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09

 小さい頃から何かと妹に思うところはあった。

 だが婚約者を寝取られてからは、妹と顔を合わせる度に死にたくなるほど惨めな思いをしてきた。



『お姉さまには本当に申し訳ないと思っているのよ?でも、でもわたくし、ずっとずーっとあの人が欲しかったの!』

『ウィリアムはわたくしの手を取ってくれたけど、わたくしはお姉さまがあの人のこと好きだって知っているもの』

『これからもウィリアムと仲良くしたいのだけど、お姉さまから奪ったりしないわ!……だからだから、許してくださるわよね?』



 隠しきれないほどの優越感をにじませたあの甲高い声が忘れられない。私と似た顔が嘲りに歪むのに、吐きたくなるほどの嫌悪感が心中で渦巻く。妹が言っていることが何一つ理解できなかった。



私が好きだと知っていながら婚約者を誘惑して、寝取ったのか。人の婚約者を口説いた口で、謝りもせずに許しを乞うの?ふざけないで欲しい!


 でも、何より悔しかったのは、何も言い返せなかった自分自身だ。



(お姉さまから奪ったりしない?それはそうでしょうね)



 妹は他人のものにしか興味を持っていない。その性癖が人間相手でも適用されると知ったのは最近だが、どうやら人が大切にしていればいるほど欲しくなってしまうらしい。


 つまり、妹にとって私が婚約者を思っているのが何よりも重要ということである。

“私の婚約者”だから欲しくなっているのだから、きっと自分のものになった瞬間興味がなくなってしまうのだろう。

 私にはまったく理解できない感覚だが。



「わたくしはオリビア・ローズベリーと申しますわ!あの、貴方さまはイルヴィス・ランベルト公爵さまでいらっしゃるのよね?」



 久しぶりにちゃんと顔を合わせた妹は、心なしか以前より顔色がいい気がする。私が打ちひしがれている姿を見てさぞ気分が良かったのだろう。



「あら、朝の散歩(・・・・)から帰ってきたのね、オリビア」



 妹は、たった今外から帰ってきたと言わんばかりの格好をしていた。実際にその通りなのだが、母は妹が変なことを口走る前に、被せるように言い訳を並べた。


 まあ、婚約者もいない令嬢が朝帰りなんて、醜聞以外の何ものでもないだろう。そう思うなら、切実に婚約者との件もしっかり対応してほしかったのだが。

 冷めた気持ちで妹もこの忠告には従うだろうと視線を逸らした私は、とんでもないものを見てしまった。



「まさかわたくしの家で公爵さまにお会い出来るとは思いませんでしたわ!今日はなんていい日なのかしら!」

「オリ、ビア……」



 嘘でしょ、という言葉は喉をつっかえて出てこなかった。


 飢えた獣のような視線はイルヴィスに釘付けで、あからさまな媚びた態度ですり寄っている。

 ただでさえ胸元が大胆に開いたドレスなのに、さらに寄せて胸を強調するポーズで同性の私でも直視しにくい。ただでさえ耳障りな甲高い声は、耳をふさぎたくなるほどの高さになっている。


 ひくりと、自分の頬が引きつるのを感じる。






あんなに私に婚約者が欲しいと言い放った妹は、今度はイルヴィスに目をつけたらしい。

 今も可愛らしく笑っているが、腹の中ではイルヴィスを手に入れる算段でも立てているのかもしれない。いや、間違いなくそうだろう。

 妹のギラギラした品定めをするような視線が、その心情をさらけ出している。




 ああ、気持ち悪いな。




 襲いかかる申し訳なさと嫌悪感で、私はいっそこのまま気絶してしまいたかった。

 正直、逃げ出したい気持ちでいっぱいだが、イルヴィスを巻き込んだのは私だ。そんな無責任なことはできない。



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