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 両親は私が誤魔化してくれるとでも思ったのか、私の顔を見て満足そうにうなずいた。この期に及んで、まだそんな態度を取れることに落胆する。

 そんな危機管理能力でよく今までやって来られたものだ。私には貴方たちを恨むことはあれど、守る理由などないというのに。



「私も話を聞いたときは本当に驚きました。ウィリアム様は確かにつれないお方でしたけど、優しい人だと思っていたんです。それなのに……!」

「アマリア!?貴女までなんて馬鹿なことを!今からでも遅くありません。嘘をついたことを公爵様に詫びなさい!」

「伯爵家の未来がどうなってもいいのか!?そんなデタラメが外に漏れたら、お前だって恥をかくぞ!」



 父の言うとおりだ。

 妹に婚約者を寝取られた令嬢なんて、いい笑いものだろう。そんな状態で伯爵家を継いだとしても、他家からいい対応されるとは思えない。

 ならばこのまま"無かった"ことにした方がいい。だから、父は私が本当のことを言うはずがないと高をくくっていたのだ。



「嘘、ですか。確かに私の誤解かもしれませんね」

「は、はは!そうだ、そうに違いない。ほら、早く公爵様に謝罪するんだ」

「ですが、お父様たちも何か誤解をしているかもしれません。せっかくみなさんおそろいですし、この機会に話し合いをしませんか?ウィリアム様も、話し合いを望んでおられましたよね?」



 突然名前を呼ばれた婚約者はビクリと肩を震わせ、恐る恐るこちらを見た。妹にはそもそも悪いことをしたという自覚がないので、一人だけ晴れやかな表情で立っている。



「貴様、自分が何を言っているのか分かっているのか?」

「はい。イルヴィス様もいらっしゃることですし、公正な判断を下していただけるかと思いますよ」

「このッ!」

「伯爵、私は構いませんよ」



 イルヴィスがにこやかに口を挟んだことで、父は無理やり言葉を飲み込んだ。



「さあ、オリビア、貴女の話を聞かせてちょうだい。イルヴィス様が証明してくださるわ」

「何も隠す必要はありません。包み隠さず教えてくだされば、きっと貴女の望みが叶います」



 怪しい占い師のようなセリフだが、イルヴィスの顔に魅入られた妹は洗脳されたかのように話し始めた。

 もっとも、その話は妹による過大解釈と妄言がほとんどを占めているため、嘘の特盛作り話セットになってしまっているが。



 一生懸命に私の都合がいいように話す妹に、とりあえず今回の目的は達成できそうだと安心した。


 私がとっさに考え付いたこの計画は、婚約者を私から遠ざけることに重きを置いている。

 もちろん立場的に一番手を出しにくく、予想外の行動に出られる前に何とかしたいというのもある。だけどそれよりも、なんだか婚約者が自分の意志で動いていない気がしたからだ。


 なんとなく予想はついてるものの、まとめてなんとかできるほどの余裕が私にはなかった。

 だからひとまず、自由になるために、目的を婚約破棄に絞った。イルヴィスとメイドたちにこんなに迷惑をかけておいて、失敗しましたなんて許されない。

 


「つまり、オリビア嬢はいつの間にか彼に思いを寄せるようになり、彼も貴女の方がいいからと関係を持ったと。そして今日、彼に結婚して欲しいと言われたのですね」

「はい!だからだから、わたくしふと考えたのよ!ウィリアム様に捨てられるようなお姉さまに、家を継ぐなんて荷が重いんじゃないかしらって」

「なるほど。では、君はアマリアに婚約破棄を告げるために、こんな部屋に呼び出したんですね?わざわざメイドを下がらせて、二人きりになって」



 心配そうにしていたんですよと、こともなげに言うイルヴィスに、婚約者の顔はどんどん青ざめていく。



「で、でもアマリアは僕の婚約者だ」

「私の妹に手を出しておいて、まだそんなことが言えるんですね。それに貴方、私を襲おうとしたのではありませんか?」



 それを聞いたイルヴィスはあからさまではないものの、目線で私の服装を確認した。そして私に何もなかったと分かった瞬間、安心したようにため息をついた。

 しかし、イルヴィスがまとう空気は一層重くなった。言葉を交わさなくても、彼がかなり怒っているのが分かる。

 そのあまりもの気迫に、父ですら少し腰が引けていたのだ。



「同意を得ていないのでしたら、例え婚約者同士であっても、それは許されません。……最低で、貴族の風上にも置けない行為だ」

「もちろん、同意などしていませんわ。私が断ると思ったのか、脅そうとしたのかもしれませんね」

「違う……違うんだ。僕はただ、アマリアと二人だけで話をしようと」

「だから何だというのですか。明らかに度が過ぎています。ウスター侯爵が聞いたらさぞお嘆きになるでしょう。両家の関係のために除籍されるかもしれませんね」



 イルヴィスにはっきりと現実を突きつけられた婚約者は、私に縋るような視線を送ってきた。

 もはや紙に近い顔色をしている婚約者に、少しも憐れみの気持ちはなかった。



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