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「……お茶会…ですか?今日、の午後?」
ストリア子爵は突然の招待に驚き、何度も額の汗を拭っている。
「はい、突然の招待で申し訳ありません」
招待状を持ってきた男はそう静かに告げた。
「…いや、しかし。レーアは…。あの、レーア、ではなく妹の方ではだめでしょうか?その方が失礼ないかと……」
「いえ、我が主は是非ストリア子爵家レーア様をご招待したいと。先日のリリエスタ公爵家でのお茶会の時に婚約者であるレーツェル様が世話になった5人の方々を、と」
「いや、でも」
「王弟殿下アルフォンス様から直々の招待でございます。断られるとなりますと、私もそれなりの理由を持ち帰らねばならないのですが?」
さらに汗を拭いている。そりゃあそうだろう。朝一番にいきなり王宮からの馬車が来たと思ったら、これだ。お気の毒に、と招待状を持ってきたテオは思った。
「で、では、理由といたしまして、着ていくドレスがないと…そんな王宮に着ていけるだけの物が」
ありませんので、と理由をひねり出してきた。
しかしそれも想定内である。
「大丈夫です。こんな急のお誘いですので、普段着で。もしお気になさるようでしたらこちらでご準備させていただきます」
ストリア子爵の汗は止まらない。
流石レーツェル様とアルフォンス様である。断られる事を想定して、ありとあらゆる準備をしてあるのだ。
「申し訳ありませんが、直接渡すようにといいつかっております手紙もありますので、ここにレーア様を呼んではいただけないでしょうか?」
さらにテオは畳み掛ける。
「あ、いや、でも。私が渡してきますから」
「いえ、直接お渡しさせていただきたい。何か不都合でも?」
「あ、う……わかりました」
観念したのか、二階に呼びに行った。子爵直々に。執事がいるのにもかかわらず。だ。ということは。
しばらくすると二階から下りてくる足音が聞こえた。
明るい金髪と青い瞳の少女だ。テオの目の前に立ち、カーテシーをする。
「ストリア子爵家レーアでございます。この度はご招待ありがとうございます。是非伺わせていただきます。お手紙をお渡しいただければ」
と、流暢に挨拶をし、手を出してくる。
やはりこう来るか、とテオは思った。まあこれもお二人にとっては想定内でしたが。
「……ストリア子爵は詐欺罪で訴えられたいのですか?」
「あ、え?そ、そんな…ことは」
「レーア様にお会いしたことない私とアルフォンス様なら妹君でもごまかせられるとお思いですか?このまま王宮に行ったとしてレーツェル様をどうごまかすおつもりでしたか?私がお会いしてお手紙を渡したいのはストリア子爵家長女レーア様でございます。妹君ではございません。二度目はありません。どういたしますか?」
と、少しきつく言ってみる。妹の方もまずいと思ったのか、
「……お父様…」
と子爵の方を見てどうしようかと慌てているように見える。
「……少々お待ち下さい…」
観念したのか、もう一度二階に上がって行く。
また足音が聞こえてくる。今度は先ほどの少女より背の高い、薄い金髪、薄い紫瞳の女性だ。間違いない。
テオの前に来て、妹よりも綺麗なカーテシーをする。
「……ストリア子爵長子レーアでございます」
少し怯えているか?何か言われたか?
「この度は突然の訪問、申し訳ありません。我が主であるアルフォンス王弟殿下が先日リリエスタ公爵家でのお茶会の際に婚約者であるレーツェル様と親交を持たれたご令嬢方と是非自分も会いたいと申されまして」
こうくるとは思っていなかったのか、レーア様も目を開いて驚いている。怪しまれないので好都合である。
「ただ我が主も忙しくしておりまして、本日の午後なら時間が取れるとなったら急遽思いついたらしく。もしご迷惑でなければ、レーア様にご参加いただきたくこうして参った次第です」
ご予定は大丈夫でしょうか?もし何かご予定があるようでしたら、と聞くと、後ろにいた子爵が慌てて
「も、もちろん大丈夫でございます。そ、そんな予定など娘には…」
「よろしいですか、レーア様」
あくまでレーア嬢に向けて話しかける。
「あ、はい。で、でも王宮になど着ていける服が……」
「その点はお気になさらずに。今そのままで結構でございます。こちらで準備させていただきますので」
と、テオが有無を言わさない笑顔を向ける。
それでは了承していただけたという事でこれを、とテオは胸ポケットから一通の手紙を取り出す。
「我が主アルフォンス王弟殿下と婚約者レーツェル様からの手紙でございます。この場で開けて見ていただくよう申しつかっております」
是非お開けください、と言うとレーア嬢はおずおずと手を伸ばし受け取り封を開く。
中から取り出し、目を通す。
「読めますか?」
と、テオが声をかけるとレーア嬢は頷く。テオも満足気に微笑む。
後ろから子爵と妹が覗き込んで見ようとしているが、テオがすかさず
「ああそちらの手紙は我が主の魔法がかかっておりますのでレーア様以外には見えないようになっております」
「え?」
「なんっ」
二人共驚いている。
「レーア様以外にはただの白い紙です」
二人が覗き込んでいるが何も見えないらしい。
レーア嬢は真剣に読み込んでいる。
実際の所、この手紙には確かに魔法が使われては、いる。
だがレーア嬢以外に見えないように、ではなく、魔力がないと視えないようになっているのだ。それもかなり高度の魔力がないと視えないらしい。
ちなみにテオも視えない。もしレーア嬢が読めない、視えないと言った場合に備えて普通の状態の手紙も持ってきてはいるが必要なかったようだ。
これはヴァイツェン様が喜ばれるな、とテオが思っているとレーア嬢が
「了承いたしました。午後から伺わせていただきたく存じます。今から準備をさせていただきます」
「ご了承していただきありがとうございます。では午後一時にお迎えに上がらせていただきますので」
「はい、よろしくお願いいたします」
レーア嬢の声に最初の頃の怯えや迷いは一切ない。
では、また後でと告げ、礼をして下がろうとした所で思い出したように付け加える。
「ああ、そうでした、そのお手紙に書かれていることは他言無用でお願いいたします。子爵様もレーア様に尋ねることのないようお願いいたします。内容についてレーア様以外の方に知られますとその方の命の保証はできませんので、と我が主が申しておりました。迎えまでレーア様はお一人で過ごすようにお勧めいたします」
と、詮索しないように釘をさす。
ひっ、と声が聞こえたような気がしたが気にしない。これでゆっくり準備できるだろう。
「では、今度こそ失礼いたします」
テオはストリア子爵邸を一旦あとにした。
数時間後の午後一時、もう一度ストリア子爵邸の前にテオが馬車に乗って到着した時には、玄関前に小さめのカバンを一つ手にしたレーア嬢が待っていた。
馬車の扉を開けて中に入るようエスコートする。
「よろしいですか?こちらに乗る覚悟はありますか?」
レーア嬢は真っ直ぐな瞳で、ハッキリと
「はい、よろしくお願いいたします」
と、テオに告げ、馬車に乗り込んだ。
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