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 いつものように私が謝ると考えていた婚約者は、たったそれだけのことでうろたえた。

 口角が上がりそうになるのを、口の中を噛むことで耐える。ひらりとスカートのすそをつまみ、婚約者に見せつけるように少し広げた。



「あら、お気付きになりました?このドレス、とても素敵ですよね。私は結構気に入っているんですが、ウィリアム様はいかがでしょうか」

「あ、ああ。その、ドレスは良い……と思う。でもそんなに目立つ格好は良くないと思うな」

「目立つのが良くない、ですか。それはどうしてでしょう」



 露出の多いドレスが嫌、ならまだ理解できる。否定されるのが怖くて今まで理由を聞いたことはなかったが、私はずっと婚約者が派手な格好の女性が苦手だと思っていた。


 だから派手と露出を体現したような妹と寝たことを不思議に思っていたのだが……さっきの言い方からすると、私は勘違いをしていたのかもしれない。



「どうしてって、そんなのもわからないのかい?そんな格好をするのは自己顕示欲が強い女か、男漁りをする女ばかりってことだよ。オリビアだってそうだろ?」

「え……は?」

「だから、僕の婚約者である君に着飾る必要はないんだよ。」



 そんなことも分からないのかと婚約者は肩をすくめたが、それはこっちのセリフである。一言とて彼の言っていることが理解できない。

 しかし根気強く何度も婚約者の言葉を反芻していると、私は小さな違和感に気づいた。



(こいつ……もしかして気が弱いのを盾に何か隠している?)



 浮気を告げられたときは気が動転して気づかなかったが、婚約者の言い分と言動には深刻な矛盾があった。

 そんな一生懸命に考えている私が見えていないのか、婚約者はこれみよがしに困ったふうを装った。



「まったく、いきなり僕に意見なんかをして……いつもの穏やかで素直な君がどうしたんだ?」



 無視しようとしたが、その言い方に引っかかりを感じて考え事を中断する。疑念をぶつけてみよう。



「穏やかで素直……ですか。つまり、いつもの私は従順で何でも言うことを聞くってことですか?」

「な、なにを言っているんだ!?ぼ、僕がそんなことを思ってるはずがないじゃないか!!」



 なるほど。

 つまり、婚約者は私より優位に立っていることを示すために、それだけのために今まで束縛してきたのだ。



「すごい慌てようですね。妹と寝たのがバレたときでもそんなに取り乱さなかったではありませんか。図星なんですね?」



 分かりやすく言い繕う婚約者の姿が、笑ってしまうほどに情けない。しかしなにより、私が今までこんな意気地なしの言動に一喜一憂していた事実に、思わず失笑してしまう。

 そんな私の態度に、婚約者の顔が怒りで赤く染まっていく。



「昨日、君が他の男にうつつを抜かしているとオリビアが泣きついてきたときは、僕の気を引く冗談だと思っていたんだ。でも最近君の顔を見られていなかったし、ちょうどいいと思って様子を見に来たんだ」

「信じていたのに、こんな早朝からいらしたんですね」



 どうして妹も婚約者も自分のことを棚に上げて話すのだろうか。一体どの面を下げれば、そんなあたかも自分が被害者かのように振る舞えるのか。



「うるさい!でもこれではっきりしたよ。何もなければ、君が僕にそんな態度をとるはずがないからね!」

「ええ、ええ!その通りですわ。さすがウィリアムさま!これでわたくしの言ったこと、信じてくださりますわよね?」



 婚約者が勝手に盛り上がり始めたところで、妹は甲高い声を屋敷中に響かせながら姿を現した。

 


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