6
――それはどこからやってきたのか。
――いつの間にそこにいたのか。
最初に気づいたのはレーツェルかアルフォンスか。
何か、の気配を感じてレーツェルが振り向いた時には、そこ、にいた――
ワイバーンと呼ばれる飛竜だ。
先ほどの火蜥蜴とは比べものにならないくらいの、3メートルはあろうかと思われる大きさだ。
一体どうして?火蜥蜴の匂いに釣られた?アルフォンス殿下の匂いか?こんな近くに来るまで何故気づかなかった?
沢山の疑問が一瞬レーツェルの頭の中をよぎったが、考えている暇などない!とにかく動け!と本能的に頭から身体に指令が走る。
「皆下がって!中に入って!陛下と殿下を頼みます!」
剣を抜き、前に出て、ワイバーンを睨み構える。
「レーツェル!だめだ!お前も下がれ!」
「時間を稼ぎます!攻撃魔道士達を呼んでください!」
アルフォンスがレーツェルに駆け寄る
「だめだ!私が攻撃する!お前は下がれ!」
「だめなのは殿下です!まだ先ほどの怪我で漏れた魔力は戻ってないはずです!離れてください!」
確かに薬瓶の液体で体力は戻ったが魔力は完全ではない。レーツェルに誤魔化しはきかない。分かってはいるが、レーツェルを危険に晒す訳にもいかない!
葛藤しているアルフォンスの肩が後ろから引っ張られレーツェルから離される。テオだ。
「……何を!」
「何を、じゃないですよ!先ほども言われたでしょう?いまのあなたは護られる存在なんです!陛下が攻撃魔道士達を呼んでいます!すぐに来ます!それにここにいたら彼女の攻撃の邪魔になります!」
一気にテオがまくしたて、アルフォンスを引っ張っていく。
「……ありがとうございます、テオ様」
十分に離れたのを確認して、レーツェルは臨戦態勢に入る。息を整えて、さっきの火蜥蜴の時とは比べものにならない程の殺気のオーラを身に纏い、ワイバーンと対峙する。
誰も手出しはできない。自分の身体の2倍以上はあろうかという魔獣に対して一切怯まず立ち向かっていく少女。
中段の構えから八相の構えに切り替え、ワイバーンに一撃を繰り出す。
ワイバーンの左側から右側に掛けて斜めに剣傷が走る。火蜥蜴の様に一撃で倒せるわけはない。致命傷にはなってはないが傷をつけられてワイバーンも黙ってはいない。
レーツェルにむけて尾を振り上げて攻撃をする。直撃は避けたが、空気の振動による攻撃がレーツェルを襲う。
ドレスや頰に細かい傷がつく。いくつかの部分からうっすらだが血が滲み始める。
「レーツェル!」
「大丈夫です!」
アルフォンスの声に頬の流れる血をぬぐいながら答える。
もう一度構え直して攻撃態勢に入ったが先にワイバーンが仕掛けてきた。逃げるのが間に合わず、右足元にもろに食らった。
「……くっ…」
「レーツェル!!」
よろめくレーツェルにテオを振り払い駆け寄ろうとするアルフォンスが目に入る。
――来たらダメ!
動けず、叫ぼうとしたレーツェルに間髪入れずワイバーンが襲いかかる。
今までで1番大きな攻撃がワイバーンの口から放たれる。
――炎球だ!
こちらに向かっているアルフォンスが目に入る。このままだとアルフォンス殿下はその身を顧みず私の前に来る。
ダメだ!そんな事はさせない!
アルフォンス殿下は私が護る!
私が助ける!
―――私が、護る!
そう強く、強く思って、炎球に向かって行き、身体が炎にのまれそうになったとき、その場が眩しい光に包まれた。




