72
「何を言えばいい?」
―――――よし、崩れた。
ここまでくればあともう一息だ。
「そうですね、あなたの仲間は何人ですか?」
「……言えば仲間は助けてくれるんだな?」
「正直におっしゃっていただければ。あなたも助けますよ」
にっこり微笑む。
「……俺を入れて11人だ」
予想通りの言葉が帰ってきた。
「ありがとうございます。では」
剣を一度下ろし、アルフォンス達の方を向く。
「カイル様、ちょっと手伝っていただけますか?」
?な顔をしているがこちらに向かってきてくれた。
「何だ?」
「あの男だと思うのですが、カイル様はどう思います?」
と、中程に座っている男に視線を移す。
「一致した」
「それは良かった。ではお願いが一つ」
「……止めても無駄だな?」
溜息と共に聞いてくる。
「はい、無駄です」
笑顔で返す。カイル様はアルフォンスの方を向き
「いいんだな?アルフォンス」
「私にはレーツェルを止める権力はないよ」
「わかった。レーツェル、何をすればいい?」
「あの男をここに引きずり出してもらえますか?」
流石にガタイのいい男を引きずり出すのはレーツェルには難しい。
カイル様はふぅと一息つき、諦めたようにレーツェルが指し示した男の襟首をつかみ引きずり出してきた。
他の11人から少し離して座らせる。ガタイはいいが先程からの野盗とレーツェルの会話を聞いていたせいか顔色がかなり悪くなっている。
レーツェルがその男の前に行く。横を向いて野盗のボスに向かって
「そちらの方々は約束通りお助けいたします。もう少しだけお付き合いくだされば解放いたしますのでお待ちください」
「………何故そいつだってわかった?」
ボスの男が問いかける。レーツェルが答える。クスッと笑って
「当てずっぽうではありませんよ。戦っている時の位置や格好など。あとはそこに座っている間の態度ですかね。元々一人だけ違うなと思っていましたし、あなたの言葉で確定しただけです」
こいつだけ最初からおかしいとは思っていた。顔もかなり布で隠しているし、一人だけ手袋もしている。戦っている時も自ら襲いかかってくることはせず、すきあらば逃げようとした、いかにも自分の痕跡を残さないようにしている動きだったのだ。
レーツェルの『殺気』で動けなかったため、今捕まってはいるのだが、そうでなければ多分捕まる前に逃げていただろう。
捕まってからもなるべく目立たないようにしていたつもりだろうが、レーツェルとボスの会話で「仲間」は助ける、と言った時から他の奴らより動揺がはげしいのに気がついた。ただでさえ目をつけていたため、一目瞭然だ。
その男に向き直して、剣を構え直す。
「では、あなたに聞きます。誰の命令ですか?」
先程と同じように顎先に剣先を近づける。
「…………」
無言だ。当たり前か。
レーツェルの瞳が光り、誰の目にも止まらない速さで剣が動いた。
一瞬で男の顔に巻き付いていた布がハラリと落ちる。皮膚や髪の毛は一切切れずに布だけが切れた。
横に座っている男達からヒッと小さい悲鳴が聞こえた。
レーツェルは気にせず、さらに剣先を男の額に近づける。
男の額から汗が流れているのがわかる。
「私、多分かなり怒っているんですよ。あまり怒りと言うものがわからないんですけど、この今の感情が怒りなんでしょうね」
レーツェルは微笑みながら淡々と話し続ける。先程の『竜化』の際に編み上げてあった髪の毛も解けて、長い髪が風になびいている。
「あなたの邪魔が入らなければ、もう少し早くお義姉様を連れて帰れたかもしれない。もう少し早く医者に見せられたかもしれない。もしその少しの差で何かあったら私はあなたを一切許す気はない」
男がレーツェルに圧倒されているのがわかる。こうなったレーツェルはその風貌も相まって、圧倒的に相手を抑えつける力がある。眼力だけでも凄いのに、殺気とはまた違う何かが発揮される。
「もう一度だけ聞く。誰に雇われた?」
低い、だがとても響く声がその場を支配する。
「…………」
無言。言う気はないのか、はたまた圧倒されて言えないのか。
皆が固唾を飲んで見ていたその瞬間、座っていた男が後ろに吹っ飛んで倒され、仰向けに寝る態勢になった。
レーツェルが男の肩辺りを蹴っ飛ばしたのだ。
流石にこれには見ていた者達全てが固まり、静まりかえった。
まさかドレス姿の細い女性が男性を蹴り倒すとは誰も思ってもみなかっただろう、アルフォンス達以外は。
さらにレーツェルは止まることはなかった。仰向けに寝ている形になった男の首に触れるか触れないかギリギリになるよう地面に剣をぶっ刺した、それも斜めに。
見ていた野盗達も悲鳴すら上げれなくなっている。
レーツェルは左手に持っていた短剣をすでに斜めに刺してある長剣と直角になるように地面に刺した。
男の首は長剣と短剣によってできて三角の中にある。手と足を縛られている状態ではまず動けない。少しでも動いたら頸動脈が切れるだろう。脱出は不可能に近い。
レーツェルが低い、冷たい声で告げる。
「言わないのでしたらもう結構です。あなたを生かしておく意味などない。あなたの身辺から勝手に探る」
「……そんなこと、できるわけ」
「ないと思いますか?私には味方がいるんですよ。本来ならこんなことを頼みたくはないのですが。精霊達に頼めばあなたの痕跡などすぐにわかる。あなたの家くらいすぐに特定しますよ。そうなれば中に入って探ることなどいくらでも方法はある。名前さえわかればなんとでも」
男が唾を飲み込む音が聞こえる。
「ですのであなたにはもう用はないのと一緒です。どうせこのまま喋らないのでしたら死刑になるのですから、私が下したってかまわないでしょう?」
でも、と続ける。
「このまま剣を下ろしてもいいけれども、それでは私のこの感情がおさまらないのです。お義姉様の痛みの分も苦しんでいただかないと」
「……な、何を」
男が聞くとレーツェルはそれこそ凄絶とも言える微笑みで
「何もしませんわ、これ以上」
「?どういう……」
「だから、このままの状態で私達は皆帰ります。そうですね、あと一時間もすれば日も落ち、ここは暗くなるでしょうね」
皆、レーツェルの言葉を静かに聞いている。
「夜は魔獣も出るでしょうね」
その一言が何を意味するのか。
手足を縛られてるだけでも動きが制限されるのに、さらに剣によってほぼ動けない状態だ。
そこに魔獣がやってきたら格好の餌食だろう。
「そう簡単に死ねると思わないでくださいね。苦しんで、苦しんでくださいね」
にっこり笑って
「恨むならあなたの雇い主ですよ。私を恨むのはお門違いですからね。まあ明日の朝には剣の回収に来ますからそれまで生きてましたら後は一思いにして差し上げましょうかね」
レーツェルが踵を返し、アルフォンス達の元に戻ろうとした時、男が叫んだ
「こ……この化け物が!」
レーツェルの足が止まった―――――
読んでいただきありがとうございます!
明日も更新できそうです。
評価、ブックマーク、よろしければポチッとお願いいたします!




