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「本日はお集りいただきありがとうございます。このような宴を開くことができ、大変嬉しいかぎりです。本日は時間の許す限り、お話をしましょう」



 イルヴィスの挨拶を皮切りに、私たちの周りに人が集まってきた。

 私の方の招待客は実家だけなので、会場にいるのはほとんどイルヴィスに近しい人たちだということになる。隅の方で両親が居心地悪そうにしているのが見えた。

 記憶の中の二人は威張っているのがほとんどなので、今の借りてきた猫のような姿に何とも言えない気持ちが湧き上がる。

 まあ、両親が自分より弱い人間にしか強く出られないなんて、今さらなことではあるが。


 そんなことより、一つ、私を驚かせたことがある。



「お二人にお祝いを申し上げます。いやあ、まさか本当に手に入れてくるとは、恐れ入りました。はあ、その頑固さはいったい誰に似たのやら……」

「ふふ、ずっと縁談を断り続けた甲斐があったわね」

「まったく、いきなり婚約パーティーの招待状なんて寄越しおって。わしの腰が逝くところだったぞ」

「あらまあ、年甲斐もなくはしゃいだのはどなただったかしら」

「ローズベリー嬢、あの子はちょっと強引なところがあるけど、いい子なのよ?でも、何かあれば遠慮なく言ってちょうだい」



 そう。イルヴィスの身内がとても好意的なのだ。中には私の心配をするものもあり、まるで家族のような温かさを持っていた。


 伯爵家で開かれるパーティーは、殺伐とした空気の中で行われていた。

 互いに思ってもいない称賛を並べ、腹を探りあう。一人だけでいい思いをさせないように、足を引っ張り合うのが普通だった。

 だから、私もそういう覚悟をしてきたのだがーーーーいい意味で裏切られてしまった。


 イルヴィスも楽しそうに来客と言葉を交わしており、気を許しているようだ。先代公爵夫妻は流行り病で早くに亡くなってしまっているので、彼らはイルヴィスにとって家族のような存在なのかもしれない。



(私も、そうなれるように頑張らないと)



 気づけば私も彼らとの話を楽しんでいて、イルヴィスからは聞けなかった少し恥ずかしい昔話をたくさん教えてもらった。

 来客の年齢層が高いせいか、私は彼らに娘か孫娘だと思われているらしい。いや、結婚するのだからそれはおおむね間違えていないのだが。とにかく、心からパーティーを楽しむことができた。



 このまま何も起こらなければいいーーーーそう思い始めた私をあざ笑うかのように、事は起きた。



 ファーストダンスを終え、壁際で一息ついていた私たちのもとに、エマが厳しい面持ちでやってくる。

 それだけで、何があったのかは分かった。



「あの女が現れました。言いつけ通り離れに案内していますが、そろそろ頃合いかと」

「……やっぱり乗り込んできたのね。ミラ、よろしくね」

「はい。お任せください」



 傍に控えていたミラは礼をすると、両親の方に向かっていった。

 あんまり多くの人に教える訳にはいかなかったので、誘導役は相変わらずミラに任せている。ホールから出れば衛兵が待っているので、ミラの身に危険が及ぶことはないだろう。



「来ましたか。大丈夫ですか?」

「はい。騒がれる前に行きましょう」



 先行するエマについて行く。

 主催が両方抜けるのは良くないが、予めお色直しがあると知らせてある。


 会場を出れば、自然と急ぎ足になる。心なしか少し騒がしい気がして、つい気持ちが浮つく。


 ふいに手を強く握られ、思わずイルヴィスを見上げる。朝と変わらない笑みを浮かべているイルヴィスは、私の緊張など見抜いているようだ。


 そうだ。私は、もう妹相手に卑屈に感じる必要は無い。


 相手は招待状も無いのに、公爵家の婚約パーティーに乱入してくるような女だ。

 味方を自ら捨てていった妹に、助けてくれる人はいない。いくら跡継ぎとはいえ、伯爵家そのものが存続の危機になれば、両親だって見捨てるだろう。



 もう大丈夫だと、イルヴィスに微笑み返す。今度はしっかりした足取りで離れに向かう。


 元婚約者に未練などないけど、それでも許せないものがある。妹の顔を思い浮かべて、元婚約者の浮気がバレたあの日を思い出す。


 今度こそ、終わりにする。

 あの時の惨めで、何も言えなくて馬鹿にされるだけだった私は、もういないのだ。



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