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誤字報告ありがとうございます!

 食事を済ませた後、私とイルヴィスはすぐに屋敷に戻ることになった。



 あの夜、私はもっと確実で安全に婚約破棄をして、ただ幸せになりたかった。でも、それでは逃げただけで何の解決にもならない。

 だって、今日私が少し抵抗しただけで婚約者がこんなことをしたのだから。


 イルヴィスは申し訳なさそうに自分の見立ての甘さを謝っていたが、そもそも彼はこんなことに罪悪感など感じる必要がないのだ。

 妹に婚約者を寝取られたのは私で、本当なら両親の言いなりになって隠すのではなく、すぐにでも外部に訴えて婚約破棄すべきだった。確かに私は婚約者を取られた可哀そうな女になるだろうが、少なくとも婚約者と結婚するのを避けることができたはずだ。


 隠れて悲劇のヒロインぶっていたから、こんなにややこしくなってしまった。私を苦しめていたのは、私自身だったのだ。



 

 イルヴィスの話を聞いて、私は覚悟を決めた。思い浮かんだ作戦を話せば、半ば賭けに近い話なため、私の身を案じたイルヴィスはすぐに異を唱えた。それを説得の末に、なんとか条件付きでやっと折れてくれたのだ。


 さっき婚約者が向かったのは、伯爵家がある方角だった。侯爵家は伯爵家とは真逆の方向なので、家に帰らずまた伯爵家に戻ったのだろう。あてなく町をうろつくより、私の帰りを待った方がいいと考えた。


 屋敷に帰ったら婚約者に出迎えられるなんて、考えただけでも気が重い。でも逆に、それは私が帰るまではやつの居場所が分かっているということでもある。


 今日、婚約者が私たちの後をつけてきたのは衝動的な行動である。だが一度実行してしまえば、次はもっと簡単に行動を起こすだろう。しかし、それでは後手に回ってしまう。


 だから今のうちに、こちらから仕掛けることにしたのだ。

 


「伯爵家が見えてきましたね」

「なんだか不思議ですね。朝はあんなに早く街に着きましたのに、帰りはとても長く感じます」



 自分の家が、おとぎ話に出てくる魔王城のように見える。まあ、そもそも私にとって実家とは暗くて苦しいところなのだから、あながち間違いでもない。



「本気、なんですね?」

「はい」

「貴女もこれが危険な賭けだと分かっているはずです」

「そうですね、一歩間違ってしまえば取り返しのつかない大惨事です」

「……私がタイミングを誤れば、貴女は二度とあそこから抜け出すことができなくなってしまうというのに?」

「それが私が戦った結果なら、受け入れます」

「他にもっといい方法があるのに?私が一度間違えたから、頼れないのですか?だったら、」

「それは違います」



 イルヴィスの言葉を食い気味に否定する。

 またしても私の都合で振り回していることに申し訳ないと思う。無事解決できたら、彼には何かお礼をしないといけない。イルヴィスの善意に釣り合うほどの物を用意するのは無理かもしれないけど。



「イルヴィス様を信じていなければ、とてもあんな作戦を実行できません。たった数日の付き合いですが、貴方のことを誰より信じているから頼ったんです」

「すうじつのつきあい」



 イルヴィスが虚を衝かれたような顔をしたが、構わず続ける。



「私の都合に付き合わせて本当に申し訳ないと思います。でも、私の手であいつに引導を渡したいのです」



 誠意を込めて、頭を下げる。馬車の中では立てないので、膝におでこをくっつけるつもりで。



「あ、アマリア!?頭を上げてください!そんなつもりで言ったわけじゃないんです。私はただ、少しも貴女を危険な目に遭わせたくなかった……ですが、そういうことでしたら何も言いません」

「ありがとうございます。ご迷惑をおかけします」

「迷惑だなんてとんでもない。それに最初に間違えたのは私ですので、今回は名誉挽回に励ませていただきます」



 イルヴィスは相変わらず謎の意地を張っているが、今度こそ納得してくれたようだ。


 そんなことをしているうちに、いよいよ門が見えてきた。予想通り、侯爵家の馬車が遠くの方にあった。


 今さらながら緊張してきて、深呼吸をする。ここからイルヴィスとは一旦別行動だ。

 ……自分が戦うと言っておきながら、結局最後はイルヴィスに頼らざるを得ないのが大変遺憾だが。身内に頼れる相手がいないので、仕方ない。



 気持ちを引き締めて、私は馬車から降りる。そしてエスコートをしてくれたイルヴィスを見送ったあと、屋敷の門をくぐる。


 手が少し震えているような気がするが、これはきっと武者震いというものだ。



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