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誤字報告ありがとうございます!

「アマリア様をお連れしました」

「入ってくれ」



 じっとこちらを見るミラに頷きを返せば、ゆっくりと扉が開かれた。

 室内に入ると、俯いたままベッドに腰をかけた婚約者の姿が目に入った。



「アマリアと二人きりにしてくれないか」



 形だけ疑問文であるそれは、ただの命令だ。

 顔も上げずにそう告げた婚約者に、ミラはこれ幸いにと顔をしかめた。しかし、事前に私からこの可能性を聞いていたからか、すんなりとその要求を受け入れた。



「はい。何かありましたらお申しつけください」



 扉が閉まる直前、ミラと目が合う。一瞬だけ見えた彼女の微笑みはとても頼もしく見えた。



「いかがされました?」

「君と、話をしようと思って」



 今さら何を、という言葉を気合で飲み込む。

 まだ婚約者を煽って興奮させるべきではない。この短時間で何があったか知らないが、彼には手負いの獣のような険しさがあった。



「その、オリビアはとても君に似ているだろう?そんな彼女があまりにも熱心に気持ちを伝えてくるから……断れなかったんだ」



 婚約者はそう言いながら、ちらちらと私の様子を窺っている。事が発覚した時もまったく同じセリフを言っていたが、言い訳も覚えていないのだろうか。



「でも、彼女は全然君と違ったんだ。自分本位だし、何より話を聞かない。僕が話しかけても意味がわからない事ばかりで、会話すらまともにできないんだよ!アマリアもたまに僕の言うことを否定するけど、それは僕の気を引こうとしたんだろう?結果的に君が言ったことで僕が損をしたことはないけど、アレは駄目だね」



 やれやれと首を振る婚約者が見るに堪えなくて、そっと視線を逸らした。熱心に語っている婚約者がそれに気付く様子はない。

 婚約者の声が雑音のように聞こえて、内容が頭に入ってこない。妹を自分本位で会話ができないというが、それがすべて自分にも当てはまっていると気づいていないのか。



(気づいてないのでしょうね……)



 婚約者は話がしたいと言っていたはずだが、私はまだ一言も発していない状況に疑問を抱いていない。必死に他人に責任を押し付け、反省をしないその姿から何かを感じることはもうなかった。



「むしろ僕だって被害者だと思わないか?ねえ、アマリア、もう分かってくれただろ?僕はずっと君が好きなんだ!」

「それで?」



 取り繕うことなく短くそう返した私に、婚約者は言いよどんだ。

 本来ならば失礼だと両親に告げ口をされるだろうが、もうそんなことを心配する必要はなくなった。遠くで聞こえた扉の音に、ミラが上手く妹を誘い出したのだと分かった。



「あ、ああ!なるほど、またそうやって僕の気を引くつもりなんだね!はは、君はずっと僕のことが好きだったもんな。分かってるよ、公爵様と出かけたのだって、本当は僕を妬かせるためなんだろ?」

「違いますが」

「は、な、何を言っているんだ?そ、そんなわけないだろ!ないよな?もう君を困らせたりしないから、そんな嘘を吐かなくていいんだよ?」



 本気で私が喜ぶとでも思っていたのだろう。それか泣きながら許すのを想像していたに違いない。

 だから真顔のまま何の反応もしない私に、婚約者は信じられないものを見たかのように目を丸くした。



「な、なんだその顔は!?まさか……本当に怒っていたのか?あ、アマリアは許してくれるよな?僕のこと、好きだもんな?僕がこんなに謝ったんだから、許さないわけがないよな……?」

「婚約者がいるにもかかわらず、よりにもよってその実の妹と浮気しました。でも、思っていたのと違ったから自分は騙されただけ、むしろ被害者だとおっしゃるのですね」



 婚約者は否定しなかった。むしろどうして自分が責められているのかが理解できていないようだった。……この男は、今まで散々甘やかされてきたんだな。



「そうして自分が望む女性像を押し付けてきて、そんな君が好きだ?そう言われて"私も好き"とか"嬉しい"って返す女性が存在すると思いますか?まあ、思っていらっしゃるからここにいるのでしょうけど」



 そこまで言い切って、ふとさっきのふざけた言葉を思い出す。



「先ほどウィリアム様は謝ったとおっしゃいましたが、そんなものは謝罪とは言いません。本当に申し訳ないと思うのでしたら、それなりの態度を示すべきかと思います。今さらもう意味のないことですが」

「……そんなの、僕は、認めない」



 ぎり、とここからでも聞こえるほど強く歯ぎしりした婚約者は、まるで幽鬼のようにふらりと立ち上がった。

 そのまま私に手を伸ばそうとしたところで、部屋の扉が勢いよく開けられた。



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