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気さくな邪神

※マルコ視点



 鬱蒼とした森をしばらく歩く。蠅虎を先頭に、ベムラー、バルテル、そして私と続いた。

 枯れた高木が増え、老木ながらも美しく苔むした見事な風格に目を奪われる。

 誰かが歩いた足跡ひとつない、未踏の極相林を踏み荒らしている事実に罪悪感が湧く。

 声を出すのも憚れるような、静謐で神聖な空気が支配する中、各々の、荒々しい呼吸音が雑音と化して耳に障った。この大自然の中で、私たち人間がいかに矮小(わいしょう)な生き物であるかを思い知らされる。

 巨大なセコイアの倒木を苦労して乗り越えると、突如陽光が射し、眼下に美しい林冠ギャップが広がった。

 見れば広場の中央に、異形のシルエットが並んでいる。


「あれが邪神か………?」


 ベムラーが呟いた。バルテルは疲れが勝っているのか、俯いて息を上げるのみだ。


「三体いるな。絡新婦と…ラミア、それからハーピーか? 神代の化け物が勢揃いだな。もう驚かんぞ。いや、絡新婦に誰か乗っているな………、まさか人間か?」


「行こうベムラー。バルテル導士もしっかりしろ」


「もう、しんどい…、帰りたい………………」



 

 魔物たちを前にして、その圧倒的存在感に息を呑む。


 左手に、長大な蛇の下半身を持つ女の怪物、ラミア。大きな乳房を支えるようにして腕を組み、こちらにまるで興味がないかのように明後日の方向を見ている。

 右手に、小柄なハーピー。愛らしい少女の面影を残しつつも、猛禽特有の機敏に動く視線で、獲物を狙うようにこちらを見据える鳥人間。


 いずれも危険な存在だが、最も警戒すべきは中央の男だ。

 巨大な絡新婦に跨り、笑いを堪えるようにニヤニヤとほくそ笑んでいる。

 一見精悍な美丈夫に見えるが、よく見れば人間とは明らかに異なる幾つかの特徴が目に留まる。浅黒い肌、見慣れない人相。踊り子のする化粧のように、目の縁が太く黒い。その闇の奥で輝くのは、強大な魔力を感じさせる黄金の瞳だ。笑う口元から覗くのも、もはや牙と言って差し支えない異常に発達した犬歯。

 上質そうな前開きのシャツを着て、しなやかな筋肉を露出させている。丈夫そうなトラウザーズを履き、靴は無く、剥き出しの足には獣の爪が並んでいた。絡新婦の背を撫でる指先から生えた爪も、まるで鋼で出来たかのような光沢がある。

 人間に見えても決して人間ではない。どこか作り物のような……、芸術家たちが精巧に組み立てたイミテーションのようにも感じてしまう。


 邪神。死の森の支配者………………。



 見惚れていると、音もなくさっと男は地表に降り立ち、こちらの緊張とは裏腹に気さくに握手を求めてきた。


「ごめんね。異世界(こっち)の人間を見るのは初めてでさ、あまりにテンプレっぽくて吹いちゃったよ。失礼だよね、本当にごめん。俺はサンカ。この森の柱だ」


 首がむち打ちになるかと思う程強烈な波動だ。これは………、魔法言語の出力が高いのか? 言葉の意味は分からずとも、何を言っているのかがあっさりと理解できてしまう。ここまでくればもはや念話に近い。


「いやー、どうもどうもお初にお目にかかります。(わたくし)、魔導士隊准士のバルテルと申します」


 馬鹿な! バ、バルテルが空気も読まずにご近所同士の挨拶のように握手をしている! なぜそんないい笑顔でいられるんだ! お前それほど肝の据わった男じゃないだろう? そ、そうか……! バルテル如きではこの強力な魔法言語に靡いてしまうのか………。こ、これは魔法抵抗値の低い者は、言葉だけで瞬時に洗脳されてしまうに等しい。


「どうもサンカさん。オレが今回の調査隊の隊長をしぶしぶ務めていた、ベムラーです」


「ベムラー! お前もか! そしてしぶしぶだったのか!」


「今叫んでるのが私の上司であり、魔導士隊の隊長、マルコ導士ですね」


「お、イケメンだね。よろしくマルコ君」


「え? あ、はい…。宜しくお願いします……」


 まずいぞ! まずいまずいまずい! このサンカに私たちはほっこりさせられてしまっている。思い出せ、八人も殺されたんだぞ。ここは死の森なんだ………死の…?


「うわー、いいな。めっちゃカッコいいねこのローブ。ジェダ〇みたいだな。これ欲しいな。どこで買ったの?」


 凄まじい魔力だっ! ジェダ〇が何かは分からないが想像を絶するフレンドリーさだ……。ダメだ、つ、つい答えてしまう。


「ナ、ナインチェの街で買いました……。私もどうしても欲しくて、月給が飛んでしまいましたよ。アハハ…」


「あー、やっぱり高いんだねー。でもマルコ君センスあるよ。これは高くても買って正解、さすがだよ」


「あ、ありがとうございます…」


 ぐうっ、何だこれはっ。ちょっぴり嬉しくなってしまう魔法なのかっ………。

 控えていた絡新婦がサンカの耳元で何かを囁く。彼は朗らかに頷くと手を叩いて言った。


「じゃあ、皆で鬼の庭に行こうか。俺も初めてなんだけど色々あるみたいだ。お酒もあるってさ。ここからそんなに遠くないみたいだけど、疲れちゃって歩けない人いる?」


「サンカ様、お誘いは嬉しいのですが、私もう足腰の方がちょっと……」


「えー…っと、バテテル君だっけ?」


「バルテルです」


「バルテル君、ジョロウグモに乗りなよ。クッション抜群だよ」


「おお! 有難き幸せっ」


「ああサンカさん、オレは大丈夫です。体力には自信ありますんで!」


 何なんだこの和やかさは! もう知らん! なるようになれ! ヤケクソだ!


「私も歩けます! さ、さあ、行きましょう鬼の庭へっ!」

次回木曜日更新です。

来週からは、月、木、と週2の更新にしたいと思います。

励みになりますので、面白い、続きが読みたいと思ってくださった方々、

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