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 ――――その口づけは長い間続いた。


 角度を変え、少し離してはまた口づける。


 レーツェルの息も絶え絶えになった頃、アルフォンスの声が聞こえた。


「……やっと」

「?」

「やっと言ってくれた……」

「え?」


 先程までの険しい表情ではなく、優しい、いつもの微笑みに戻っているアルフォンスが囁く。


「レーツェルが私の事を『愛してる』って言ってくれた。愛してる人の子供の愛してる人って、私のことでしょう?」

 にっこり笑って尋ねてきた。

「……うっ」

 勢いと流れで口にしてしまった言葉をアルフォンスが聞き逃すはずもなく。


「レーツェル、私の事わかってるよね?さっきも言ったでしょう、レーツェルがいないと生きていけないって。レーツェルの事が好きで大好きで、愛してて。そしてそのレーツェルが私の事を愛してる人と言ってくれたんだ。私はもう何があっても、何を言われても絶対レーツェルを離さない」

 嫌だ、きらいだ、と言われても離れる気はないからね、一生、と。


「それに私はレーツェル・シュヴァルツを好きで愛してるのであって、『竜化』できるとか、子供ができないとか、そんな事は関係ない。レーツェルも王弟だからとかは関係なく私を好きで、愛してくれてるんでしょう?」


 その言葉にレーツェルは素直に頷く。


「じゃあそれでいいじゃない。私は子供ができなくてもいい、いなくてもいい。レーツェルさえいてくれればそれでいい。レーツェルは?」

 

 手首を掴んでいたアルフォンスの両手がレーツェルの涙の跡がある頬を撫でる。


「……わ、私もアルさえいてくれればそれで」

 いい、とアルフォンスの瞳をまっすぐに見て話すと、最高級の笑顔が降ってきた。



「なら、何も問題は無い。私はレーツェルを手放さないし、レーツェルも私を手放したらだめだよ。ずっと一緒に、二人で生きよう」



  『二人で生きよう』



 その一言が欲しかったんだ―――――


 


 子供ができなくてもいい。いなくてもいい。


 二人が一緒にいられれば、それでいいんだ。


 本当にアルフォンスは私の欲しかった言葉を全てくれる。

 

 アルフォンスのそばに、隣にいていいんだ。

 

 

 心の奥底の何かが全て無くなった瞬間だった。

 


 そして声を出さずに頷く仕草を見せる。何度か頷き

声を絞り出す。




「……二人で…生きていきたいです……」




「じゃあもう二度あんなこと言わないで。レーツェルに嫌われたのかと思って思考が停止したよ」


 とおでこを合わせてきた。


「レーツェルの口から他の女性を勧められるなんて、もう二度と聞きたくないからね」

 絶対言わないでよ、と。


 レーツェルはギュッと強く目を瞑り頷いた。


 もう一度、アルフォンスは軽くキスをしてきた。そして思い出したように、


「レーツェル、他には?身体の変化はそれだけ?そのことで辛いとか痛いとかはないの?」

「な、ないです。痛みもないですし、むしろ身体は軽く感じるくらいです」

「ならいいけど。少しでも違和感あったらもう隠さずすぐに言うんだよ、わかったね?」

「はい」

 素直に頷く事ができる。



 アルフォンスは先程剥ぎ取った毛布を引っ張って二人で羽織る。

 レーツェルを胸元に引き入れ、背中に手をまわして抱きしめる。


「他には?隠してる事はない?」

「ないです。大丈夫」

 です、と言おうとしたら

「レーツェルの『大丈夫』はあてにならないからな」

 と、クスッと笑って返してきた。


「あと一つ相談なんだけど」

「何でしょう?」

「この事って、兄上とかに言ってもいいの?」

「……あーそうですね……」

 

 確かに言っておかないと後々大変そうだ。


「かまわないんですけど、出来ればお義姉様にはまだ言わないでおいてくれた方がいいかと」

 思うんですけど、と言うと

「そうだね。とりあえずベル兄上に話して、あとは任せよう。それと母上にも言っておこうか」

 一番煩そうだし、でも何かと味方になってくれるはずだから、と。

「はい、そうですね」

 よろしくお願いいたします、と答える。


「じゃあ今日もよく眠れるように」

 とおでこに軽くキスをしてくる。


「おやすみなさい、よい夢を」

「はい、おやすみなさい、アルもよい夢を」

 と、がんばって伸びてアルフォンスの頬にキスをした。


 少しびっくりした顔をしたアルフォンスが


「……嬉しくて、眠れそうにないな」

 ともう一度レーツェルをギュッと抱きしめてきた。



 その態勢のまま、二人は眠りについた。




 ~~~~~~~~~~~~~~~~




 しばらくするとアルフォンスの胸の辺りからレーツェルの柔らかな寝息の音が聞こえてきた。


 先程のキスの時に少しだけ魔法をかけた。よく眠れるように。

 かなり興奮させてしまった。あんなレーツェルは初めて見たかもしれない。


 それだけ本心をさらけ出してくれたと言う事だろう。


 

  『愛してる人の子供をなすことができない』



 

 その一言を口に出すまでにどれほどの葛藤があったことだろう。


 レーツェルは背も高く落ち着いていて大人びてみられるが、まだ16歳になったばかりの少女だ。

 

 たった16歳の少女に課された責任と重圧。


 『竜化』して『加護』を行い、この国を護り、繁栄を導く―――――


 それだけでも大変な事なのに、それをするための条件が自分自身に跳ね返ってくるとは。


 同じ年代の女の子なら、一度は必ず好きな人との未来を思い描くだろう。結婚、そして好きな人の子供を産むこと。夢を見て淡い期待を膨らますことだろう。


 さらに昨日、義姉上の事を聞いて、兄上との幸せな姿も見ていることだろう。

 同じ女性として自分もと思ったりもしただろう。


 その期待を、夢を奪われる事は想像に難くない。それもこの短期間に一度にいくつもの事態がその身体に襲ってくる。


 

 そしてそれは選択肢など一切ない。

 

 

 有無を言わさずその細い身体に降りかかる。



 これが『竜化』ということか。

 

 

 一体どれほどの精神力をもってその事に対して向き合っているのか。

 

 アルフォンス自身も小さい時から王族として育てられ、それなりの精神力や決断力を培ってはきたが、ここまでの選択を迫られたことは多分ない。


 それをいくら普通の少女達とは全然違う育てられ方をしたからと言ってもまだ16歳だ。

 

 アルフォンスは胸の中で静かに眠る少女を優しく見つめながら


「必ず、必ず護るから。そばにいるから」


『契約者』として、全てを捧げるから。


 一人じゃないから。必ずそばに、隣にいるから。


 

 そう囁いて、もう一度おでこにキスをして、アルフォンスも眠りついた。





 

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