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「許すつもりはないのだが、このままでは確実に押さえられないのも事実だ」
陛下が言うにはあれからあの男はポツポツと喋り始めたらしい。
アルフォンスにルージュナ侯爵との関係を探られ、隠しきれないと思ったのか観念したらしい。
だがあくまで口で言っているだけで、何も証拠はない。残してないらしい。うまいことやっている。
男が捕まって吐いても、知らぬ存ぜぬで通すつもりだろう。証拠がないとそれ以上追求もできない。
どうするれば、と思っているとゲルト様が
「証拠があれば、だとは思うが、それに関して捕まえた野盗の方の頭がレーツェルに言いたい事があるらしい。取引の続きを、と言ってるんだが、ここに連れてきてもいいか?」
皆、びっくりして、私の顔を見る。
「レーツェル、お前本当に何したんだ?」
と公爵が言ってくる。
……いや、別に何も……してないとは言えませんが……。取引の続きって何?もう解放するって約束で昨日終わったはずですが?
不思議な顔をしていると陛下が
「とりあえず話を聞こうか。レーツェルもいいね?」
「あ、はい」
わけがわからないので聞いた方が早い。
ゲルト様が一旦部屋から出ていく。
「レーツェル、心当たりは?」
陛下が聞いてくる。
「ない、と思うのですが。確かに昨日取引はしましたが、あの場で終了しましたし、それ以上は」
ないはずだ、とアルフォンスの方も見て確認してみる。アルフォンスも
「昨日、レーツェルは頭と仲間は助ける、という条件で取引して、その事に関しては彼らに話を聞いて今朝解放して終わったはずなんですが」
と、言っている。
一体なんだ?と思っていると、ノックの音が響き扉が開く。
ゲルト様が入ってきて、後ろから確かに昨日の野盗の頭が入ってきた。
昨日怪我したというかレーツェルがつけた傷は包帯が巻かれて治療されているみたいだ。
良かった、少し気にはなっていた。
男は部屋に入ってきて私以外の面々を見て頭をかく仕草を見せた。
「……嘘だろ……」
何だか溜息とともに言っている。
陛下が頭に向かって
「話を聞こうか?」
と言うと、ちょっと逡巡した様子だったがこちらを見て
「……俺なんかの言う事聞いてくれるのかよ?ってかこんな面子の所に何の拘束もせずに連れてきていいのか?」
と、言い出した。確かによく見ると何の拘束もしていない。手も足もどこも縛ったりもしていない。自由に動ける態勢だ。流石に剣は持たせてないが。
横にいたゲルト様が
「この面子だからだよ。昨日の今日で忘れちゃいねーだろ?この二人の前で変な事できるもんならやってみな」
と、私とアルフォンスの方をクイッと親指で指し示しながらそう言った。
「……そりゃあできねーけどよ。まあいいか、さっさと終わらすか」
と、こちらを向いてきた。
「すまんが俺は敬語なんて使えねぇから言葉遣いが悪いのは許してくれ。黒の姫さんよ」
あ、私のことか?姫じゃないけど、と思いつつ
「はい、何でしょう?」
「昨日襲ったことは悪かった。謝る。そんで仲間と俺を助けてくれた事に関しては感謝する」
「それが取引の条件でしたからお気になさらずに」
「しかし俺は仲間の人数を言っただけだ。あまりにも分が良すぎる」
一瞬意味がわからなかったが、こっちの分が悪かったと思っているのか。
「いえ、十分ですよ。そのおかげであちらと繋がっている男がわかったんですから。その見返りとしての解放ですし。それに怪我もさせてますので」
「いや、それじゃあこっちの気がすまねぇ」
「と、言われましても」
「だから、取引の続きだ。そちらは証拠がほしいんだろ?なんとか侯爵の」
皆の動きが止まる。
「……何かあるのですか?証拠が」
静かに聞いてみた、すると
「いま、はない。だが、これからなら作れる」
思わず訳がわからなくて眉間にしわがよる。陛下達も静かに二人の会話を聞いている。
「それはどういうこと?」
「侯爵にはまだ昨日の今日だし、あの男も捕まっているから詳しいことはまだ伝わってないだろう?だから男と連絡が取れないから、代わりには報酬を払えと言って来る。俺達がこっちに捕まった事も知らないだろうし」
確かにルージュナ侯爵にはまだ詳しい事は伝わってないだろう。
「その交渉時に俺と一緒に誰か、顔の知られてない、奴が来て、記録の道具で録ればいい。俺らを雇った事とかも誘導して認めさせればいいのだろう?」
確かにその通りだ。この11人の野盗を侯爵が雇ったと認めれば芋づる式に捕まえられそうだ。だが
「何故そこまで?」
今度は反対にそちらの方がリスクがありそうだが。
「……これは仲間全員が賛成した事だ。助けてくれたお礼にしたいそうだ。もちろん俺もだ」
それに、と続けてくる
「名前も聞いてない俺達のことを何も言わずに信用してくれた。それだけで十分だ。やらせてくれないか?」
そういえば名前知らない、と今更思った。それが顔に出てたのか、
「まず名乗るか。俺の名はザシャだ」
そう名乗った瞬間、ゲルト様とアルフォンス、陛下やカイル様までもがピクッとなったのがわかった。
自分もその名前に聞き覚えがあった。
「お前、『赤髪のザシャ』か?」
アルフォンスが身を乗り出してきた。
「知ってるなら話は早い。そう呼ばれてるみたいだな」
『赤髪のザシャ』
それはこの王国内ではかなり知られている野盗の頭の名前だ。
今まで一度も捕まっておらず、逃げる姿を見た者が赤い燃えるような髪の色だった、と言ったことからその名がついた。
まさかそんな大物だとは。なんでまたそんな大物が侯爵なんかに雇われていたのか。
不思議な顔をしているとザシャが
「まあ俺らももうちょっと疑ってかかればよかったんだが。ま、それでお嬢ちゃんに会えたから結果オーライなんかな」
「……本物か?」
ゲルト様が尋ねる。
「信じてもらうしかないね」
確かにまあ確かめようはない。
「まあ信じてもらったと仮定して。先程の話に戻るが今先に解放された仲間が侯爵と連絡を取っているはずだ。俺が戻って会いに行く手筈を整えているはずだ。会える時点であっちはほぼほぼ関わりを認めているようなもんだがな」
ザシャの話を皆が聞いている。
「で、会う時に記録できる道具とそれを使える奴を一緒に連れて行く、という段取りでどうだ?」
私ではわからないのでアルフォンスの方を向いて確認する。するとアルフォンスが
「それは願ってもない申し出なんだが、そちらはその条件でいいのか?」
「ああ。まあもしその仕事で認めてもらえたらだが、黒の姫さんよ」
ん、私?と思っていると
「良ければ今度から俺達を使ってもらえないか?」
はい?使う?どういうこと?訳のわからない顔をしていると、アルフォンスが代わりに
「それは、レーツェルに契約してくれ、と言っているのかな?」
「ま、そこまでではないが、何かあった時は遠慮なく使って欲しいだけだ。姫さんの頼み事なら優先で動く。それだけ覚えておいてくれれば」
………よく、わからない。何故そんな話になるのか。
「返事は今でなくていいからよ。とりあえずは侯爵の仕事を終わらせてからだな。そろそろ連絡取れているとは思うが、そちらからは誰が来る?」
アルフォンスが迷わず
「テオ、頼む」
「わかりました。繋ぐ事もしますよね?」
「ああ。記録装置はあるか?」
「はい。すぐに準備します」
じゃあちょっくら行ってくるからよ、とテオと一緒に部屋から出ていった。
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