローではない。全てを守って、かつ誰も死なせないなんて到底不可能だ。

 なら俺にできる事とは何か………。


 ひとつ。

 逆に打って出る。

 ここから最も近いナインチェット国に戦争を仕掛けて滅ぼし、その勢いでさらにその向こうのカイヤナ王国も潰す。

 成功すれば帝国もさすがに恐れをなして、ここを攻めようとは考えないだろう。

 幼稚な考えだが確実に効果はある。マイナス点はこちらが加害者になってしまう事と、少なくない数の魔物が死ぬ事だ。

 もうひとつのリスクは世界の敵に認定される可能性が高い。めちゃくちゃ高い。

 ………論外だな。ナンセンスだ。マジもんの邪神になるわ。あと精神的にムリ。


 ふたつ。

 コツコツと防衛網を築き上げ、難攻不落の邪神砦を作る。

 これは今までのやり方と変わらない。ただ大規模な戦争を想定し、あらゆる事態に対応できるよう、根底からの防衛線の見直しが必要だ。

 めんどくさいが魔物を完全組織化し、軍隊を構成しなければならない。

 場合によっては集落の位置も変え、各種族の配置も考えねばならない。

 ………これは現実的だな。ちょっとしんどいがやってできない事ではない。


 みっつ。

 外交。威圧外交だ。

 こちらの戦力はその気になればかなりのものだ。ダッタンの軍事力を何らかの形で見せつけ、萎縮させた上で外交に挑む。抑止力だ。

 幸いささやかながら産業もあるし、特に資源が腐るほどある。貿易にかこつけて不可侵条約を結ぶのが綺麗だろう。

 ………素晴らしい。だが問題は心理戦や頭脳戦となった際のブレーンがいない。脳みそなしでやれるのか? そも魔物だぞ、頭が切れる方がおかしい。



「ふたつめで」


 いつのまにかコトがいた。空を見上げる俺の視界を隠すように顔が現れる。


「すごいな………。俺の思考が伝わるのか?」


「今のは伝わりました。サンカさまが苦しいと、敏感に反応するみたいです」


「苦しい………。そうだな。とても心苦しいな」


 コトの手を取って立ち上がる。

 彼女の下半身を見て思う。このビジュアルこそが全ての答えだ。アラクネに外交は不可能だ。見た目だけで超威圧外交だよ。胸も出てるし。子供なら泣くよ?


「心の霧が晴れたよ。ふたつめでいこう」


「はい」


「近々人間の大規模侵攻があるかもしれない。調査隊はその先触れだ。頭の切れる魔物と強い魔物、それから各種族の長たちも全て。ここ鬼の庭に集めてくれ。どのくらいかかる?」


「二日もあれば。狒々が到着して向こうで飲んでます。サンカさまに会いたがっているので」


「では二日後に会議をやろう。俺も飲むよ。席に鬼族の長と、戦士も呼んでくれ」






※鬼の巫女視点



 きっ、きっ、緊張しました………。

 ようやく地獄の茶室から解放されて、やっと厨房に戻る事ができました。ああ、洗い物してると落ち着きますぅ…。

 緊張で死ぬかと思いました。あんな大人の会談に同席したって、私なんかが役に立つ訳ないじゃないですか。お酌をしようにも皆さん自分でぱっぱかぱっぱか注いじゃうし……。

 私の悩みは単純です。いざという時に勇気が出ないのです………。


「巫女。お疲れさまでした。いかがでしたか?」


「お、女将さん」


 女将さんは鬼の庭で一番偉い鬼です。先代の巫女でもありますね。お酒を持って来てくれた時は、私を助けに来てくれたと思ったのにそのままほっちっち。恨んでますよ………。


「お椀なんて洗わなくていいんです。さ、こちらを向いて。サンカ様の御人柄は? 人族とは何のお話を? 詳しく教えなさい」


「御人柄は……、優しそうでした。でもほとんど絡みがなかったです………。何もできませんでした。んー、お話もよく分かりませんでした。人間の国がどうなっているとか、『ユーシャ』っていう兵器? についてお話してましたね………」


「はあ………、情けない。次代を担う巫女がそんな調子でどうするんですか。お話が難しくて分からなかったのは仕方がないとしても、腕を抱いて胸を寄せるくらいの事は出来たでしょうに」


「そっ、そんな恥ずかしい事っ…!」


「巫女。あなたせめてお酌くらいはきちんと………………、まさか」


「………………」


 立ち眩みがします。自分がポンコツすぎてもう死にたい…。すぐ死にたい。


「聖域の蜘蛛はお気に召されてもう名前を授かったそうですよ。ご覧になりましたか? あの立派な御姿を。あの方は五百年も祠を御守りになり、今も尚固い忠義を貫いておられます。同じ魔物として、女としても尊敬に値します」


 やめてください…。分かっているんです。重々分かってはいるんです…。


「それから蛇。彼女も蛇の里の誉れでしょう。宴にてお酌をして気に入られ、病を癒して頂いた上に名前まで頂戴したそうです。溢れかえる程の混雑の中、まあ良くできたと思いますよ。西の金翅鳥も時間の問題です。いいですか巫女、この流れに決して乗り遅れてはいけませんよ。鬼族も何としてでも食い込まねば。今のところ全てが後手後手に回ってしまっているんですよ」


 すみませんすみませんすみません。もういっそ殺してください…。


「巫女。あなた今宵、サンカ様の臥所(ふしど)に突撃なさい」


「…え? …え? えええええ!」


「女は度胸です。段取りはしておきますので。あなたは覚悟だけしておきなさい」


 ええええええええええっ………!



おはようございます。本日3話更新します。

励みになりますので、面白い、続きが読みたいと思ってくださった方々、

是非、いいね。それからブックマークと下の評価をよろしくお願いします。

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