表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/73

男の密談


「駆け引きは嫌いだから、単刀直入に言うよ。俺は人間の事を知りたい。この世界の人間に関する全てが知りたいんだ。だけどそれだとキリがないから、今は幾つかの質問に答えてくれるだけでいいよ」


「質疑応答ですね……。しかしどこまで話していいものかも分かりませんし……」


 ちらりとベムラー君の顔色を窺うバルテル君。


「そうだな……。でもいいんじゃないか? オレたちはどうせ捕虜だし、嘘も通じない相手なら口を割らずにいる手立てもないしな」


「そうですね。重要な国家機密がある訳でもなし………」


 俺たちは東屋と呼ぶには少々立派な、高床式木造建築の茶室で会談をする運びとなった。

 室内には木の香りが漂い、クオリティの高い座椅子も心地良く、窓際の生け花がちょっとしたオシャレ空間を演出していた。

 コトとシノとハーピーの全裸組は、同席するには(かさ)が高いと、仲良く連れ立ってどこかへ消えた。あっちはあっちで乙女の秘密会議があるそうだ。

 ここにいるのは手前に俺と鬼の少女。そして向かいには人間三人という構図だ。

 なぜこの少女が会談に参加しているのかは謎だ。ここにいなければならない理由は特になく、ただ退席するタイミングを失っただけなのかもしれない。小さな唇がひくひく震えて目が泳いでいる。



「まず君たちの所属と、そこに於ける立場や経緯も含めて、なぜこの森に来たのかを教えてほしい」


「はい。私とバルテルが所属するのは、この森に隣接しているナインチェット国の魔法兵団です。ナインチェット国はナインチェとも呼ばれ、もともと小国で、大陸に覇を唱えるウラン帝国の従属国というのが現状ですね」


「そしてナインチェは実質、帝国のコマンチ辺境伯の支配下にある。オレは立場的には辺境伯配下の帝国軍人です。まあ出身はナインチェで、マルコとは幼馴染ですが………」


「なるほど」


「この死の森は………、失礼」


「いいよベムラー君。包み隠さず頼むよ」


「ここは、その…、死の森と呼ばれていまして。古来から立ち入り禁止の禁断領域なんです。ナインチェ側は強く反対したのですが、帝国の強い要望により、この度二十名からなる調査隊が編成されました。それが我々、処女峰森林調査隊です」


「なるほど。帝国の命令で、属国であるナインチェットの君たちが禁断領域の調査に来た。という感じかな?」


「概ねその通りですな」


 分かる話だ。怖ろしい魔物が闊歩していようが、ここは資源豊かな原始の森だ。人間としてはどうにか俺たちを駆逐して、新たな領土を開拓したいというのが本音だろう。

 簡単に負けてやるつもりは毛頭ないが、勇者に来られるとちょっとまずい。


「………勇者が属しているのはそのウラン帝国かな?」



 ここでお酒が運ばれて来た。数人の女性の鬼たちが、趣のある御膳台をそれぞれの手前に配置する。御膳台には、芋の煮ものと山菜の漬物っぽい料理が小鉢で並べられており、つまみやすいよう楊枝が刺してある。

 和食を思わせる見た目に心が躍る。これは酒のあてかな?

 わくわくしていると、白くなめらかな椀型土器が配置され、美しい琥珀色のお酒がとくとくと注がれた。


「鬼の庭謹製の混合酒です。竜舌酒八分に対して蜂蜜酒二分、そこに柑橘の果実を絞り合わせたお酒でございます。少々酒精が際立ってございますので、ごゆるりとご賞味ください」


 カクテルか。いいじゃない。きついと言ってもまあ大丈夫だ。さすがに蒸留酒はないだろうからね。

 鬼の少女が、俺の脇でいよいよ困り果てた様子だ。場慣れしてないんだろうな。そして逃げるに逃げられない。可愛いから置いておこう。華は大事だ。


「とりあえずお疲れ様、乾杯」


「「「乾杯」」」


「かっ…、乾杯」


 乾杯文化があって良かった。ここですべるとなかなかきつい。


「美味い!」


「ほう、これはなかなかイケますな…」


「それはユーシャの事でしょうか? カイヤナ王国の………」


「ん? マルコ君、何だって?」


「『ユーシャ』です。ナインチェの隣国であるカイヤナ王国が、決戦兵器と称して強化人間を育成しているんです」


 強化人間………。物騒な響きだな。でもあれから五百年経ってる訳だし、勇者が形骸化していても何もおかしくはない。


「強化人間ってどんなだろう?」


「そのままです。身体能力や魔力が特別強化された、兵器扱いの兵士ですね」


「今のユーシャはアダム・カーンだよな?」


「ベムラー隊長、アダム・カーンは先の王政復古戦争で戦死しましたよ? えっ…と、今代は確か娘のチャナ・カーンですね」


「王政復古戦争?」


「三年くらい前に終結したカイヤナ王国の独立戦争ですね。カイヤナ王国も長らく帝国の属国でしたが、正統カイヤナ王女を掲げて独立に成功したんですよ。いや、本気で美味いなこの酒!」


 確かにうまい。うまいがその辺をもっと聞きたいぞ、ベムラー君。


「代継ぎしてるみたいだけど、ユーシャって常に一人? 世襲制? 強い?」


「そりゃあ強いっすね。強すぎて兵器扱いですから。世襲制かどうかは知りませんが、初代ユーシャのアベル・カーンからカーンの名は引き継いでますな。基本的に一時代に一人、なんて言われてます。寿命もやたらと長いんですよ」


「帝国と戦争して勝っちゃいましたからね……。芋おいちぃ」


「まってまって、ちょっとまって。初代の名前をもう一度………」


「アベル・カーン。カイヤナ王国建国の立役者ですね。もう五百年も昔の歴史上の人物ですな」


 間違いない! 俺を殺した勇者だよ! カイヤナ王国怖えよっ! やっべえマジどうするよ………、勇者だけが目の上のタンコブだわ…。


「カイヤナ王国が強いのはユーシャだけの力ではないですよ。あの国にはカイタリがいる」


「カイタリ……?」


「はい。獣人による特殊部隊です。アズロマ高原の大虐殺は語り草ですね。わずか三十人足らずの獣人兵(カイタリ)が、帝国兵千人を一晩で皆殺しにしたんですよ」


 ひえええ……! こっわ! カイヤナ王国こっわ! さらっと言うなよマルコ君。

 ん…? そういやコトの記憶にも獣人がいたな。犬の死骸から生まれた呪われた種族。確か………………。


「確か、テフント族。だったか」


「ああ、そうです。よくご存じで。カイタリは、テフント族という獣人の奴隷兵士です」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ