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【Web版】妹に婚約者を取られたら見知らぬ公爵様に求婚されました(三巻発売)  作者: 陽炎氷柱
第四章

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誤字報告ありがとうございます!

 一人になると、とたんに疲れが押し寄せてくる。

 落ち着いた部屋の雰囲気もあり、眠気に促されるまま大きなベッドに向かう。着替えた方がいいと分かっていたが、一度疲れを自覚すれば、今すぐにでも眠ってしまいたい気持ちが膨れ上がる。



(イルヴィス様も休んでくださいって言っていたし、いいよね)



 イルヴィスはくつろいでください的な意味で言っていたと思うが、それは気にしないようにする。他にもはしたないとか、いきなり気が緩みすぎだとかいろいろ浮かんだ。

 それらをすべて無視して、柔らかなベッドに横になる。だんだんまぶたが重くなるのを感じながら、私はそのまま意識を手放した。






。。。



 軽くまどろむつもりだったが、次に目覚めたのは翌朝だった。

 あのまま寝てしまった私はエマに怒られながら、ミラに身支度を整えられる。私が緊張しないようにと、今日は二人だけで、公爵家の使用人の姿はない。



「もう、二日も連続してお夕食をとらないなんて!お嬢様が大変だったとは知っていますが、お体を壊しては意味がないんですよ?」

「お召し物もそのままで……」

「私もちょっと休むくらいのつもりだったのよ」



 それに、夕食の時間になれば起こしてくれると思っていたのだ。

 実際、エマは起こしに来てくれたようだが、私は全く反応しなかったらしい。イルヴィスは疲れていただろうから無理に起こさなくていいと言ってくれたので、着替えもできずにそのまま私を寝かせておいたようだ。


 この三日間、二人にずいぶんと心配をかけてしまった。



「私たちは今日から本格的に公爵家のマナーを勉強しなければならないので、ずっとお嬢様とご一緒はできません」

「あとで公爵さ……いえ、旦那様からお話があると思いますが、メイドがもう一人付くかと思います」

「そうね。私たちだけでは不安、」



 耳慣れない言葉を聞いた気がして、思わず固まる。

 恐る恐るミラの顔を見れば、珍しく満面の笑みを浮かべていたではないか。



「え、ミラ?いま、旦那様って」

「はい。お嬢様がお休みになっている頃、正式にお二人の婚約が成立しました」

「はい!?昨日婚約破棄したばかりなのよ、私!?」

「さすが公爵家ですよね!私もびっくりしてしまいました」



 エマは朗らかに笑っていたが、私は情報を理解するのに精一杯だった。

 いろんな疑問が浮かんでは消えていったが、不思議と嫌だなという気持ちはなかった。やっとイルヴィスと婚約したという言葉を受け入れ始めたとき、私は自分がとんでもないことを忘れていることに気が付いた。


 タイミングよくミラから終わりましたと声があり、私は慌てて立ち上がった。



「イルヴィス様は?」

「お嬢様と朝食を共にしたいそうで」

「行くわ」

「お、お待ちください! お嬢様は場所をご存知ないじゃないですか!」



 エマたちに案内された食堂では、すでに準備が整っていた。

 席に着けば、機嫌が良さそうなイルヴィスは砂糖を溶かしたような声であいさつしてくれた。



「おはようございます。きちんと休めたようで良かったです。部屋は気に入ってくれましたか?」

「おはようございます。おかげさまで疲れが取れました。お部屋もまるで私のためにあるようで、とても素敵です」

「まるで、ではなく、貴女のために模様替えしたんです」



 さらりと言われて、あやうく流してしまうところだった。

 じっと固まってしまった私を前に、イルヴィスは笑みを深くした。



「私の婚約者ですから、当然でしょう?花嫁修業で滞在しているとはいえ、客間に泊めるなんてありえませんから。ああ、一応最低限の物は揃えさせましたが、足りないものがあればすぐに言ってくださいね」

「あ、ありがとうございます……って、そうじゃない!イルヴィス様、本気だったんですか!?」

「ええと、話が見えませんが……?」

「婚約の件ですよ!昨日は聞きそびれてしまいましたが、いったいどういうことですか?しかももう成立していると伺ったんですけど」



 混乱している私を見て首を傾げたイルヴィスはむしろ、私が何を言っているのかが分からないようだった。



「おや、私の恋人になるという約束ではありませんでしたっけ」

「そんな約束してませんよ!!?婚約者のように振る舞うという話でしたし、それも私が婚約破棄するまでです!」

「ははは、そうでしたね」



 独身になったばかりの女をからかわないで欲しい。

 そう思って強めに否定したが、イルヴィスはいたって真面目な顔をしていた。



「しかし、こうしなければ貴女はあの家に囚われたままです。あの男は落ち着いたようだが、他は何をするか分かりません」

「そ、それは……」



 否定できないのが悔しかった。

 なにしろ、イルヴィスが私を連れ出す直前まで食い下がっていた人たちだ。


 でも、これ以上迷惑をかけたくない。

 私にはまだ何も返せないし、そもそもイルヴィスには好きな人がいるという話だったではないか。

 今ならまだなかったことにできる。


 私のせいで、イルヴィスが想い人と結ばれないのは、嫌だ。



「……はあ。私が貴方を好きだから、とは考えてくださらないんですか?」



 思考が、停止した。



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