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鬼の庭

「あんなぁ、おっぱい蛇」


「わっちには、今はシノという名前がありんす」


「せやな。………いや、ええわ。なかなか言いにくいわ」


「じれっとうす。言うてくんなんし」


「いや、あんな。その、喋り方なんやけど…、な。その…、な」


「……何ざんしょう?」


「じぶん、ダサいって言うか………、きもいで」


「………………………」


「ちゃうで! 喧嘩売ってんちゃうねん! ほら、サンカはんにな、好かれたいんやろ? せやからなっ、直した方がええかなー……、って! いやほら何か古臭いやん? その、ざんしょお、とか!」



 後ろからとてつもなく口を挟みにくい会話が聞こえる………。

 そういう会話は頼むから俺のいない時にしてくれないかと切に願う。絶対に振り向いてはいけない旅路を俺たちは進んでいた。


「後ろのお二方は何を話しておるのでしょうか? マルコ導士、訳せますか?」


「それが訛りがきつくて、さっぱり………」


「盗み聞きは感心せんな」


 この三人も良い人で助かったよ。初めは人間が来たって言うから緊張したけど、思ってたよりも話ができる雰囲気で安心した。

 この調子でゆっくり滞在してもらって、少しでも人間社会の情報を聞き出せたらしめたものだ。



 バルテル君に譲った絡新婦のペースが上がる。どうやら鬼の庭が近いみたいだ。

 高木の群生地を抜けると、緩い下り坂が現れた。石や砂利の取り除かれた、整備されたと言っていい広い道だ。

 坂の向こうには強い陽光が射し、木々の陰影がくっきりと浮かび上がっている。鮮やかな光景に、急に視力が上がったような錯覚を覚える。

 近づくにつれ、シナモンの香りがきつくなる。ブナに似た迫力のある奇形の巨木が、波打つ枝を四方に広げ、一種独特の異空間をそこに演出していた。


 巨木の下では木漏れ日を浴びながら、裸に近いものの、きちんと民族衣装を着た鬼たちが数人並び、膝を折って厳かに黙祷している。

 その奥から一際派手な衣装を羽織った少女の鬼が、コトと一緒に姿を見せた。

 出遅れてはいけないと焦ってるのか、とてとてと小走りになってるのが可愛い。


「お、お初にお目にかかり光栄です。う、宴に顔も出せず、こっ、心苦しく思っております。ど、どうかお許しを………。サンカ様………」


 頭を下げられてつむじが見えた。亜麻色のロングヘアーが素敵な女子だ。桃色の櫛の横から小さな一本角が顔を出していて可愛い。

 ちょうどいいサイズの胸を覆う、前掛けタイプのトップス。透けた生地の腰巻はそのままだらりとスカート状になり、緩やかに流れて、美しい脚線美を際立たせている。足元は革製のサンダルだ。首や腕にはエスニック調のアクセサリーが輝き、このままダンスでも踊れそうな煽情的な衣装だった。

 はい。そうなんです。服ですよ服。しかもちゃんとした衣装ですよ。喜びと安堵が胸にじわる。やっぱ隠すべきは隠さないとね。


「ああ、気にしないで。聞いてると思うけど、人間を連れて来たんだ。彼らに聞きたい事があってね。もしかしたら気を悪くする者もいるかもしれないが、客の扱いをしてくれると助かる」


「御心のままに。コッ、コッ、コト様よりお話はお伺いしております……」


 コトが偉そうに頷く。可哀相にビビってるじゃないか。コトっていつも魔物にはちょっと上からなんだよな………。


「おぉ、奥へ案内いたしますね………。あっ! おっ! 鬼の庭へようこそっ!」



 巨木をくぐり、緊張気味の少女に続いて奥へ進むと、目に飛び込んで来た集落に衝撃を受ける。それは広場を中心とした完全なるコロニーだった。

 広場には食用であろう美しい果樹が溢れ、それらを縫うように整備された水路が廻っている。水路の各所にはきちんと橋が架けられ、驚くべき事に水車さえある。

 その周囲には石造りの頑丈そうな建築が整列し、もしかするとコンクリート技術なのではないかと我が目を疑う。建物の並びは規則正しく、明らかに意図的に配置された並びだ。途中、花壇に囲まれた涼しそうな東屋を挟んでくる辺りが憎い。


 なんじゃこりゃあ………………、もうコレ文明と呼んでいいんじゃないか?

 古代以上中世未満と言うべきか。今まで見積もっていた魔物の文化レベルの認識を、確実に一段階上方修正しなければならない。

 そりゃ衣類や酒が整うはずだ。地球の知識と一致するようで一致しない、独特のデザインも素晴らしい。文句なしの感嘆すべき素晴らしい集落だ。

 五百年の歳月を舐めてたなあ………。

 考えてみれば鬼族は、角が生えている以外は人間とさほど変わらない。そこそこの知能さえあればこんな具合に発展しても不思議ではないという事か。


「え? ええ? すごくないですかこれ? マルコ導士、私は夢でも見ているのでしょうか?」


「ああ、夢なら覚めないでくれと思う。オーガたちも皆美しい。正に桃源郷だよ」


「………魔物が本当にこれを築き上げたというのか」


 彼らも驚いている。そりゃそうだろう、俺だってビックリだ。



 こんにちは。

 なぜか分からないけどこのページはめちゃくちゃ苦労しました………。

 三日くらいかかってしまいました。なんなんでしょうね。


本日3話更新します。

励みになりますので、面白い、続きが読みたいと思ってくださった方々、

是非、いいね。それからブックマークと下の評価をよろしくお願いします。

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