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誤字報告ありがとうございます!

 離れに向かう道中、すれ違う来客が小声で何かを話しているのが聞こえた。いわく、とんでもなく下品なドレスを着た令嬢が騒ぎを起こしたらしい。



「彼らが言っている令嬢、オリビアですよね。信じたくないですけど」

「間違いないと思います。すぐにどこの令嬢か分からないようにしろとは命じましたが、いったい何をしたんですかね……」



 事後処理が頭の痛いことになりそうだ。

 しかし、こんなに話題に上がっていれば両親の耳にも入るだろう。その令嬢が妹だと気付いたときの反応が楽しみだ。


 私も性格が悪くなったものだと感心しながら、速足で本館から出る。

 裏庭に差し掛かったところで、耳障りな甲高い声が聞こえた。このきんきんと頭を震わせる声は間違いなく妹の声だ。

 人目がないのをいいことに小走りで向かうと、案の定ヒステリーを起こした妹の姿があった。言っていることがあまりにも無茶で、止めようと近づいた私たちはしかし、揃って絶句してしまった。


 だって、妹があまりにもちぐはぐ(・・・・)な格好をしているのだ。

 相変わらず大きく開いた胸元と背中は健在な上、ドレスは見るからに流行り遅れの安物。主張の激しい真っ赤なバラの刺繍と気味悪く光るゴールドの生地が目に痛い。

 おまけにこれでもかと盛られたリボンとフリルで、せっかくのマーメイドラインが台無しである。きつくまとめられた髪はよくわからない飾りで覆われ、濃すぎる化粧のせいで元の顔がほぼ分からない。


 この格好に仕上げさせた管理者もすごいのだが、何よりこれを喜んで着た妹が恐ろしい。



「嘘ですわ!貴方、さてはお姉さまの手先ね!?」



 その言葉で我に返ったイルヴィスは、わずかに顔をしかめた。一歩進むごとに、周囲の温度が下がっている気がする。



「嘘ではありませんよ。それにしても困りましたね……ここまでお元気な方だとは思いませんでした」

「公爵さま!」



 さらりと出た嫌味は通じない。嬉しそうにこちらを見た妹は、イルヴィスに見惚れて固まってしまった。何となくそれが気に食わなくて、イルヴィスを遮るように前に出た。



「なぜお姉さまがここにいるのかしら?」

「なぜって、私とルイの婚約パーティーだからよ。招待状に書いてあったはずでしょう」

「アマリア様、そのことなのですが……どうもこちらの令嬢は招待状をお持ちではないようで」

「なんと。それは本当ですか?」

「はっ、間違いありません」

「ちょっ、貴方、何をおっしゃっているの!?」



 ぎょっと衛兵をにらんだ妹の形相はすさまじい。だが、イルヴィスはそれを気にすることなく白々しい茶番を続けた。



「それはいけませんね。アメリーの実妹にこんなことを申し上げるのは心苦しいですが、警備上帰っていただく他ありません」

「そ、そんな!だ、だって、さっき御者が門番に何か見せたら通してくださったのよ!?」

「ふむ、これはまた堂々とした買収告白ですね」



 凄い。流れるように罪を作り上げている。

 どれもばれたら恥をかく程度のことなのに、まるで本当に大きな過ちを犯してしまった気になるくらい、イルヴィスの演技が上手い。そのあまりにも深刻そうな雰囲気を前に、とうとう妹が狼狽えた。



「……やっぱり、お姉さまのせいね。そうよ、そうにちがいありませんわ!」



 しかし、それだけで引き下がる妹ではない。分が悪いと察した妹は、再びターゲットを私に変えた。



「ふん、お会いできなかった間にずいぶんといいご身分じゃない!でもいい気になれるのも今だけよ!お姉さまみたいな卑劣な女、すぐに、」

「黙れッ!この恥さらしが!」



 妹の言葉を遮ったのは、顔を真っ赤にした父だった。

 急いできたのだろう、息が切れている。でも顔の赤みは、走ったせいだけではないだろう。



「貴女、どうやってここに?いえ、それになんて格好を……まさか」



 少し遅れてきた母は、妹の姿を見るとさらに顔色を悪くした。話題に上がっている令嬢が妹だと気付いたのだろう。今はどうやって噂をもみ消すか考えているに違いない。

 そんな両親に気付くことはなく、妹は不満そうに目を吊り上げた。



「どうしてわたくしを叱るのですか?わたくし、何か間違ったことを言ったかしら!?」

「オリビア!なんてことを言うんだ!なんでこんなふうに、」

「何よ、わたくしが悪いとおっしゃるの?お父さまは何も知らないくせに!今さら真面目ぶったって、怪しい人たちと遊んでいるのは知っているわよ!!」



 場の空気が凍った。

 恐る恐る父の方を見ると、紙のような顔色をしていた。これ以上ないほどの"後ろめたいことあります"の顔で、これはもう誤魔化しようがないなと他人事のように考える。



「お、お前……ッ!あっ、ああ、こ、公爵様!い、今のは」

「残念ですが、しっかりと聞いてしまいました」

「わ、わたくしは何も知りません!お、オリビア、早く誤解だと公爵様に申し上げて!」

「お母さままでわたくしの味方をしてくださらないの!?このままお姉さまが公爵さまと結婚するのも見ていろっておっしゃるの!?」



 母の言葉ですっかり頭に血がのぼった妹は、勢いのままイルヴィスに抱き着いた。

 それに少しもやりとする。……だけどイルヴィスの顔を見ると、そんな気持ちはすぐに消えた。


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