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 いつから『大丈夫』だと思いこんでいたんだろう。


 全然『大丈夫』じゃなかったくせに。



  『…この化け物が!』


 あの時、あの男に言われた一言が耳から離れない。


 確かに普通の人から見たら『竜化』する人間なんて同じ人間とは思えないだろう。

 

 『化け物』と呼ばれても否定できない。


 自分では何も変わってはいないと思っていた。アルや陛下、エルゼ達も何一つ変わらず接してくれる。


 だから気づくのも遅れた。認めたくないから、その事から目を背けていたのも事実だ。


 前々から、心の奥底で湧き上がっていた、くすぶっていた感情が表面に出て来た。


 大粒の涙が次から次へと溢れてくる。


 止まらないし、止められない。


「……っ、うぅ……」


 声もまともにでない、溢れる涙がレーツェルの寝間着のスカートの上に落ち続け、色が変わっている。


 いきなり大粒の涙を見たアルフォンスも最初は戸惑っていたが、すぐに理解し、レーツェルを自分の胸に抱きしめた。


「……我慢しないで、レーツェル」


 

 その言葉に、魔力が含まれているわけはなかったが、言霊のようにレーツェルの心に染み込んだ。染み込んで、全てが解放された気がした。


 

 アルフォンスの胸の中でレーツェルは声を上げて泣いた。

 

 子供のように、声を上げて泣くレーツェルをアルフォンスはずっと胸に抱き、頭を撫で続けた。



「レーツェル、私は何があっても君のそばにいる」


 

 その言葉と頭に触れてくる優しい仕草にレーツェルの心は完全に解放された。

 全ての思いがやっと言葉になってレーツェルの口から出て来た。



「わ、私は化け物です、か……?」

  

 

 レーツェルが声を絞り出して問いかける。


 アルフォンスは冷たくなっているレーツェルの手を握りしめ


「……やっぱり、気にしていたんだ……」



 あの男がその言葉を発した時、誰よりも速く動いたのはアルフォンスだった。


 レーツェルより速く、その言葉に対して怒りを現していた。

 今までにレーツェルが見たことないほどの魔力であの男に対して怒りをぶち撒けていた。

 

 その事が嬉しかったと同時に気にはなっていた。


 アルフォンスがレーツェルを横抱きにし、立ち上がり、ベッドまで移動する。


 毛布をめくり、ベッドに乗り、レーツェルを横抱きにしたまま背もたれと枕に背中を預けて座る。


 めくった毛布をレーツェルに巻くようにして抱えなおす。

 冷たくなっている身体をあたためるように。

 

 アルフォンスが静かに話しだす。


「前にも言ったけど、レーツェルは『化け物』じゃない」

「……で、でも、こんな風に身体が変化するなんて、他には誰もいない」


「他に誰もいないと言う事でレーツェルが『化け物』なら私も『化け物』だ。こんな何もしなくても人や動物を傷つけるようなほどの魔力を持っているなんてこの国にはいない」

 さらにアルフォンスは続ける。


「レーツェルに会うまで、私は魔力の制御ができなかったんだ。自分は何もしていないはずなのに、近くに寄ってきた猫や動物などは倒れる。いつどこで誰に対して発動するかわからない。誰も近寄れなかったし、近寄ってもこなかった」

 ヴァイツェン以外はね、と。

「レーツェルにしているように魔力を人に与えて発散させる事もレーツェルに会う前からしようとはしてたんだ」

 

 温かい毛布に包まれ、アルフォンスの話を聞いている。


「でも元々皆自分の魔力を少しでも持っているから、違う魔力ははじかれたし、相手にわたることすらもしなかった。発散もできず、どんどん溜まっていっていつ暴走するかもわからない。周りは私を腫れ物のように扱う。それこそ『化け物』を見る目だった」

 

 そんな時にレーツェル、君が来たんだ、と。


「父上に抱かれていた君は何の憂いもなく私を見つめてくれた。そして名前を付けた時の君の微笑みは一生忘れられない」

 

 優しい笑顔で毛布に包まれたレーツェルを見つめる。


「私の魔力もはじかず、全て受け入れてくれた。元々レーツェルに全く無かったからか、一切拒絶無しに受け入れてくれた時、私はとても嬉しかったんだ」


 おでこをコツンと合わせてきた。


「あの時に私は、レーツェル、君に救われたんだ。それまでの私は人に迷惑をかけるだけの、それこそ『化け物』だった。ヴァイツェンがなんとか抑えてくれて、王子という身分だったからそこにいられたけど、平民だったら、忌み嫌われていただろうね」


 淡々と語るアルフォンスから目が離せない。


「私はねもう、レーツェルがいないと生きて行けないんだ。レーツェルが私の魔力を貰ってくれないと、身体の中に溜まりすぎて暴走するだろう。そうなると誰彼構わず攻撃するただの『化け物』になる」


 その告白に思わず呟いた。


「私がいないと……」


 アルフォンスはにっこり、とても優しい微笑みで


「そう、レーツェルがいないと私は生きていけない。レーツェル、君も私がいないとダメだろう?」


 その言葉に本心から頷いた。


「レーツェル、君と私はお互いが必要なんだ。私は君が、君は私が。二人で一つだ。別れるなんて考えられないし、許さない」

 

 ――――だから、と


「君が『化け物』と呼ばれる存在だと言うなら私も『化け物』だ。いくら君は『化け物』じゃない、と言っても心の奥底で他人とは違うんだからとくすぶるのなら『化け物』だと思ってもいい、ただ私も『化け物』だ。一人じゃない、二人だ。この国でたった二人だけの『特別』な『化け物』だ」


「……特別……?」

「そう。『化け物』だから悪いモノ、ではなく、この国を護る『特別』な『化け物』。いないと困るモノになろう。もうすでに精霊達にとってはレーツェルと私はいなくては困る存在になっていると思うよ」


「いないと困る存在……」


 アルフォンスの手がレーツェルの頬にふれながら


「そして精霊の加護がある我が国にとって、その精霊達に頼られる存在のレーツェルと私は我が国にとっていなくては困る存在だ。確かに普通の人間とは違うから『化け物』だと思われるかもしれない。でも一人じゃない、私がいる。精霊達もレーツェルの味方だ。それじゃダメか?」

 強くなれないか?と。


 涙が溢れてくる――――


 流れる涙をアルフォンスの指がすくう。

 

 レーツェルの頬をアルフォンスの両手が優しく包む。コツンとおでこを合わせて


「一緒に強くなろう、レーツェル」



 ―――――どうして


 どうしてこの人は私の一番欲しかった言葉をこうも簡単にくれるのだろう。



「……っう、う」

 目を一度強く瞑る。溜まっていた涙が一気に流れ出る。


 もう一度、今度は自分からアルフォンスの胸に縋りつく。

 アルフォンスもまた髪を優しく撫でてくれる。


 


 もう大丈夫だ、今度こそ大丈夫だ。レーツェルの心は決まった。



 



 ――――全てを話そう。







 

皆様のおかげで先月の目標が無事達成できました。  

今月も目標達成目指してがんばりますのでよろしくお願いいたします。


明日もどうにか更新できそうです。


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