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 普段なら音はしないように歩くのだが、わざと大きな音を出して一歩二歩と踏み出す。


 カツンカツンと音が響く。流石に気づいたようで、ストリア家の三人がハッとこちらを向く。


「……あっ!」


 妹が声を出す。まずいと思ったのか顔をしかめている。何でもないように誤魔化せばいいものを。いかにも私に対して聞かれたくないことを言ったのがバレバレだ。


「御機嫌よう、ストリア子爵家の皆様。レーア様におかれましては先ほどはありがとうございました」


 こちらは聞こえてませんよ、な感じで言ってみましたがどう出るか。

 一番に動いたのはレーア様だった。お辞儀とともに

「こちらこそありがとうございます。楽しい時間でした」


 レーア様が話されるとこれ幸いと妹と母親はでは私達は戻ります、とそそくさと行ってしまった。


「先程の件、ご迷惑をおかけしてしまいましたか?もしそうならばお詫びいたします」

 と頭を下げようとすると

「お止めください!何も迷惑など。今程の妹の態度の方がよっぽどご迷惑を!」


「大丈夫です。私など今までどちらかというと忌み嫌われる存在ですから。今でも、かも知れませんが」

 この色ですから、とクスッと笑って言うと

「……シュヴァルツ様はお強いですね。私などとは違います」

 レーア様がこちらを見て言ってきた。

「どうぞ、レーツェル、と呼んで頂ければ。レーア様と呼んでも?」

「も、もちろんです!」


 レーア様は姿勢よく答えてくれた。


「もしよろしければ少しお話させて頂いてもよろしいですか?」

 ご迷惑でなければ、と尋ねると

「はい、大丈夫ですが、何故」

 私?と不思議そうな顔をなさっているので

「是非仲良くしたいと思いまして」

「わ、私なんてどちらかというと引きこもりで仲良くしていただいてもレーツェル様のお役に立つことなんて」

「いえいえ、そんな謙遜なさらないでください。それこそ多分今日このお茶会に来ている令嬢方の中で一番私にとって重要かと。ねぇみんな?」

「え?」

 私の掛け声の合図で精霊達が一斉に集まってきた。もちろんレーア様の周りにも沢山。


「わ、わ!凄い、何でこんなに…」

 レーア様が声を出す。


 私の後ろにいるアメリ様はもちろん視えてないので?な顔をしている。私は確信して


「レーア様、『視えて』ますよね?」


 その言葉を聞き、ハッと、しまった、というような顔をしたレーア様がそこにいた。


「…え、あ、何のこと…」


「この子達の事です。私には隠さないで結構ですよ」

 と、手の平に乗せたり、肩にいる子を撫でたりしながら言ってみた。すると

「……あ、大丈夫なんですか……?レーツェル様も?」

 視えてるんですか?と尋ねてきたので


「視えてますし、私、この子達の王、らしいんですよ」

 と、明るく微笑んで言ってみた。

「あ、そうですね、『竜王』ですものね……」

 レーア様の肩の力が抜けるのがわかった。


「はい、ですのでお仲間です」

 と人差し指を口元に持っていき、内緒のポーズで言った。かなり安心してくれたようだ。


 さらに聞いてみた。


「ちなみにレーア様は小さい頃から視えたのですか?きちんとした人型で視えているのですか?」

「あ、はい、人型に視えますが……かわいい感じですよね。あと小さい時には既に。物心ついた時には視えてました。ただ」

 ちょっと顔が曇る。

「ただ?」

「ただ、小さい時には視える事を両親には言っていたのですが、信じてもらえなくて、気味悪がられて」

 最近は誰にも言っていませんでした、と。


 ああだからさっきの妹の物言いなのか。でも人型に視えるということはかなりの魔力持ちのはずである。

下手したら隊長クラス以上と言うことになる。


「レーア様、ちょっとお伺いしますが、今まで魔力とか魔法の訓練とか受けた事ありますか?」

 それだけの魔力持ちは魔道士部門にもそういないだろう。

 「……いえ。通常の生活魔法は習いましたが、それだけです。その事が何か?」


 ――――もったいない。


 まあ、知らない人だと子供がいきなり精霊が視えると言っても信じないだろうし。自分が視えないのだから。そして貴族の令嬢なら尚更だ。魔道士の家系ならいざしらず、普通の家ならプラスにはならないから隠すだろう。


「この子達が人型に視えると言う事自体、凄いことでして。多分我が国の軍の魔道士部門にもそんなにいないと思います」

「え?!」

 どうやら自分の魔力を分かってないようだ。

「もしレーア様さえよろしければ是非一度アルフォンス殿下と会っていただきたいですわ」

「え?アルフォンス殿下と?……あ、魔道士部門の」

「はい、我が国の魔道士部門のトップです」

「で、でも私、今まで一度も訓練なんて」

「訓練なんて何時でも始められます。要は素質があるか、です。魔力がないと訓練しても意味ないですからね。レーア様はその点は間違いなくクリアしていますし」

 レーア様はポカーンとしている。それもそうだ。いきなりすぎるか。


「わ、私今まで、家族に気味悪がられてて…このまま隠していかなきゃと」

 思っていて、と続ける。


 やっぱりそうか。先程の妹と母の様子だとそうかとは思っていたが。


「確かに女性だと後々のことを考えて軍に入るなんて、と思われるかもしれませんし、レーア様がこのまま隠していく、と決められたのでしたら、その事に関しては私は何も申しませんし、アルフォンス殿下に話すつもりもこざいません。後ろのアメリ様も話す事はありません」

 安心してください、と伝える。

「家の事もありますし、ご家族の事も。無理強いはいたしません。ただ女性だから、と言って無理に抑えられて、不自由なのであればいくらでも手助けはいたします」

 アメリ様が手を挙げて

「ちょっとよろしいですか?」

 どうぞと促す。

「私も家名に囚われていた所をレーツェル様とアルフォンス殿下に助けていただきました。感謝しきれないほどです。先程の妹様を見ましたが私の家族と同じような気がしました。もしレーア様が一歩でも踏み出したいようでしたらレーツェル様とアルフォンス殿下が必ず良いようにしてくれますので。心配なさることはないかと思います」

 と、付け加えてくれた。

 

「わ、私でも役に立つことが……」

 あるのですか……?と消え入りそうな声が聞こえる。

「役に立ちますし、大歓迎だと思いますよ」


 何かを考えて、じっと下を向いている。


「すぐにどうこうは難しいと思いますし、しばらく考えてからで結構ですよ。そうですね……」


 精霊達に訳を話す。一人の子が前に飛んできた。その子を手に乗せて、レーア様の肩に乗せる。

「この子がしばらく一緒にいるそうです。もし私に連絡する時はこの子に話してかけてください。そうしたらすぐに伝わりますから」

 そうしたら私名でもアルフォンス名でも使って絶対家族の方が勝手に断れないようにお呼び出しいたしますから、と。

 

「あ、そんな事が…」

「はい、できますので。お家のことは考えずに、自分が何をしたいか?を考えてみてくださいね」

「……自分が何をしたいかを」

「はい、後はこちらにお任せくださいませ」


 しばらく考えていたようだ。


「とりあえず、お庭に戻りましょうか」 


 三人で歩き出した。






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