表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/73

祠だョ!全員集合


 賑やかな声で目が覚めた。

 祠の外からざわめきが聞こえる。声だけでなく、色んな物音がしている。


 さっきまで見ていた夢をもう忘れてしまう。地球の夢だった気がするが………。

 どうにも思い出せず、もどかしい思いで寝返りを打てば、こちらを覗き込むコトの顔があった。

 近っ。……顔ちっちゃいなあ。白い肌、柔らかな稜線を描く愛らしい目鼻立ち。朝の光を帯びて碧い虹彩が揺れている。人間にはないもう二つの蜘蛛の目も、絶妙なバランスで少女の美に貢献していた。まるで生きた芸術作品だ。


「綺麗だな………」


 半ば寝ぼけた状態で、思わず指先でコトの顔に触れる。彼女は仔猫みたいに目を細め、幸せそうに手のひらに頬を寄せた。

 なんだろう。この可愛い女子と可愛いペットが一体化したような不思議な感覚。


「サンカ…」


 すうっとコトの唇が少しだけ開く。目の周りがほんのり赤く染まっている。

 互いの距離がなくなる。そして………………。 



「いちゃいちゃすんなアホーッ!」


 鳥が叫びながら乱入してきた。昨夜のハーピーだ。寝起きに大声はやめて。


「やめてんか! 蜘蛛のくせに! や、やーらしーっ! もう、やーらしーっ!」


 顔を真っ赤にして地団駄を踏むハーピーを見向きもせず、コトが俺の手をそっと握って言う。


「お料理を。たくさん作ったので…。サンカさま」


「ぅわきっしょ! どっから声出してんねん、きしょいねん! サムイボ出るわ! あとウチかて作ったわ!」


 やれやれ、と石台から立ち上がる。昨日より身体が軽い。少しづつだが、確実に魔力と肉体が馴染んできているのが分かる。

 軽くストレッチをするとボキボキと節々が鳴る。この固い寝床といい、ちょっと本気で生活環境を改善したいと思った。森の資材で色んなモノが作れるだろうし、その際は地球の知識も生きてくるだろう。………時間も腐るほどあるしね。


 祠の外が騒がしいな。たくさん客が来てそうだ。

 イイ匂いが漂っている。何にせよ空腹だ。昨日食べてないからな。

 通りすがりにハーピーのささやかな胸を見る。いや見ちゃうよねマジで。丸出しなんだもん。魔物本来の文化に手を加えるのは良くないのかもしれないが、せめて服くらいは普及させても良いのではなかろうか………。


「な、なんや! そんな……、じっと、見んなゃ…」


 笑ってはいけないが、こいつ妙に一生懸命で可愛いな。チビでちっぱいのくせにイキってて面白い。


「可愛いねー」


 ヨシヨシヨシヨシヨシ。


「なっ! なっ…あ!」


 思わず頭を撫でてしまった。………犬にするみたいに。いかんな、この子たちはペットじゃない。気を付けよう。



 祠から出ると、あれほど騒々しかったのが水を打ったように静まり返る。

 見れば庭を埋め尽くす様に、森のありとあらゆる魔物たちが所狭しと(ひし)めき合っていた。

 彼らは皆、その容姿も大きさも不揃いで、色彩豊かで派手な者から、モノトーンでシックな者まで、個々がキャラ立ちバリエーション豊かだ。

 凄まじいビジュアル。まさに圧巻、百鬼夜行かワルプルギスの夜か。

 朝だけどね。

 そんな魔物さん御一行は、当然ながらこの庭だけに収まり切らず、崖の下まで列は続き、最後尾は樹海に消えて目視できなかった。

 俺は猛反省した。

 コトは正しかった。結界は正しく働き、この事態を食い止めていたのだ。

 あの忠実な蜘蛛は何ひとつ間違えてはいなかったのだ………。


 そして目の前の僅かなスペースには、大樹をカチ割ったと思われる、大きすぎるテーブルがいっぱいいっぱいに置かれ、その上には原始的ではあるものの、豪華で立派な数々の料理が敷き詰められていた。

 だがこの衆人環視の中で食えと言うのか………………。


 俺は諦観した。

 もはやこれまで。

 この混乱を収めるには、新たな混乱を与えるしかない。

 目には目を、カオスにはカオスを。

 魔力を練り、魔法言語の効果範囲を青天井に高め、限界を越えた出力で叫ぶ!


「聞け! 森の同胞(はらから)よ! 遍く眷愛隷属(けんあいれいぞく)よ! 暗澹(あんたん)たる無明の長夜は明けた! 俺はここに新たな命を()って甦った! 全てのダッタンの魔の者共よ! この燦々(さんさん)と輝く朝を祝え! 肩を叩き酒を飲め! 腹いっぱい飯を食え! 泣くな! 笑え! 今日を森の祝祭日とする!」

 

 ダメ押しとばかりに、あらん限りの魔力の津波を森全体に放つ。樹海が波打ち、黄金の光の奔流が駆け巡ってゆく。生命の力を底上げし、森が本来持つ再生能力の活性化を促す。これで多少森が荒れたとしても大丈夫だ。


 鼓膜が破れてもおかしくない程の、怒涛の歓声が鳴り響く。

 大地が割れ、あるいは崖が崩落しかねない盛り上がりだ。

 だがこれでいい。叫べ。歌え。これで何もかもが有耶無耶(うやむや)でどうでも良くなり、やがてめでたく収まるところに収まるはずだ。これぞ夫婦円満の秘訣。違うか。

 さあ、メシを食おう! まずはそれからだ。






※ハーピー視点



 なにっ? なにっ? なんなん? なんなんやこれえ!

 生まれてこの方、こないなえぐい(ごろごろ)みたいな魔力は初めてや!

 かみさんめっちゃカッコええやん! あああ、頭がおかしなりそうや!

 お腹の奥の方まで……卵巣がじんじんしてまう! アカン、ほんまアカン! ぴ、ぴよってまう………。


「ピ…ピョ…ピョョ。もう……しゅ、しゅき♡」


「気持ち悪いので…」


 ぐっはあああ! 蜘蛛に見られたあああ! ぴよってんの見られたあああ!

 クソ蜘蛛ほんまいてもたろか! 斜に構えよってからにええかっこしいがあ!

 あ、魚食べてはる。あのヤマメ、ウチが獲ってって焼いたやつや! 嬉しい! 頭も! シッポまで食べてはる! そんな食べてくれたらもう、もうウチ!


「いっぱい食べてくれはんの……しゅ、しゅき♡ ピ…ピョョ♡」


「死ねばいいので…」


 ぐっはあああ! まだ蜘蛛おったんかい! しばいてもた…あ、ヤマメおかわりしはった♡

おはようございます。

本日4話UPします。

励みになりますので、是非ブックマークと下の評価よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ